「カーボンニュートラルビジョン2050」の推進
当社は、2021年3月の中長期経営計画のなかで、気候変動問題への取り組みを経営の最重要課題と位置付け、当社独自の取り組みとして「日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050」を公表しました。
当社は、2050年カーボンニュートラルの実現にチャレンジし、「社会全体のCO2排出量削減に寄与する高機能鋼材とソリューションの提供」「鉄鋼製造プロセスの脱炭素化によるカーボンニュートラルスチールの提供」という2つの価値を提供することで、サプライチェーンでのCO2削減の実現を目指します。
関連資料
「カーボンニュートラルビジョン2050」が目指す2つの価値の提供
2050年カーボンニュートラル社会実現という野心的な政府方針に賛同し、
2021年3月の中長期経営計画のなかで「カーボンニュートラルビジョン2050」を公表
鉄鋼製造プロセスの脱炭素化によるカーボンニュートラルスチールの提供
当社は、2030年にCO2総排出量を対2013年比30%削減するというターゲット、および2050年カーボンニュートラルを目指すというビジョンを掲げたCO2排出削減シナリオを策定し、カーボンニュートラル社会の実現に向けて超革新技術の他国に先駆けた開発・実機化に向け取り組んでいます。
この計画はグローバル同業他社と比較しても野心的、かつ日本政府の計画に応分の貢献を果たす計画であり、グリーンイノベーション基金*の補助を受けて開発・実機化のロードマップの具体化を進めています。
* グリーン成長戦略の実行計画の重点分野において野心的な2030年目標(CO2削減量等)を目指すプロジェクトを実施する企業等を支援する、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の研究開発委託・助成事業。
2030年ターゲット
CO2総排出量30%削減の実現
2050年ビジョン
カーボンニュートラルを目指す
【シナリオ範囲】
国内
Scope1+2 (原料受入~製品出荷 + 購入電力製造時CO2)
※ 日本コークス工業およびサンソセンターを含む。
カーボンニュートラル鉄鋼生産プロセス(コンセプト)
現在の高炉・転炉プロセスのなかで、石炭(コークス)は、①還元材、②熱源、 ③高温でも固体のままで原料を支え炉内での通気性を維持する、という役割で活用していますが、還元反応の際に不可避的にCO2を発生させます。
このため、私たちはプロセスを抜本的に見直し、①高炉水素還元(既存高炉に水素を吹込み炭素の一部を代替) ②水素による還元鉄製造(直接還元炉での水素による還元により固体還元鉄を製造) ③大型電炉での高級鋼製造(電炉の生産性向上と合わせ、現状、直接還元鉄・鉄スクラップ原料では製造できない高級鋼を製造)の3つの超革新的技術の開発・実機化を経営の最重要課題として取り組んでおり、電気溶融炉による直接還元鉄の高効率溶解等技術の開発も開始しています。
■当社が挑戦する超革新技術
■政策により整備されるべき3つの外部条件
※スマートフォンでは、図を拡大してご利用ください。
鉄鋼製造プロセスの脱炭素化
大型電炉での高級鋼製造
2022年10月より瀬戸内製鉄所広畑地区に新設した電炉により世界初となる電炉一貫でのハイグレード電磁鋼板の製造・供給を開始しています。高炉プロセスから電炉プロセスへの転換についても、九州製鉄所八幡地区および瀬戸内製鉄所広畑地区を候補地として本格検討を開始しています。技術開発本部波崎研究開発センター(茨城県神栖市)での小型試験電炉(10トン)は、2024年度下期からの試験に向け建設を進めています。
高炉水素還元
当社を含む日本の高炉3社等が、製鉄所内で発生する水素を主成分とするガスで高炉における還元材の炭素を代替するCOURSE50高炉の開発に取り組み、既にCOURSE50試験炉(12m3)においてCO2排出を削減できる技術を確認しています。
