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企業情報「メッセージ」代表取締役社長:橋本 英二

これまでの収益力回復への取り組み

2019年4月の社長就任以来、収益力の回復を第一優先課題として、ハード・ソフト両面から取り組んできました。2020年度は、上期はコロナ禍により大幅な需要減となったことから赤字に終わりましたが、下期は需要の回復とともに、諸対策の効果により黒字へと大きく好転しました。2021年度は原料を中心に大幅なコスト高となり、また、下期には半導体不足の影響による自動車向けを中心とする大きな需要減となる等、大変厳しい事業環境でした。特に、中核事業である本体国内製鉄事業においては、2012年の経営統合後に過去最高益となった2014年度に比べ、粗鋼生産量は4,800万トンから、3,900万トン以下へと1,000万トン近く減少しました。このようななか、これまでの諸対策の効果により、2021年度は2014年度の過去最高利益を大きく更新することができました。当社の収益力は構造的に強化されており、V字回復を宣言できるところまできたと評価しています(図1)。

最大の課題であった本体国内製鉄事業において、商品と設備の選択と集中の徹底、注文構成の高度化、残す設備の新鋭化を実行し、集中生産するという方針のもと、過去に類を見ない大規模な構造改革を前倒しで実行しました。また、高炉4基を休止し、一貫能力を大きく絞り込み、余剰能力を削減したことから、注文選択が可能となり、積年の課題であった紐付き価格の是正を進めることができました(図2)。以上の生産・販売両面の抜本策の実行により、事業環境が悪化したなかにおいても、2014年度を上回る利益を上げることができました。また、海外事業においても、選択と集中を徹底し、不採算事業からの撤退を完了しました。確実に需要が伸びる市場、あるいは、当社の技術・商品が活きる分野に集中することで、海外事業の収益は大きく拡大しました。更に、原料高を背景に原料権益も拡大し、海外事業との合算で、本体国内製鉄事業を上回る利益となっています。内外グローバルでの本体製鉄事業の収益力が大きく改善しました。グループ会社も鉄・非鉄ともに収益力の強化が着実に進展しています(図3)。

将来目標である連結事業利益1兆円へ向け、まずは環境に左右されることなく、6,000億円レベルの利益を着実に確保できる事業構造の確立を目指していきます。中核となる本体国内製鉄事業において、変動費ミニマムでの安定生産力の再構築と、紐付き価格における適正マージンの維持・確保が引き続き最大の課題であり、今後も取り組みを進めていきます。

※お客様の注文内容に応じて鋼材を生産し、販売を行う際の価格。

図1 連結事業利益・単独粗鋼生産量推移

図1 連結事業利益・単独粗鋼生産量推移

図3 実力ベース事業利益の構成

図3 実力ベース事業利益の構成

図2 生産設備構造対策進捗

図2 生産設備構造対策進捗

中長期経営計画の進捗

製鉄事業の足元および中長期的な見通しと当社の取り組み

2022年度は、中国の経済成長の鈍化、半導体関連を中心とした供給制約、グリーンフレーションを背景としたエネルギー・資源価格の高騰という従来からのリスクに加え、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻長期化、円安の急激な進行による貿易収支の悪化等、事業環境はかつてなく厳しいものとなっています。極めて不透明な環境下にあるものの、当社としてはトータルマネジメント力を一段と強化し、これまで進めてきた諸対策の効果を最大限発揮していくことで、2021年度同様、高水準の事業利益の実現を目指していきます。

中長期的な見通しとしては、国内の鉄鋼需要は、人口減少・高齢化やお客様の海外現地生産拡大等に伴い、引き続き減少していくことが想定されます。また、自国第一主義の拡大・進展によるグローバルサプライチェーンの見直しや、製造業における地産地消・自国産化の傾向が、新型コロナウイルスの影響で加速し、グローバル市場の分断が進展することが懸念されます。また、世界の粗鋼生産量の5割強を占める中国での需要の頭打ち等により、海外市場における競争が一層激化することが想定されます。

しかしながら、長期的な観点からは、インドも含めたアジア地域を中心に世界の鉄鋼需要は引き続き着実に伸びることが期待されます。また、世界的なカーボンニュートラル化に向けた潮流を受け、高級鋼の需要は今後大幅に拡大していくことが想定されます。当社が保有する技術力・商品力を活かした製品を提供することにより、社会全体のCO2排出量削減に寄与するとともに、拡大する需要を着実に捕捉し、鉄鋼業におけるリーディングカンパニーとしての地位確立を目指していきます。

中長期経営計画4つの柱
  • 国内製鉄事業の再構築とグループ経営の強化

    「戦略商品への積極投資による注文構成の高度化」、「技術力を確実に収益に結びつけるための設備新鋭化」、「商品と設備の取捨選択による生産体制のスリム化・効率化」を基本方針として、国内製鉄事業の最適生産体制を構築するとともに、競合他社を凌駕するコスト競争力の再構築と適正マージンの確保によって収益基盤の強化に取り組んでいます(図4)。

