水リスクマネジメント

当社は、事業活動における水使用量の継続的な削減に努めています。全製鉄所で使用する年間約58億m3の工業用水のうち、約90%に循環水を使用し、大切な水資源の有効利用・排水量の抑制に努めています。そのために循環水冷却設備・排水処理設備等の機能を維持・改善し、排水の水質をきめ細かに点検管理する等、日々の努力を継続しています。当社の国内事業拠点には、WRI Aqueductによる水ストレス評価において、高ストレスに晒されているところがないことを確認していますが、取水制限に至った場合に備え、九州製鉄所八幡地区など一部の製鉄所では独自の貯水池を配備し水源を確保しています。状況によっては、農業用途への応援給水に協力する等、地域単位での水ストレスの緩和にも貢献しています。

また、現在進めている自然関連のリスク・機会分析の中で、海外の鉄鉱石・原料炭サプライヤーの主要26拠点をIBAT(Integrated Biodiversity Assessment Tool)やAqueduct等のツールを使って評価した結果、「水資源」「陸域生態系」の基準への影響が高い地域7拠点を特定しています。今後は特定した影響関係の評価を行い、サプライヤーへ水資源を含む自然資本への影響を削減するような取り組みを働きかけることも検討しています。

九州製鉄所八幡地区・河内貯水池
工業用水使用量(発電所を含まない)(単位:億m3
取水源別の取水量(単位:億m3※1
  2019 2020 2021 2022 2023
工業用水 河川・湖※2 7 7 7 6 6
地下水※3 0 0 0 0 0
上水道(都市飲料水) 0 0 0 0 0
海水 22 20 20 19 18
雨水、その他の取水源
取水合計 29 27 27 25 25
放流先別の排水量(単位:億m3※1
  2019 2020 2021 2022 2023
海洋※4、蒸発 29 27 27 25 25
敷地外の水処理※5 0 0 0 0 0
地表水、地下/井戸、有益/その他の用途、その他の放流先
排水合計 29 27 27 25 25
  1. ※1集計範囲 当社(国内各製造拠点+REセンター)
  2. ※2自社貯水池からの取水量は「河川・湖(工業用水)」に計上
  3. ※3一部事業所で地下水からの取水があるが、全体の0.3%以下
  4. ※4水質に応じ適切に排水処理を行い、排水基準を遵守した上で放流
  5. ※5海洋以外は敷地外の水処理(下水道)で、全体の0.01%以下

水質汚濁防止法の遵守、放流先海域等の水質環境保全

当社では、水質汚濁防止法の遵守、放流先海域等の水質環境保全の重要性に鑑み、万一操業トラブルが発生した場合にも、排水口から異常な排水を製鉄所外へ出さないように、排水自動監視装置、排水遮断ゲート、緊急貯水槽等を設置しています。

また、点検・補修による設備機能の維持、異常排水発生時の作業標準整備、訓練による動作確認と手順習熟等のソフト対策にも努めています。更には、製鉄所が異常気象による局所豪雨等に見舞われた場合に鉄鉱石の微粉等を巻き込んで着色した水が直接海域に流出しないよう、大型貯水槽を設置する等の対策も講じています。

海に面した護岸に亀裂等が生じると、水質が把握できない地下水が漏れ出すリスクがあるため、海上からの定期点検を実施し、護岸を健全に維持・管理しています。特に規制値を外れるような水が漏洩するリスクがある箇所には、遮水板や遮水シートの設置等、護岸に亀裂が生じても漏水しないように対策を講じています。

東日本製鉄所君津地区における環境問題の再発防止策について

東日本製鉄所君津地区において、2022年6月にコークスガス脱硫液を含んだ着色水が構外へ流出し、また、6月30日~7月2日に、#7排水口において排水基準超過が発生いたしました。更に、その後の社内調査により、他の排水口・排水溝での規制値超過および水質測定結果の不適切な取り扱いも判明いたしました。これらの事案により、近隣住民の皆様、行政およびその他関係者の皆様に多大なご心配とご迷惑をおかけし、心よりお詫び申し上げます。当社はこれらの事態を重く受け止め、原因究明と対策検討を行い、徹底した再発防止対策を進めております。

