気候関連リスク・機会への当社戦略　～TCFDシナリオ分析～

当社は、パリ協定の長期目標達成に取り組む国際社会の現状を踏まえ、気候変動問題を世界が直面する重要な課題の一つとして捉え、2019年5月、TCFDがまとめた情報開示提言を支持する署名を行いました。この提言に基づき、気候変動が事業活動に与える影響について情報開示を進めていきます。

シナリオ分析について

当社では、移行要因と物理要因ごとに、上流である調達、直接操業、下流である製品・サービス提供のそれぞれにおいて重大な影響を与え得るリスク・機会を特定し、各シナリオに対する戦略を検討しました。

を実施するにあたっては、国際エネルギー機関（IEA）による気候変動シナリオをベースに、移行面では1.5℃シナリオ（NZE2050）や2℃未満シナリオ（B2DS）、物理影響面では4℃シナリオ（NPS）等を参照し、2050年までの中長期の時間軸で評価を行いました。

参照シナリオ

1.5／2.0℃ シナリオ: IEA WEO2022 NZE2050／IPCC1.5℃特別報告書／IEA WEO2018 SDS／IEA ETP 2017 B2DS

4.0℃ シナリオ: IEA WEO2018 NPS／IPCC AR5 RCP

TCFDシナリオ分析

1.5℃/2℃シナリオ

対象要因（リスク・機会）	事象（ステークホルダーによる期待と懸念）	当社への影響（リスク・機会）	当社の戦略（含む今後の対応）
移行要因1 自動車EV化の進展	世界の年間EV販売台数：2030年6,500万台、シェア60％（2021年時点660万台、シェア8.6％）^※1	鉄鋼需要増の機会（機会）自動車の電動化が進展し、内燃機関搭載車向けの鉄鋼需要の割合は減少するも、世界の自動車累計台数は増加し、自動車向け鉄鋼需要は増加。（機会）EV車向け電磁鋼板等、当社が得意とする高機能鋼材の需要増。	電磁鋼板のグローバル供給体制強化により、伸びゆく需要を捕捉。
移行要因2 燃費規制強化等による軽量素材への切り替え進展（マルチマテリアル化）	燃費規制強化の観点から軽量素材への切り替え進展	高強度鋼材の需要増の機会、他素材需要の捕捉（リスク）軽量他素材への切り替え進展の可能性は一部残る。ただし素材の製造段階・リサイクルも含めたLCAの観点での環境評価では鉄が優位であり、自動車でもLCAの観点での評価を重要視する動きが見られることから、大幅な進展はない見込み。（機会）ハイテン、炭素繊維強化プラスチック（CFRP）、チタン等の需要増。	LCAの考え方の更なる浸透のため、顧客への理解活動、制度への働きかけ等を実施。ハイテンの更なる高強度化に加え、自動車向け総合ソリューション（NSafe®-AutoConcept）による軽量鋼構造技術の提供。グループ会社（日鉄ケミカル&マテリアル）と連携したCFRP等の需要捕捉。
移行要因3 低炭素鋼材（製造時のCO₂排出量の低い鋼材）へのシフト	需要家のニーズにより、低炭素鋼材への切り替え促進	低炭素鋼材需要増の機会（リスク）転炉鋼から製造時のCO₂排出量が少ない電炉鋼への代替も一部起こり得る。（機会）スクラップ供給量の制約から電炉鋼材では世界的な鋼材需要増をまかなえず、引き続き高炉・転炉鋼材の需要も増加。	SuMPO EPD（旧エコリーフ）環境ラベル等取得の推進。カーボンニュートラルビジョンの推進（大型電炉による高級鋼製造、水素還元製鉄等の超革新技術開発の推進）。還元鉄の使用拡大等、既存プロセスの低CO₂化を推進。低CO₂鋼材「NSCarbolex® Neutral」の提供。
移行要因3 低炭素鋼材（製造時のCO₂排出量の低い鋼材）へのシフト	製鉄プロセスに対する脱炭素化ニーズの高まり	脱炭素化に向けた製鉄プロセスの抜本的な見直しが必要（機会）世界に先んじてこれらの技術開発・投資を進められれば大きな競争力を得られる。（リスク）超革新的技術導入のための投資負担、操業コストの増加。	グリーンイノベーション基金等の政府支援を活用し、超革新的技術の開発・実装を推進。社会全体でのコスト負担についての検討。
移行要因4 省エネ製品・技術ニーズの高まり	環境対応技術ソリューションでの需要拡大	環境対応技術需要増の機会（機会）お客様の工程における省エネルギーを実現する製品の需要拡大。（機会）最終製品の使用段階での省エネに貢献する製品の需要拡大。（機会）鉄鋼プロセスにおける省エネルギーを実現する当社グループの技術ソリューション提供による収益拡大。	お客様の工程における省エネルギーを実現する製品、最終製品の使用段階での省エネに貢献する製品、社会のエネルギー転換に貢献する製品である、「NSCarbolex Solution」の供給拡大。官民連携、カスタマイズドリスト、製鉄所診断による途上国への鉄鋼プロセスにおける省エネルギー技術の提供。（グローバルバリューチェーンにおける貢献）例）グループ会社（日鉄エンジニアリング）が全量手掛けているCDQ（コークス排熱回収設備）の途上国への普及。
移行要因5 再エネ・水素社会に伴う関連製品・ソリューションニーズの高まり	世界の発電量に占める再エネの割合:2050年88％（2020年時点28％）世界の水素生産:2050年490百万t（2020年時点90百万t）^※2	グループ会社製品を含めた需要増の機会（機会）再エネ社会を支える当社グループの製品・ソリューション提供による収益拡大。（機会）水素社会を支える当社グループの製品・ソリューション提供による収益拡大。	再エネ社会に向けた当社グループ製品のメニュー充実と国内外への提供拡大。例）太陽光発電架台用の高耐食めっき鋼板、風力発電用厚板・チェーン用棒鋼、地熱・バイオマス発電用鋼管等水素社会に向けた当社グループ製品のメニュー充実と国内外への供給拡大。例）高圧水素用ステンレス鋼（HRX19®）
移行要因6 カーボンプライシング（CP）導入によるコスト増	段階的なCP施策導入	CPによるコスト負担増（リスク）GX推進法においては、CPの導入に関しては企業が脱炭素に向かうための技術開発や設備投資に取り組む時間を確保することとされており、当面、影響はそれほど大きくはないものの、CPの制度設計や、購入電気料金等への転嫁の状況によっては、当社にとって負担増となる。	還元鉄の使用拡大、既存プロセスの低CO₂化推進、水素還元製鉄、大型電炉による高級鋼製造等の超革新的技術開発の推進等によってCO₂排出量を低減。脱炭素のための技術の選択肢がない多排出産業に対する政策措置やエネルギー費用増分に対する値差支援措置を政府に要請。

