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企業情報「メッセージ」代表取締役社長 兼 COO:今井 正

当社の経営戦略と今後の取り組み方針

 2024年4月1日付をもちまして、社長兼CООを拝命しました今井です。
 当社が、現在直面する数々の経営課題を考えたとき、これからの数年間は当社の将来を大きく左右する期間であり、文字通り身が引き締まる思いであります。リレーに例えれば、橋本前社長の掲げた1億トン・1兆円ビジョンに向けた成長戦略のバトンを受け取り、全速力で走りはじめたところです。
 今後の当社の経営戦略と今後の取り組み方針につきまして、これからご説明申し上げます。

中長期経営計画の進捗

 当社は、国内構造対策による生産ラインの集約や、紐付き価格マージンの大幅な改善、海外事業の選択と集中など、全社をあげて取り組んだ経営改革が実を結び、実力ベース連結事業損益は当初の目標であった6,000億円を大きく上回り、1兆円のターゲットが見通せるところまで拡大しました。
 従来の収益構造対策の継続等に加え、将来ビジョンである1兆円の利益水準に向け更に厚みを持った新たな事業構造へと進化し、外部環境によらない高収益を計上できる基盤を構築すべく施策を着実に進めていくとともに、これからを見据えた人材確保・活躍推進に資する施策への投入も行っていきます。
 具体的には、国内事業を要として、横軸方向に幅を広げ、縦軸方向に厚みを増すことで、より強靭な事業構造を目指しています。横軸方向とは鉄鋼生産そのもののグローバルな拡大でASEAN、インド、そして米国などの海外で、上工程からの一貫生産拠点の拡充に取り組んでいます。縦軸方向とは、原料、流通加工といった川上、川下への事業領域の拡大で、既にカナダ原料炭投資や、流通を担う日鉄物産の子会社化を完了していますが、これからも取り組みを進め、原料を「調達」から「事業」へと進化させ、流通を自らの事業領域としていくことで、一貫した事業構造を構築し、サプライチェーン全体での競争力を強化するとともに、カーボンニュートラル実現に向けてもよりレジリエントな事業構造とします。
 中期経営計画の進捗状況の詳細については、別に当報告書内の「戦略」パートにてご説明申し上げます。


中長期経営計画の進捗

成長の機会

 マクロ認識に基づく当社の経営方針は、実行中の2025年中長期計画そのものであり、まずはこれをやり抜くことに尽きますが、これに加え、特に成長機会と脱炭素対策について申し上げます。
 第一は、社会の変革期を捉えた、新たなビジネスチャンスの獲得です。地球規模の気候変動問題への対応が産業界の大きな流れとなり、産業構造の変化を通じた新たな需要が材料分野においても生まれています。再生可能エネルギーの拡大やコンビナートの脱炭素化、自動車の電動化が進み、国土強靱化や災害激甚化対策が求められるなかで、当社の技術を活かせる新たな鋼材・ソリューションニーズに対し、商品開発から流通加工ネットワークに至る当社グループの総力をあげて、国内事業の成長につなげる対策が必要です。また、労働力人口の減少といった社会構造の変化や、AIの急速な発達に刺激されたDXの加速などは当社自身の課題であるとともに、当社グループにとってのビジネスチャンスでもあります。
 第二は、生産規模と収益の両面で当社の成長エンジンとして一段と強化していくことになる海外事業と、それを支えるマネジメントの強化です。インド、ASEAN、U. S. Steel買収後の米国を中心に、成長市場で一貫製鉄事業の拡大を進めることは、当社のグローバル展開が新たな段階に入ることを意味します。日本が世界本社となり、それぞれの現地ニーズに応じて必要なリソースを展開し、現地企業として健全に発展していくことを強力に支援していく、そのような形で国内製鉄事業が海外事業を支える存在となる必要があります。戦略的な本社マネジメント機能を更に高めるとともに、技術面では研究開発、製造技術、設備保全・エンジニアリングなど、国内製鉄事業で磨いてきたものづくりの真価を、世界を舞台に発揮していきます。
 U. S. Steel買収については、当社が最大の高級鋼需要国である米国に拠点を確保するとともに、当社の最先端の先進技術を全面的に共有することで、同社のもつ鉄鉱石鉱山・高炉・電炉を有機的に組み合わせた強力な事業資産、米国内の幅広い顧客基盤、歴史に裏付けられたブランド価値といった強みと合わせることで、同社の成長を実現できるものと考えております。