当社は、2023年2月に試験炉の約400倍のスケールとなる稼働中の大型高炉である東日本製鉄所君津地区第2高炉を用いた実証試験を行うことを決定し、現在、2026年度からの試験開始に向けて設備の導入を進めています。上記試験と並行して、加熱した水素を用いて更にCO2を削減するSuper COURSE50技術の開発に向けて、2022年5月以降、COURSE50試験炉を改造し技術開発に取り組んでいます。これまでに、2023年11~12月の試験で世界最高水準の更新となる、高炉本体からのCO2排出量33%の削減を確認しており、2024年度は40%以上の削減を目標に実証試験を進めています。今後、2040年頃までに大型高炉でのSuper COURSE50技術(CO2排出量50%以上削減)の確立に向け取り組んでいきます。
水素による還元鉄製造
当社波崎研究開発センターに小型試験還元炉の建設を開始しており、2025年度から実証試験を開始します。また、低品位鉄鉱石の水素直接還元・電気溶融炉・転炉一貫プロセスによる、高炉法プロセスを代替し得る生産効率の実現のため、「直接還元鉄を活用した電気溶融炉による高効率溶解等技術」の開発にも着手しています。
その上で2040年までに、低品位鉄鉱石の活用、還元材の天然ガスから水素への転換等の課題を解決し、オーストラリア等の低品位鉄鉱石を原料とした水素直接還元炉の実装化技術の確立を目指します。
※スマートフォンでは、図を拡大してご利用ください。
「カーボンニュートラルビジョン2050」TOPICS
「COURSE50」プロジェクト*1「Super COURSE50」プロジェクト*2
COURSE50は、大量の水素供給基盤が存在しない現状において水素による鉄鋼製造を一部実現するため、2008年から2022年まで取り組んだ技術開発です。
東日本製鉄所君津地区に建設した12m3の試験高炉において、製鉄所内で発生した水素系の副生ガス(コークス炉ガス)に含まれる水素等を用いた高炉水素還元による高炉からのCO2排出量の10%以上削減と、高炉ガスからのCO2分離・回収技術による20%削減を合わせた約30%削減を目標とした試験を行い、前者の高炉水素還元ではCO2の10%以上削減を実証し、後者のCO2分離・回収についても、化学吸収法による省エネルギー型の技術を開発しCO2産業分野で既に実機化済みです。
Super COURSE50は、十分な水素供給の社会基盤ができる時代を見据え、製鉄所外より購入した水素を加熱して使用することで高炉内の熱バランスを維持し、更なるCO2削減(50%以上の削減)を目指す技術で、GI基金事業のプロジェクトとして開発に取り組んでいます。
2022年5月より試験を開始し、世界最高水準となる高炉本体からのCO2排出量22%削減を確認する等、着実に開発を進めてきました。
更に2023年11月から12月に実施した試験では、世界最高水準の更新となる高炉本体からのCO2排出量33%の削減を確認し、更に2024年度は40%以上の削減を目標に実証試験を進めています。
出典元:NEDO 製鉄プロセスにおける水素活用プロジェクト
*1 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業。
*2 NEDOの研究開発委託・助成事業「グリーンイノベーション基金事業/製鉄プロセスにおける水素活用プロジェクト」
直接還元鉄を活用した電気溶融炉による高効率溶解等技術開発(GI基金事業)
当社は、GI基金事業「製鉄プロセスにおける水素活用プロジェクト」の新たなテーマとして採択された、電気溶融炉を用いた水素還元製鉄技術の研究開発に着手しました。
電気溶融炉は、高炉と同様の連続操業による出銑と、スラグ連続排出による不純物除去が可能な構造であることから、水素直接還元から電気溶融炉、転炉に至る一貫プロセスにおいて、低品位の鉄鉱石を使用しても高品質と高生産性を両立できる製鉄プロセスとなる可能性があります。
そして低品位の鉄鉱石を直接還元する技術を確立することにより、CO2排出量の削減を目指します。
新たなカーボンニュートラル研究開発の拠点「Hydreams®」
当社はカーボンニュートラル実現にかかわる研究開発を加速するために、新たな研究設備を波崎研究開発センター(茨城県神栖市)に建設中です。