※1EV車に関するデータは、IEA Global Electric Vehicle Outlook 2022 NZE2050シナリオを参照。EV車はバッテリー式EV（BEV）、プラグインハイブリッド車（PHEV）を含む。
※2再エネ、水素に関するデータは、IEA World Energy Outlook 2021 NZE2050シナリオを参照。

4°Cシナリオ

対象要因（リスク・機会）	事象（ステークホルダーによる期待と懸念）	当社への影響（リスク・機会）	当社の戦略（含む今後の対応）
物理要因1 異常気象による原料調達先の操業停止	異常気象により原料調達が困難となる	リスクへの対策により、影響は限定的（リスク）以下の対策により原料安定確保におけるリスクは限定的と想定。世界複数地域の原料調達先を確保。製鉄所や船上での原料在庫保有。	複数ソースからの調達継続。適切な在庫維持日数・リスク管理。
物理要因2 異常気象による操業・出荷停止	自然災害に見舞われ、操業が困難となる	適応対策により、影響は限定的（リスク）これまでの計画的なBCP対策を講じてきており、生産障害要因となるほどのリスクは限定的。想定を超える異常気象が生じた場合、操業停止等の影響が生じる可能性あり。	長期トレンドも踏まえた適応対策の継続的な実施。台風・集中豪雨対策、クレーン等の転倒防止対策、地震・津波対策（緊急避難場所確保、岸壁補強等）。
物理要因3 自然災害に対する「国土強靱化」ソリューションニーズの高まり	異常気象による自然災害発生	国土強靱化関連の需要増の機会（機会）地震、津波、豪雨・台風等に対する国土強靱化に向けた当社グループの製品・ソリューション提供による収益拡大。	当社グループ製品メニューの充実と国内外への提供拡大の取り組み。例）鋼製スリットダム、NSエコパイル工法

気候関連リスク・機会への当社戦略 ～TCFDシナリオ分析～