記事一覧

(日経電子版広告特集(2024年12月1日から12月31日掲載)の内容を加工したものです)

技術系・女性リーダーに聞いた
長い歴史の中で積み重ねてきた技術 
自社の利益追求だけでなく、広い視点で生かす

(左)後真理子さん 設備・保全技術センター 無機材料技術部 課長/(右)小杉知佳さん 先端技術研究所 環境基盤研究部 課長
*壁には、日本製鉄で製造している、高耐食性めっき鋼板「スーパーダイマ®」が使用されている

世界トップクラスの鉄鋼メーカー日本製鉄(にっぽんせいてつ)は、グローバルでの更なる成長を目指すとともに、脱炭素化も積極的に推し進めている。こうした取り組みを支える製造・技術研究の現場では、女性の活躍も目立つようになった。技術系職場で管理職として働く女性課長2人の声を通じ、同社の技術力や強み、日本製鉄で働く魅力などを紹介する。

実験が好き、モノづくりに関わる仕事がしたい

――日本製鉄に入社した動機、大学での研究について教えてください。

小杉 大学院で所属していた研究室の教授が、当時の新日本製鉄(現:日本製鉄)と、鉄鋼副産物のスラグを活用した藻場の再生について共同研究していたんです。千葉県富津市にある同社の研究所に、実験用の水槽ができるタイミングで声をかけていただき、2009年に入社しました。

 大学院の工学研究科で、蓄電池などの電極材料になるカーボンの研究をしていました。実験が好きでモノづくりに関わる仕事がしたいと思っていたことと、鉄鉱石と石炭というシンプルな材料から、つくり方の違いによって様々な特性を持つ鉄に興味を持ち、住友金属工業(現:日本製鉄)のインターンシップに参加。波崎研究開発センター(茨城県神栖市)にある鉄鋼プロセスの大型実験設備を見学し、自分もここで実験をしたいと思い2010年に入社しました。

後 真理子(うしろ まりこ)さん
後 真理子(うしろ まりこ)さん
(2010年入社)設備・保全技術センター 無機材料技術部 課長

女性が少ない職場でも、仕事しやすい環境

――入社前後で、会社のイメージは変わりましたか。

 最初の配属先は、希望どおりの研究をするプロセス研究所の製鋼研究部でした。その後、無機材料技術部に異動しましたが、題材は変わっても研究が性に合っているので、やりがいを持って働ける環境です。日本製鉄は非常に大きな会社なので、いろいろな人がいて、職場ごとに雰囲気も違いますが、入社前後でイメージは変わりません。

小杉 知佳(こすぎ ちか)さん
小杉 知佳(こすぎ ちか)さん
(2009年入社)先端技術研究所 環境基盤研究部 課長

小杉 学生時代は、専攻が生物系だったので、理系でも比較的、女性が多かったんです。ところが、私が入社したとき、配属された部署では初の女性総合職。女性の少ない職場で最初は少し戸惑いましたが、皆さんとても優しくて、仕事しやすい環境だと思いました。お酒の好きな人が多く、私も参加して楽しみました。皆さん、どれだけ飲んでも翌日は何もなかったように定時に出社して働くので、まじめだなぁと感心したほどです。

鉄鋼スラグ活用した「ブルーカーボン」技術

――現在の仕事内容について教えてください。

小杉 海草や海藻をはじめ海洋生態系で吸収・貯留される二酸化炭素(CO2)「ブルーカーボン」の技術開発を進めています。海水中のCO2濃度が下がると海水が大気中のCO2を吸収するので、世界的な課題であるカーボンニュートラルに貢献する取り組みです。私たちは、鉄鋼副産物のスラグを使ってコンブやワカメ、ホンダワラが生える場所を増やし、CO2の吸収を増加させる研究を行っています。スラグは豆腐でいうとオカラみたいなもので、栄養や使い道もまだまだある副産物です。どんな環境で効果が最大になるか、2004年からは北海道増毛町の実際の海でも検証しています。


鉄鋼スラグの海域利用技術

日本製鉄のいいところは、単に「検証してみた」で終わりにするのではなく、メカニズムを解明して技術をつくっていくことです。10年も継続して調査をしている事例は学術的にもありません。粘り強さはもちろんですが、ある程度の規模があり、歴史と技術の蓄積がある会社だからできることだし、信用もしてもらえる。他社ではできないことだと実感しています。

新規プロセスに対応した耐火物技術を開発

 鉄を製造する際に、溶けた鉄を入れる容器の内側に使用する耐火物の研究開発を担当しています。氷の器に水を入れると溶けてしまうのと同じで、鉄の容器に溶けた鉄を入れると溶けてしまうので、千数百度の高温にも耐えられるレンガのような耐火物が必要です。高温の鉄にも耐えられる耐火物でも、鉄鋼スラグとの反応や温度変化等で、どうしても損傷は起こります。反応が起こりにくく、変質しにくい、長持ちする耐火物を選定するために、高炉メーカーである我々も研究開発しています。耐火物の専門メーカーや各工場とも密に会話しながら、様々な製造工程で実際に使われる環境をシミュレーションできるような耐火物の評価手法を研究しています。