「世界本社」としての戦略マネジメント機能の強化

 第三に、最も大きな課題ともいえる脱炭素対策について申し上げます。
 当社は、2050年カーボンニュートラルに向け、まずは2030年に30%以上の温暖化ガスの排出量削減を目指しています。そもそも鉄鋼材料は、例えば1トン製造することによる温暖化ガス排出量は、様々な工業材料のなかでも極めて少なく、何度でもリサイクル可能な循環素材であり、カーボンニュートラルな時代においてもその重要性は揺るぎません。ただ、安価であり大変優れた性質を持つことから、圧倒的に大量使用されているため、鉄鋼業のCO2排出量は国内産業部門の約4割を占めています。足元ではCO2排出量が国際的な通商制約となる動きも出てきていることから、当社の脱炭素対策の成否は、我が国の産業競争力を左右するといっても過言ではありません。
 鉄鋼業のカーボンニュートラル実現には、越えなければならない相互に関連する3つの山があります。技術的課題、投資回収の予見性、そしてインフラ整備です。技術的課題としては、サプライチェーン全体のCO2排出量のなかでも鉄鉱石を還元する高炉からの排出が支配的でありますが、それに対する既存の脱炭素技術が存在しないため、生産プロセスの革新が必要となります。また、投資回収の観点では、巨額の投資、操業コストの上昇となる一方で、生産される鋼材製品は現在の製品と同一であるため、投資を実現するためには需要家・市場への環境価値の訴求、すなわち価格転嫁が課題となります。そしてインフラ面では、グリーン電力・グリーン水素の安価・安定供給などが、国や自治体の政策として整備される必要があります。グリーン鋼材の本格的供給に先立って、CO2排出量削減という環境価値の適正な経済価値について、産業界はもとより広く社会全体の共通認識とするべく取り組んでいきます。


技術的課題
  • 鉄鋼業のサプライチェーン全体でのCO2排出(Scope1~3)の大宗は、生産プロセス(Scope1)、とりわけ鉄鉱石を還元する、基幹工程である高炉が占める
    生産プロセスの革新が必要
  • 電力/再エネ・原子力、自動車/EVのような既存の脱炭素技術が存在しない
投資回収の予見性
  • 生産プロセスの革新には、巨額の投資および操業コストの上昇が不可避
  • 一方、鋼材製品は現状(CN化前)と同一
    需要家への環境価値(CO2削減)の訴求(価格転嫁)が課題
インフラ
  • 政策としての社会インフラ整備(グリーン電力・水素の安定供給、CCUS)

 当社の目指すカーボンニュートラル製鉄プロセスについてもあらためてご説明します。
 まず、世界の鉄鋼需要を満たすための鉄鋼生産においてはスクラップだけでは不十分であり、鉄鉱石の還元が不可欠であること、そして鉄鋼の大量生産が可能なプロセスは高炉法と電炉法の2種類に絞られることから、カーボンニュートラル化のための技術的選択肢は、「高炉法の脱炭素化」と「あらかじめ還元した鉄の電炉での溶解」の2つに限られることが前提となります。その上で、高炉法と電炉法はそれぞれに得失があり、それぞれの特徴を活かした上で、エネルギー、原料などの経済条件に応じて、最適な生産プロセス構成を目指していく必要があります。当社は、生産性と品質が優位であり既存インフラを活かせる高炉法の脱炭素化開発を推進しつつ、2030年に向けては、比較的早期に実装可能な電炉法についての検討を継続しており、複線的なアプローチで脱炭素化を目指しております。
 それに基づくプロセスとして、高炉水素還元、水素による還元鉄製造、大型電炉での高級鋼製造が当社の挑戦する3つの超革新技術です。そしてそのために必要となるグリーン水素およびグリーン電力の安価・安定供給と、CCUS社会実装の3つが政策によって整備されるべき外部条件です。
 技術開発の進捗状況と今後の見通しについては、技術開発は総じて順調であり、2023年末には君津試験高炉で高炉型反応容器としては世界最高水準となる33%のCO2削減にも成功しました。比較的実装時期の早い大型電炉につきましても、2022年の広畑1号機で高級鋼の製造実績を積み上げており、2024年度中には波崎研究センターで開発用試験電炉が完成するなど、2030年までの稼働を目指して検討を進めています。
 このように、技術開発は計画と予算化を終えて鋭意推進中ですが、投資回収の予見性、インフラ整備には国の政策が不可欠です。こうした課題を乗り越えるため、当社は様々な機会を活用し、我が国の気候変動対策やエネルギー政策に関する提言を行うとともに、業界団体を通じた活動や、広く社会全体に対する働きかけを実行中です。これらの取り組みについては、今後も引き続き、適切な開示に努めていきます。