拠点の名称「Hydreams®(ハイドリームズ)」は、Hydrogen Direct Reduced Ironmaking and Electric Arc Multi-purpose furnaces for Steelmaking(水素直接還元製鉄・電気アーク製鋼用多目的炉)から名付けられました。
Hydreams®では、大型電炉とその原料となる還元鉄生産の技術開発を行うため、現在、小型試験還元炉や小型試験電炉を建設しています。
小型試験電炉は2024年度下期より、小型試験還元炉は2025年度より運用を開始する予定です。
出典元:NEDO 製鉄プロセスにおける水素活用プロジェクト
鉄鋼業のカーボンニュートラル化の3つの課題
鉄鋼業のカーボンニュートラル化には、技術開発、投資回収の予見性、インフラにおいて特有の3つの課題があり、これらを同時並行的に克服していくことが必要です。
技術開発~超革新技術開発の必要性
鉄鋼業のサプライチェーンで発生するCO2の大部分は、鉄鋼生産プロセス自体(Scope1)で発生しており、その中でも鉄鉱石・スクラップ等の原料から還元・溶解・精錬までを行う上工程で大部分が発生しています。
鉄鋼業においては、電力業界における再生可能エネルギーや原子力による発電、自動車産業における電動車のような、抜本的な脱炭素化のための既存の技術が存在しないため、鉄鋼生産プロセスのカーボンニュートラル化を実現するためには、鉄鉱石の還元材として炭素のかわりに水素を用いる超革新技術の開発が必要です。
当社は、「高炉水素還元」「水素による還元鉄製造」「大型電炉での高級鋼製造」の3つの超革新技術の開発することでこれらの困難な技術的課題を解決し、カーボンニュートラル鉄鋼生産プロセスの実現に向けて取り組んでいます。
投資回収の予見性
カーボンニュートラル鉄鋼生産プロセスを実現する超革新技術の開発と実機化には、巨額の研究開発費と設備投資が必要となります。現時点では、当社の鉄鋼生産プロセスのカーボンニュートラル化のためには、2050年までの間に5,000億円以上の研究開発費と、4~5兆円以上の実機化設備投資が必要になると見込んでいます。また従来の生産プロセスに比べて、操業コストも上昇します。
研究開発費に対しては、既にGI基金による政府支援を受けることも決まっており、当社は3つの超革新技術の実機化技術を世界に先駆けて開発するべく、全力で取り組んでいます。既に技術シーズの発掘をすすめ、大幅なコストアップを極力抑制する技術開発を計画化しており、試験結果も順調に前進しています。
一方、実機化設備投資については、実行判断にあたって投資回収の予見性が必要です。予見性を確保するためには、「グリーン鋼材の市場形成」と、「政府の設備投資・操業コスト上昇に対する十分な支援」が必要です。
インフラ~エネルギーインフラ整備
カーボンニュートラル鉄鋼生産プロセスには、大量の水素と電力が必要であり、これらの水素や電力はCO2を発生させずつくられたグリーン水素・グリーン電力である必要があります。また、3つの超革新技術によっても一部発生が残るCO2についてはCCUS(Carbon Capture and Utilization and Storage)によって物理的にオフセットする必要があります。
当社は、「グリーン水素・グリーン電力の安価で安定的な供給」と「CCUSの社会実装」とを、カーボンニュートラル鉄鋼生産プロセスに必要な「政府によって整備されるべき外部条件」と位置づけ、政府関係機関に対して働きかけています。
3つの課題の克服に向けた政策提言・業界活動
鉄鋼業におけるカーボンニュートラル実現は、鉄鋼メーカーのチャレンジだけで成し遂げられるものではありません。産業の国際競争力とカーボンニュートラルの双方を実現するための政策パッケージや、財政面を含む強力かつ継続的な支援を含めた国家戦略としての方針に基づき、社会との連携のもとで国を挙げて取り組むべき国家的課題です。
こうした政策を実現するため、当社はあらゆる機会を活用し、パリ協定を踏まえたわが国の気候変動対策やエネルギー政策に関する様々な提言を行うとともに、経済団体・業界団体を通じた活動にも主体的に関与・貢献していきます。