転炉
転炉

連続鋳造設備
連続鋳造設備

日本製鉄は今、カーボンニュートラルに対応した新規プロセスのための新しい設備づくりに取り組んでいます。その中で耐火物も、今までとは異なる環境でどのような損傷を受けるかといった予測をし、評価して選んでいかねばなりません。いろいろな課題も出てくると思いますが、これまで培ってきた技術、長年の研究の積み重ねがあることが日本製鉄の強み。それらを基に、新しいプロセスに対応した耐火物の選定を進めていきます。

ベテランも新人も「技術の上では平等」

――管理職として心掛けていることはありますか。

小杉 私の職場は、今は半分以上が女性になりました。20代の人も一定数いるので、モチベーション高く働いてもらえるよう心掛けています。ただし言いたいことはきちんと伝え、叱るときは早めに叱る。だから怖がられているかもしれません(笑)。その代わり、褒めるときはいっぱい褒めます。背中からトゲが生えていると声をかけにくいと思うので、声をかけられやすいように私自身気をつけています。

 最初の配属先の上司が言ってくれた「技術の上では平等」という言葉を大事にしています。20年目のベテランであっても新人であっても、技術者は皆プロ。尊重して意見を聞き、皆が広く意見を言い合える雰囲気づくりを意識しています。

後 さん
後さん
課長として若いメンバーの声に耳を傾ける

部下の成長を近くで見られる楽しみ

――どんな時に、やりがいを感じますか。

小杉 「ブルーカーボン」は注目を浴びている分野なので、成果をPRさせてもらいやすく、やりがいを感じます。職場では、部下の成長をすぐそばで見られることも楽しみです。室長や部長になると部下との距離が少しあるので、課長職ならではのやりがいだと思います。

 私の部署は研究するだけでなく、現場での耐火物に関するトラブルの対策に取り組むこともあります。原因調査をして改善策を提案し、現場で問題解決できたと知らせを受けると、達成感がありますね。

社会実装に向け、未経験の領域に挑戦

――困難を感じることと、その乗り越え方、将来の抱負を聞かせてください。

小杉さん
小杉さん
COP28でも「ブルーカーボン」の取り組みを紹介

小杉 今、難しいと感じていることは、技術を実装するための道筋をどうやって築いていくかということ。研究者としてメカニズムの解明などは得意ですが、技術を実装するために求められるスキルや、どうやって人を巻き込んでいくかなど、未経験の領域に挑戦しているところです。

生き物の反応を検証するには時間がかかります。その分、夢を感じていただき、今は背中を押してもらっている状況です。カーボンニュートラルに向けた取り組みを一時の風で終わらせず、長く続く取り組みにできるよう、事業として成り立たせることが私の目標です。

 研究職は、答えの分からないもの、答えが無いかもしれないものに対し、その時点でのできる限りの最適解を見つけなくてはならない仕事です。自分がやっていることが本当に正しいか、見落としはないかといった心配を常に抱えています。行き詰まったときは、物事の基本に立ち返って、シンプルに考え俯瞰して見ることが大事だと思っています。そんな風に試行錯誤しながら働く姿を見せ続けることで、子どもたちも目標に向かって全力で頑張れる人に育ってくれたらうれしいです。

産休・育休明けに「待っていたよ」の言葉

――産休・育休などの制度、ワークライフバランスについて教えてください。

 私は子どもが2人いて、産休・育休を合わせると1年くらいずつ取得しました。ひとり目の産休明けに今の職場に異動しましたが、残業ができなくなった状況でも、周囲の理解や協力もあり、フルタイムで復帰することができました。それまでに関わりのあった方々に、いろいろ助けていただけたことは大きかったと思います。産休・育休を取る前に、どれだけ頑張って仕事していたかは、大事ですね。

今のプライベートの楽しみは、週末に家族でキャンプに行くこと。自然の中でリフレッシュしています。

小杉 私は9カ月で復帰しました。娘が1歳になってからは出張もしています。いろいろ悩みましたが、私のそういう姿を娘に早くから知ってもらった方がいいと思ったからです。職場復帰した際、「待っていたよ」と言ってもらったことは、とてもうれしかった。今、産休を取っている部下がいるので、復帰の際には言おうと思っています。

出張が多く、出張帰りの買い物が気分転換や楽しみになっています。韓国ドラマを見ることも好きです。

就活は、譲れない点を決め、あとは柔軟に

――日本製鉄の強み、らしさをどのように感じていますか。

 歴史のある会社として、技術の積み重ねがあり、先輩方のリポートには今でも参考になるものがあります。その時代だからこそできた実験のデータなど、脈々と続いていることが強みだと思います。

小杉 粘り強く、まじめ。自社の利益追求だけではなく、日本という国や社会、環境への配慮という広い視点を持って、自分たちの行動を考え、選択する会社です。そういう環境とマインドで働けることは、すごく幸せだと実感しています。

――就活生はじめ若い人たちにメッセージをお願いします。

小杉 自分自身を振り返ると、20代のころはいろいろなものを吸収できたし、何一つ無駄にはなっていないと感じています。学生の皆さんも、大学で専攻している分野だけでなく、臆せずいろいろなことを経験してほしいです。

 私も同感です。就職活動に際しては、自分が大事にしたいことは何かを自分で理解し、それだけは譲らない方がいい。それ以外はガチガチに固めずに、ある程度、柔軟に受け入れる姿勢で臨んだ方が、いい結果につながると思いますよ。

企業情報 メニュー