1.着色水の流出事案について

2022年6月、コークスガス脱硫液を一時貯留するタンクの補修部分より脱硫液が漏洩し、タンクの周囲に設けていた堰を超え、雨水集水側溝および地下経路を経て排水口系統から着色水が構外へ流出しました。当該タンクは、日常・月例の点検に加え、開放点検や板厚測定を行い、適宜修繕を行っておりましたが、今回の漏洩を防ぐことができませんでした。

本事案を受け、脱硫液タンクの更新だけでなく、防液堤の設置や排水系統の遮断等、“漏らさない”、“漏れても排水系統に流さない”、“排水系統で遮断する”の3重の対策による徹底した再発防止策を講じることとし、対応を進めております。

2.#7排水口における排水基準超過事案について

着色水の流出事案の発生を受けて、すべての排水口において毎日水質測定を実施したところ、2022年6月30日から7月2日の間に、#7排水口において、高炉集塵水に起因するシアンおよび全窒素の排水基準超過が発生しました。また、この原因調査の過程で、仮設ポンプを用いて高炉集塵系統の余剰水を他の排水口系統に送る等届出とは異なる方法で排水していたことや、複数の届出未実施の仮設ポンプやシアン処理装置等が存在することも判明しました。左記の#7排水口の排水基準超過は、このポンプの一つが脱落し、高濃度のシアンを含むスラッジを巻き上げながら送水したこと等により発生したと想定されます。

現在、届出未実施の仮設ポンプはすべて撤去し、更に高炉集塵系統内の処理装置を増強・新設して2重のシアン処理対策を行っております。

3.自主的な総点検により判明した事案について

上記事案の発生を受け実施した自主的な総点検の結果、#16排水口における法定測定において、シアン・全窒素の排水基準超過が測定された際に関係行政機関へ報告をせず再採水を実施し、基準内に収まった測定データを法定の測定結果として記録、保存していたこと、また、#16排水口における法定測定以外の測定において、シアン・全窒素の排水基準超過があった際、関係行政機関へ報告していなかったこと等、複数の排水口・排水溝における排水基準や協定値超過の未報告事案があったことが判明しました。

現在、この高炉集塵系統では、オーバーフロー対策の設備設置に加え、上記2と同様の2重のシアン処理対策を行っております。

4.意識面と組織・業務運営体制面の問題と再発防止策

これらの事案を受け、本件発生の原因には、法定測定や水濁法上の届出等に関する誤認、上司や他部門とのリスク共有の不備、水処理業務の関係者への環境コンプライアンス意識の浸透不足等の意識面と、高炉集塵水処理の管理体制、水質測定に関する業務運営等の組織・業務運営体制の問題があると考え、再発防止のため、下記の対策を実施しております。

再発防止策
【君津地区における対策】
  1. 1所内組織を再編し、環境・防災管理の専門担当組織を設置
  2. 2所内環境管理マネジメントを強化
    • 法令遵守と地域環境保全を最優先事項とする意識改革
    • 所内マネジメントにおける水質管理のプライオリティ向上
    • 水質管理業務従事者への教育強化
    • 水質測定業務の主管部門および起用会社の見直し
    • 水質測定業務フローの再構築(採水~測定~受領の業務フローの抜本見直し、関係行政機関への通報体制の整備)
    • 内部監査の強化
    • 行政届出必要設備の届出漏れを防止する仕組みの構築
    • 高炉集塵水の水質管理を操業部門へ移管
【全社における対策】
  1. 1本社組織を再編し、全社レベルの環境リスクを専門に管理する「環境技術・管理部」を設置
  2. 2全社環境マネジメント機能を強化
    • 「環境経営委員会」を、水質・大気等環境リスクに関する課題や取り組み等を審議する「環境管理 ・技術委員会」と「環境政策企画委員会」に再編
    • 環境監査・工場内部監査に関する内容の強化、見直し
    • 君津地区ソフト対策のうち必要な対策の他所への横展開

