技術開発
素材としての可能性を極限まで引き出すこと、
すなわち「鉄を極める」という目標に向け、私たちは挑戦し続けています
製鋼工程には、高炉から出てきた不純物を含んだ鉄(銑鉄)を高純度化し、所定の 成分・温度に調整する精錬工程と、その後に製品の形に応じた鋼片を製造する鋳造工程があります。 精錬工程は、銑鉄に含まれる高濃度の炭素を、酸素を吹き込むことで所定の濃度まで除去する転炉を中心とした工程です。
上記の不純物のなかでも「リン」は製品性能に大きな影響を及ぼす元素です。そのため、 エネルギー産業をはじめとするお客さまのニーズが高度化するにつれて、製品に含まれるリンの濃度を下げること(つまり、「脱リン」処理)は精錬工程の大きな課題になっていました。「脱リン」反応はより低温(例えば1600℃よりも1550℃)で進みやすいことが一般に知られています。転炉では吹き込んだ酸素が溶鉄中の炭素などと反応しますが、この反応は発熱反応ですので、温度が1600℃以上に上がってしまい、「脱リン」には不利な条件になっていました。そのため、非常に低い「リン濃度」の鋼を得ようとすると、エネルギーや資材が大量に必要となり、コスト面からも環境面からも問題が多かったのです。つまり、従来の転炉法はリンを徹底的に除去した高級鋼の製造について、限界にぶつかっていました。
そこで当社が開発したのがSRP(Simple Refining Process)です。転炉を2基使って、1基目は脱リン、2基目は脱炭(炭素の除去)に機能を分割することにしました。これにより、1基目では低温で精錬することで、「脱リン」処理を効率的に行うことが可能となりました。そして、各々の炉の機能・役割に合わせた最適条件を追求した結果、驚くべきメリットが出ることがわかりました。能率とエネルギー効率が飛躍的に向上したのです。この技術は現在も世界最高能率の製鉄プロセスに貢献しています。
SRPにより、精錬(refine)する炉の仕事を単純化(simple)したことで、リンを徹底的に除去した高級鋼を、省資源・省エネルギー・低コストで高能率に製造できるようになったのです。
技術で社会のお役に立つ、それは当社のDNAなのです。
高級鋼の製造ニーズを背景に開発されたSRPによって低リン低硫鋼の安定製造が可能になりましたが、その反面で、転炉への溶銑装入温度が低下し、スクラップ使用量が制約を受けるようになりました。そのため、近年では、”転炉型の脱リン処理法”の特徴である強攪拌下での高速脱りん精錬能力とスクラップ溶解能力を生かした新たな操業形態が開発されました。
少ない石灰添加での低塩基度スラグによる溶銑脱リンとSRPの向流精錬の思想により、当社が開発したもう一つの転炉プロセスが「MURC(Multi-Refining
Converter)法」です。この方法では,一つの転炉で連続して脱珪・脱リン処理と脱炭処理が行われます。転炉での脱リン処理後、リン濃度が高くなったスラグを1度捨てて(中間排さい)、脱珪・脱リン済みの溶銑を残し、新たな石灰を少し足したスラグで溶銑中に残ったリンの除去と脱炭を行います。そして溶鋼を転炉から出し、最後に残ったリン濃度が低いスラグを次の溶銑の脱リンに再び使います。つまり、2回スラグを使って1回しか捨てないことで、鋼の純度を高めると同時に、スラグの排出量を抑え、製鉄所内の資源有効利用を実現した操業法です。一つの転炉での処理であり、スラグを高温状態でリサイクルすることで熱回収も可能なことから、使用できるスクラップ量も予備処理のない通常転炉精錬と同等に増加して生産性を高めることができます。
このMURC法は、極低リン鋼を除く一般鋼の精錬には、石灰添加量とスラグ量の削減、熱尤度活用(スクラップ使用能力拡大)などにおいて有効な製造方法です。