革新的技術開発によるCO2削減

カーボンニュートラル生産プロセス実現の技術的課題

自然界において鉄は、酸化された鉄鉱石として存在しています。よって鉄鋼製品をつくるためには、鉄鉱石から酸素を除去する還元が必要となり、これまで石炭等の炭素を用いた高炉・転炉プロセスで還元を行ってきました。

このプロセスのなかで、石炭(コークス)は、①還元材、②熱源、③高温でも固体のままで原料を支え炉内での通気性を維持する、といった役割で鉄鉱石からの連続的かつ効率的な製鉄に活用されてきましたが、還元反応の際に不可避的にCO2を発生させます。

このため、私たちはこのプロセスを抜本的に見直し、還元材の石炭(コークス)を水素で代替し還元時の発生物をH2Oとする事でCO2排出量を削減します。

ただし、水素還元は吸熱反応であり、炉内温度低下により反応が持続しない、鉄が溶融しない、という課題が生じます。これらの課題に対し私たちは水素還元製鉄の実現のため、①水素(可燃性気体)の高温加熱、②炉内のガス流れの確保、③追加的な溶融プロセス、④効率的量産のための大型化、という超革新技術の開発にチャレンジします。

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炭素還元と水素還元の違い

炭素還元と水素還元の違い

超革新技術開発へのチャレンジ

(1)高炉水素還元

「高炉水素還元」については、当社を含む日本の高炉3社等が、製鉄所内で発生する水素を主成分とするガスで高炉における還元材の炭素を代替するCOURSE50高炉の開発に取り組み、既にCOURSE50試験炉(12m3)においてCO2を削減できる技術を確認しています。

当社は、2023年2月に試験炉の約400倍のスケールとなる稼働中の大型高炉である君津地区第2高炉を用いた実証試験を行うことを決定し、現在、2026年1月からの試験開始に向けて設備の導入を進めています。

上記試験と並行して、加熱した水素を用いて更にCO2を削減するSuper COURSE50技術の開発に向けて、2022年5月以降、COURSE50試験炉を改造し技術開発に取り組んでいます。

これまでの試験において、高炉本体からのCO2排出量の22%削減効果を確認し、2023年内を目途に30%以上の削減を目指した試験を予定しています。今後、更なるCO2排出量削減と各種技術開発に向けて実証試験を進め、大型高炉でのSuper COURSE50技術(CO2排出量50%以上削減)確立の早期化に取り組んでいきます。

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「COURSE50」プロジェクト*1「 Super COURSE50」プロジェクト*2

COURSE50は、大量水素供給の社会基盤が存在しない現状においても水素による鉄鋼製造を一部実現するため、製鉄所内で発生し現在は加熱設備等で利用されている副生ガスを高炉に回すことにより、高炉に投入する炭素量を減らす技術です。

水素系ガスを用いた鉄鉱石還元技術による高炉からのCO2排出量10%削減と、高炉ガスからのCO2分離・回収技術による20%削減を合わせ、30%削減を目標に2008年から2021年まで取り組み、前者の水素を一部活用した還元技術について、東日本製鉄所君津地区に建設した12m3の試験高炉により10%削減を実証しました。後者については、化学吸収法による高性能なCO2分離・回収技術を開発し、CO2産業用途に実機化済みです。

更にカーボンニュートラルビジョンの実現に向けて、十分な水素供給の社会基盤ができる時代を見据えて、製鉄所外から水素を購入して更に高炉への水素吹込み量を増やして水素還元を最大化し、高炉に投入する炭素量を最小化するSuper COURSE50に、グリーンイノベーション基金事業のプロジェクトとして開発に取り組んでいます。

*1 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業。
*2 NEDOの研究開発委託・助成事業「グリーンイノベーション基金事業/製鉄プロセスにおける水素活用プロジェクト」