本事案に関する詳細は、当社ニュースリリースをご参照ください。

  • 東日本製鉄所君津地区 排水事案に関する報告書の提出について(2022.9.30)等

防液堤の設置

貯槽と防液堤

当社製造拠点では、万一、貯槽内の薬品溶液等が漏洩した場合にも外部への流出を防止するため、貯槽廻りに堰(防液堤)を設置しています。

貯槽の規模や貯留液の種類によっては、法律等で防液堤の設置が義務付けられているものもありますが、当社では、法律で義務付けられている貯槽のみに留まらず、貯槽から漏れたときに貯留液が構外に流出し環境汚染を引き起こすリスクのある貯槽には、総容量の110%を受け止め可能な防液堤を設置しています。

異常排水リスクへの対応
緊急排水遮断弁(瀬戸内内製鉄所 広畑地区)
緊急排水遮断弁(瀬戸内内製鉄所 広畑地区)

水リスクへの対応 局地豪雨対策・護岸漏水対策

局地豪雨対策

雨水貯水槽

近年、異常気象による局地豪雨等の発生頻度が増加傾向にあります。製鉄所の広大な敷地の中に降った多量の雨水は、排水処理能力の許容量を超えると、直接海域等に流出する可能性がありますが、原料を保管しているエリアでは、粉状の鉄鉱石や石炭などが雨水に巻き込まれ、着色した水が流出するリスクがありました。そのため、製鉄所内のリスクのあるエリアを特定し、当該エリアの雨水を集水し貯留できる大型の貯水槽を設置するなど、局地豪雨時等でも異常排水を防止できる対策を実施しています。

護岸漏水対策

護岸点検

製鉄所は、海に面した場所に立地しており、非常に長い護岸を有しています。護岸に亀裂等が生じると、水質を把握できていない地下水が海に漏れ出す可能性があるため、船を使い海上から護岸を定期的に点検しています。点検の結果、損傷部位を発見した場合には速やかに修理することで、護岸を健全に維持管理しています。また、規制値を外れた水が漏洩するリスクのある箇所には、護岸の背面(陸側)に遮水シートを設置したり、井戸を設置してポンプで地下水を汲み上げて陸側の地下水位を下げたりするなど、護岸に亀裂等が生じても漏水しないように対策を講じています。

製鉄所では使用する水の約90%を繰り返し利用

当社は、鉄の製造工程に使用した水のうち、一部は浄化処理後に製鉄所外へ放流しますが、大部分は再生・循環させて繰り返し利用します。循環利用にあたっては、一度使用した水を冷却・汚濁除去する等、用途に応じて様々な処理を行っています。そのため、日々の操業のなかで、各処理設備の点検・整備や水質管理を徹底しています。

スラグリサイクルの概念図

製鉄所の環境対策

水質浄化、異常排水防止

排水凝集沈殿処理設備

細かな不溶解成分を薬剤で大きな塊にして沈めることにより除去します。

加圧浮上設備

油分を気泡の力で浮かせて除去します。

活性汚泥処理設備

有機物をバクテリアで分解して除去します。

ろ過設備(二次処理)

処理した後の排水中に残る不溶解成分を砂の層でろ過し除去します。

排水自動監視装置

排水の水質を自動で監視します。

排水遮断ゲート

万一のトラブル時に排水を迎断します。

雨水排水処理設備

貯留した雨水の不溶解成分を凝集沈殿し除去します。

護岸点検

護岸に異常がないか、定期的に海上から点検を行います。

護岸損傷部の補修

点検で確認した損傷部位は速やかに補修を行い、護岸を健全に維持管理しています。