    生産設備構造対策については、瀬戸内製鉄所呉地区の鉄源工程、関西製鉄所和歌山地区の鉄源1系列、名古屋製鉄所の厚板ライン、東日本製鉄所君津地区の連続鋳造ライン・大形ライン・UO鋼管ライン等を休止し、競争力あるラインへ生産集約しました。これらの構造対策による2021年度の効果発揮額は200億円(生産設備構造対策公表後の累計550億円/目標1,500億円)となりました。更に、戦略商品への積極投資により注文構成を高度化するとともに、名古屋製鉄所の第3高炉改修、電磁鋼板生産能力・品質向上対策の投資等も実行しました。

    今後も、生産設備構造対策の完遂に加え、世界の鋼材市場の需要面・供給面の変化を見据えた臨機応変な対応(「業務サイクル短縮化」)、ベース操業実力の着実な向上(「操業・設備安定化の取り組み継続によるコスト低減」、「操業効率の更なる改善による変動費低減」等)、紐付き価格の改善にも取り組んでいきます。

  • 海外事業の深化・拡充

    海外事業については、選択と集中を進めることにより、進化・拡充してきました。具体的な施策としては、将来的なグローバル粗鋼1億トン・連結事業利益1兆円の体制構築に向けて、タイで唯一、電炉から熱延工程までの一貫製造設備を有する鉄鋼会社のG Steel Public Company LimitedおよびG J Steel Public Company Limitedを買収・子会社化しました。また、インドにおいては、ArcelorMittal Nippon Steel India Limitedの能力拡張を推進する等、海外市場における需要地での一貫生産体制拡大を目指しています。これらの取り組みにより、海外事業の連結事業利益は過去最高収益を大きく更新する水準を達成しており、これらの点が、中長期経営計画の初年度である2021年度において、計画を上回る収益につながったものと評価しています(図5)。

    図4 最適生産体制構築と注文構成高度化

    図4 最適生産体制構築と注文構成高度化

    図5 海外事業連結事業利益貢献額推移

    図5 海外事業連結事業利益貢献額推移

  • カーボンニュートラルへの挑戦

    カーボンニュートラルについては、経営の最重要課題として積極的に取り組んでいきます。具体的には、高機能鋼材・ソリューションの提供による社会全体のCO2排出量削減への貢献と、3つの超革新的技術の開発(①高炉水素還元、②100%水素直接還元プロセス、③大型電炉での高級鋼製造)による鉄鋼製造プロセスの脱炭素化の両輪で進めていきます。当社は、わが国の目標と整合し、かつ、世界の有力鉄鋼メーカーのなかでも最も野心的な目標を掲げ、2030年に2013年対比30%のCO2排出削減、2050年のカーボンニュートラルを目指していきます(図6)。副社長をヘッドとする推進組織を設置し、政府のグリーンイノベーション基金の活用を含めて具体策を鋭意検討中であり、2023年よりカーボンニュートラルスチールの供給を開始する予定です。

    カーボンニュートラルは、鉄鋼業界のチャレンジだけでは実現できません。研究開発や設備実装に対する政府の支援、水素供給インフラの確立、カーボンフリー電源の実現、莫大なコストを社会全体で負担する仕組みの構築等が前提となり、多方面との緊密な連携が必要となります。当社としては、これらの実現に向けた提言、要望を引き続き様々な場で行っていきます。

    図6 当社のCO2排出削減の日本政府総合計画への貢献

    図6 当社のCO2排出削減の日本政府総合計画への貢献

  • デジタルトランスフォーメーション戦略の推進

    デジタルトランスフォーメーションについても、世界鉄鋼業におけるデジタル先進企業を目指し、現在取り組みを加速させているところです。当社が保有する膨大かつ高度なデータと、デジタル技術を駆使することにより、生産や業務プロセスを改革し、経営レベルから現場第一線に至るまでの意思決定の迅速化と課題解決力の向上を図っていきます。

おわりに

当社グループの企業理念には、常に世界最高の技術とものづくりの力を追求し、優れた製品・サービスの提供を通じて社会の発展に貢献する旨を定めています。これは当社グループのサステナビリティの考え方そのものであり、企業にとってサステナビリティ課題に取り組むことは、自らの存立・成長を支える基盤であるとともに、最も重要な課題の一つであると認識しています。当社は、サステナビリティ課題におけるマテリアリティ(重要課題)をKPIに基づいて実行フォローすることで取り組みを確実に推進し、SDGs達成への貢献と企業価値の向上に努め、サステナブルな世界の実現に向けて引き続き貢献していきたいと考えています。

ステークホルダーの皆様のご理解とご支援をこれまでと同様に賜りますよう、お願い申しあげます。

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