* NEDO・日本鉄鋼連盟 COURSE50

(2)大型電炉での高級鋼製造

「大型電炉での高級鋼製造」については、2022年10月より瀬戸内製鉄所広畑地区に新設した電炉による商業運転を開始し世界初となる電炉一貫でのハイグレード電磁鋼板の製造・供給を可能としております。高炉プロセスから電炉プロセスへの転換についても、九州製鉄所八幡地区および瀬戸内製鉄所広畑地区を候補地として本格検討を開始することとしています。技術開発本部波崎研究開発センター(茨城県神栖市)に小型電気炉(10トン)を設置し、2024年度から試験を開始します。

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(3)水素による還元鉄製造

水素による還元鉄製造では、還元材を100%水素とすることで還元プロセスからのCO2発生のゼロ化を目指します。ただし、このプロセスから得られるものは固体の還元鉄のため、高炉、電炉等の次工程で溶融、脈石成分の分離を行う必要があります。

現在実機化されている直接還元法の大部分は粉化、固着しにくい高品位鉄鉱石を使用していますが、それらは鉄鉱石流通量の約1割と限定的であるため、低品位鉱石を使いこなすという課題があります。また還元材としてメタン(天然ガス)を使用していますが、メタンに含まれる炭素由来のCO2が発生するため、100%水素直接還元プロセスでは還元材の100%水素化を目指します。ただし、水素による還元は吸熱反応であるため、還元反応を進行させるために熱供給する必要があることに加え、シャフト炉を利用する場合、原料ペレットが粉化したり、逆に還元が進むと還元鉄同士の固着が起こりやすいといったハードルの高い技術課題があります。

このため、当社はグリーンイノベーション基金事業として、当社波崎研究開発センターに小型試験炉を設置し、2025年度から実証試験を開始します。その上で2050年までに、低品位鉄鉱石の活用、還元材の天然ガスから水素への転換等の課題を解決し、オーストラリア等の低品位の鉄鉱石を原料とした水素直接還元炉の実機化を目指します。

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水素の安定調達に向けた取り組み

当社は、来るべき水素社会に向け、将来当社がわが国有数の水素ユーザーとなる可能性が十分にあること(当社でカーボンニュートラルのために必要となる水素量は700万t/年を超えると想定)、他の産業ニーズ以上に安価な水素価格の実現が必要であること*、一方で当社は、水素インフラ用鋼材の主たる供給者でもあること等の様々な観点から、強い当事者意識をもって関与しています。

このため、経済産業省・資源エネルギー庁が推進する各種水素関連協議会や、エネルギー・自動車・化学等の水素関連産業、各種団体を含めた横断的ネットワークへ参画し、必要に応じて個社のみならず業界全体として制度設計等に取り組むことも念頭に置いて活動しています。

合わせて海外における水素調達についても、供給可能性のある海外資源メジャー等、多様なソースへのアクセスを検討しています。

*原料炭と等価な水素コスト≒約8円/Nm3に対し、2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略では2050年20円/Nm3程度以下の目標。

電力の低炭素化に向けた取り組み

当社では使用電力の89%を自家発電しており、その内75%を排熱および副生ガス等の所内発生エネルギーにより賄っていますが、外部補助燃料としてLNG・石油・石炭等も使用しています。このため、今後、電力構造の低炭素化に向け、非効率石炭火力の全廃、副生ガス火力の高効率化とCCUS活用、外部補助燃料の非化石燃料化(バイオマス、アンモニア、水素等ゼロエミッション燃料の活用拡大)、グリーン電力の購入を検討・推進していきます。

当社電力構造の低炭素化に向けた検討・推進項目
  • 非効率石炭火力の全廃
  • 副生ガス火力の高効率化とCCUS活用、外部補助燃料の非化石燃料化
    (バイオマス、アンモニア、水素等ゼロエミッション燃料の活用拡大)
  • グリーン電力の購入

CCUS技術の開発

CCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)は、CO2を分離・回収(Capture)し、直接ないし他の物質に変換して利活用(Utilization)する、あるいはCO2を地中に埋めて貯留(Storage)する技術です。カーボンニュートラル生産プロセスでは、CO2発生を最小化した後でもなお鉄鋼製造プロセスから発生するCO2の処理に用います。