[日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050ロードマップ]

サステナビリティ課題への取り組み

 脱炭素対策のみならず、サステナビリティ課題への取り組みは企業としての持続的成長を支える基盤と捉え、最も重要な課題のひとつとして認識しています。当社は、企業理念や価値観、ステークホルダーの皆様からの要請、当社の成長戦略等を考慮し、重点的に取り組むべきサステナビリティ課題における重要課題であるマテリアリティを特定し、その取り組み成果を評価するKPIに基づいて活動を推進・フォローすることで、より高いパフォーマンスを目指しています。
 気候変動問題については、パリ協定に基づく日本政府の地球温暖化対策計画および日本のNDCに貢献を果たすべく、前述の通り技術開発・実機化、社会全体への働きかけに今後も継続して取り組んでいきます。
 また循環型社会構築に関しては、持続可能な社会を構築しながら経済成長を進めていくという観点で不可欠の課題です。鉄自体が「何度でも何にでも生まれ変われる」素材で、まさにサーキュラーエコノミーを体現している素材でありますが、鉄の製造プロセスで発生する副産物の循環活用、社会で発生する容器包装プラスチックの再資源化など、たゆまぬ技術革新等を通じ、サーキュラーエコノミーの実現に貢献していきたいと考えております。
 生物多様性保全に関しても、「経団連生物多様性宣言・行動指針」に賛同し、また「生物多様性のための30 by 30アライアンス」にも参画するなど、「ふるさとの森づくり」や「海の森づくり」などを通じた生物多様性保全や自然再興の取り組み活性化に貢献しています。
 「持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みが世界中で進むなか、気候変動対策、循環型社会構築、生物多様性保全に関する課題の統合的な解決や、良好な生活環境の維持向上も含め持続可能な地域づくりに積極的に貢献するよう事業活動を行っていきます。
 また当社は、「常に世界最高の技術とものづくりの力を追求し、優れた製品・サービスの提供を通じて、社会の発展に貢献します」という企業理念を掲げており、事業活動そのものを通じて様々な社会問題の解決に貢献していく企業であり続けたいと考えています。すべてのステークホルダーの皆様から将来にわたって信頼を得られるよう、安全、環境、防災を第一に、品質、生産をはじめ、人権の尊重、ダイバーシティ&インクルージョンや、文化・芸術やスポーツを通じた社会貢献、地域に根差した教育支援などを通じ、企業の社会的責任を積極的に果たしていきます。
 そして、成長戦略、脱炭素戦略を進めていく上で、人材確保と活躍推進は極めて重要です。日本の人口とりわけ労働力人口の減少、人材の流動化といった社会情勢のなかでも、当社はこれまで述べてきた多様な経営戦略を推進していく必要があり、それを支えるのは人材です。認知度向上施策に始まり、経験者採用の拡大、処遇改訂、エンゲージメント向上のための各種施策により、社員一人ひとりの能力を最大限に引き出し、生産性向上を進めていきます。
 また、「日本製鉄グループ人権方針」に示す通り、人権尊重に最大限配慮しつつ、高い倫理観をもった事業活動を引き続き展開していきます。

今後の業績見通し

 最後に、今後の業績について述べます。
 2024年度も世界の鉄鋼需要については、未曾有の厳しい状況が当面継続すると見ざるを得ません。実需回復は現時点で不透明で、市況回復には時間を要する見通しであり、原料高・製品安というデカップリング構造が当面継続するリスクもあります。この想定のもと、事業利益は一旦7,800億円という水準になりますが、継続して6,000億円を大きく超える水準を確保できる収益基盤になっています。
 2025年度については、成長戦略の効果発揮によって、仮に事業環境が好転しなくても9,000億円以上の利益を確保するべく取り組んでいきます。更にU. S. Steelの買収が完了すれば、1兆円以上の実力利益を確保できる収益構造を目指していきます。


厳しい事業環境下での利益成長

終わりに

 鉄鋼業を取り巻く事業環境は今後も厳しい状況が継続すると見込まれ、カーボンニュートラル社会実現に向けた諸課題への対応など中長期的に克服すべき経営課題はありますが、今後とも、私自らが先頭に立ち、社員一丸となって全力を尽くしてまいる覚悟であります。当社は、グローバルに成長機会を掴み、脱炭素の先駆者となって、総合力世界No.1の鉄鋼メーカーとして飛躍していきます。

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