この技術の実現には、CO2分離・回収技術(高性能な化学吸収液)の開発・実装、CO2を用いた化学品・燃料等の製造技術の開発だけでなく、CCSを行うための貯留場所の確保、貯留インフラの整備、法整備、税制優遇(インセンティブ)や、CCUにより製造された化学品・燃料の事業採算確保、カーボンリサイクル品の優遇措置等の外部条件の整備も必要です。当社グループはこれらの技術開発に自ら積極的に取り組み、CCUSの社会実装を推進しています。

当社グループのCCUS技術開発の取り組み

分離・回収(Capture)

CO2分離・回収技術(NEDO COURSE50プロジェクト)

当社グループの日鉄エンジニアリングでは、CO2の分離・回収方法の1つである化学吸収法を用いた、省エネ型CO2化学吸収プロセス「ESCAP®」を商品化しており、当社の北日本製鉄所室蘭地区内を含め既に国内で2基が稼働しています。

このESCAP®は汎用技術と比べて熱消費量を4割以上削減し、高いエネルギー効率を実現していることが大きな特徴です。また、独自開発の不純物除去設備により、不純物の多い原料ガスから99.9%以上の高純度CO2の回収が可能です。

このような高いエネルギー効率、実用性が評価され、2021年度には本技術を共同開発した(公財)地球環境産業技術研究機構(RITE)、日鉄エンジニアリング(株)と当社の3社で「市村地球環境産業賞 貢献賞」を受賞しました。

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ESCAPの処理フロー

ESCAP®の処理フロー

低濃度CO2分離回収技術開発(グリーンイノベーション基金事業)

当社は、大分大学、大阪大学、京都大学、千葉大学、名古屋大学、北海道大学並びに(株)レゾナックと連携し、工場排出ガスに含まれる低濃度CO2の分離回収技術開発を本格始動しました。

     

低圧・低濃度(大気圧・CO2濃度10%以下)の排出ガスから効率的にCO2を分離・回収するため、既存CO2分離剤(ゼオライト)に比べてCO2の高い選択性があり僅かな圧力操作でCO2の吸着と脱着が可能な新規分離材(構造柔軟型PCP)の開発とその社会実装に取り組みます。

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ESCAPの処理フロー

輸送(Transport)

CO2船舶一貫輸送事業(NEDO委託事業)

当社は、日本CCS調査(株)、(一財)エンジニアリング協会、伊藤忠商事(株)と共同で、CO2船舶輸送に関する研究開発および実証事業を開始しています。

貯留(Storage)

当社は、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が令和5年度(2023年度)の公募事業で採択した「先進的CCS事業の実施に係る調査」のうち、「日本海側東北地方CCS事業」「首都圏CCS事業」「大洋州CCS事業」の3案件の共同事業に参画しています。

本事業において、貯留場所の確保、貯留インフラの整備、法整備等の外部条件の整備について各社と共同で推進するとともに、当社はCO2分離回収・液化、出荷基地に係る検討に主体的に取り組み、CCSの早期社会実装を積極的に推進していきます。

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©deepC Store Limited

利活用(Utilization)

CO2を原料とした化学品製造技術(NEDO委託事業)

当社と、大阪公立大学、UBE(株)は「CO2からのポリカーボネートジオール一段合成プロセスの開発」につき、2023年4月より研究開発に着手しました。ポリカーボネートジオールは、水素を必要としない高付加価値の炭素化合物を製造する代表的な素材であり、世界中で広く使われ、今後も需要増が見込まれる高機能ポリウレタンの原料ですが、合成時の環境負荷が高く大きな課題でした。これに対して、本研究開発では、CO等の毒性の高いガスの代わりにCO2を有効活用し、一段合成で高収率となる画期的なグリーンプロセスの開発を目指します。

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生物による吸収・固定 (NEDO事業補助対象)

製鉄所副産物のスラグを活用した海域向け施肥材による藻場(ブルーカーボン生態系)造成に関する技術を開発・実用化しています。

 

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<参考> 当社の技術開発力

研究開発人員 約 800人(単独)
特許権保有件数(単独)国内 約1万4,000件 海外 約1万6,000

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