2021/04/01
日本製鉄株式会社
皆さん、入社おめでとう。コロナ禍の収束が見えない中で、大変大きな不安を抱えてのスタートとなったことでしょう。
このような先の見えない時は、私は、「原点と本質」の2つが肝要であると思います。日本製鉄グループの存在意義とは何か。日本や世界に対しどのような役割を果たすべきか、の原点に立ち返るということです。これは、皆さんが将来仕事や人間関係で悩んだ時に、なぜ自分は日本製鉄に入ったのか、という原点に返るのが大事だということでもあります。もう一つは、今起きていることの本質は何か、ということです。単に現象だけを見るのではなく、背景は何か、会社や自らにとってどのような変化をもたらすのか、を考えるということです。
日本製鉄グループの役割は、地球温暖化問題や自動車産業におけるCASEへの対応等、社会やお客様の様々なニーズや課題に対し、技術と商品で的確に応えていくということです。特に、CO2削減、カーボンニュートラルの実現は国の新たな目標であり、官民あげての総力戦です。国家間競争は既に始まっており、今後とも日本製鉄が世界をリードしていくためにはゼロカーボン・スチールを、何としても、他社に先駆けて世界で最初に実現しなくてはなりません。前人未踏の超革新技術への挑戦となりますが、この戦いに勝ち切ることで、当社の優位性は絶対的なものとなります。コスト面で最強の中国に対する劣位を覆していくことにもつながります。また、ゼロカーボンのスチールをお客様に供給していくことで、お客様も国際競争において有利な展開が可能となることから、お客様との関係性においても、当社の存在がより大きなものとなります。カーボンニュートラルの流れにより、技術開発力が競争力とブランド力を決める、当社にとって極めてチャンスの大きい時代がスタートしたと、前向きにとらえ、積極的に取り組んでいきます。
デジタルトランスフォーメーション、DXにも取り組んでいきます。当社は製鉄に関する高度なデータを膨大に所有しています。そのデータを有効活用し、意思決定のスピードアップや各職場での問題解決力の強化につなげていきます。コロナ禍によって、人と人とが接触することがリスクを伴うものとなり、そのリスクをミニマイズするためにはコストがかかるという、これまでに経験したことのない変化をもたらしました。このことも、デジタル化を大きく加速する要因となるでしょう。
以上が、ゼロカーボン・スチールへの挑戦と、DXの推進を、今年度からスタートする「日本製鉄グループ中長期経営計画」の4つの柱の内の2つとした理由です。
コロナ禍によって、世界鉄鋼業界の構造がより明確なものとなりました。1つは、新興国を中心にグローバルでの鉄鋼需要は拡大を続けることが証明された、ということです。2020年前半は対前年マイナスとなりましたが、後半に盛り返し、年平均では2019年並みの生産レベルを維持し、足元では増加傾向が続いています。もう1つは、中国の存在がより大きなものとなり、中国発での市場変動に、日本はじめ世界各国が影響される度合いが更に高まっている、ということです。
この様な事業環境に対応する基本方針としては、日本国内での生産はより付加価値の高いものにシフトし、一方で、需要が拡大する海外において、従来以上に積極的に現地生産を拡大し、日本製鉄グループトータルで、グローバル粗鋼生産年間1億トン体制を目指すということです。
こういった観点から、国内製鉄事業の再構築と、海外事業の深化・拡充を、中長期経営計画のもう2つの柱としました。
以上、4つの柱を推進していくことで、総合力世界No.1の地位への復活を目指すのが、当社の中長期戦略です。4つの柱の内、国内製鉄事業の再構築によって、強固な収益基盤を確立する事がその中心であることは言うまでもありません。2025年度を待たずに、一日でも早く実現することに、グループ一丸となって取り組んでいくこととなります。
以上のような当社グループの基本戦略を踏まえて、皆さんに、お願いとアドバイスです。
まず、職場規律の徹底による安全確保と法令順守です。決められた仕事の手順と禁止事項を守れば、皆さん自身も働く仲間も、安全が確保される対策は打たれています。安全に関する決まりを完全理解し徹底してください。勿論、皆さんのフレッシュな目で、もっとこうした方がより安全ではないか、という気づきがあれば、それを周りの人や上司に対して明確に言うことも、皆さんの権利であり義務でもあります。法令を違反する人には当社社員としての資格がない、これは言うまでも無いことです。
次に、職場に配属になったら、仕事を覚えて一日でも早く戦力となって下さい。大事なことは素直になることです。批判の前にまずは現状のやり方で、自分もやれるようになることです。その上で、他にいい方法があるのではないか?そもそもこの仕事は不要ではないか?という目で仕事をゼロから見直す癖をつけることです。背景や事情が変わったにも拘わらず、同じように続けているということが多いのも事実です。
そして、明確に問題を把握し、解決策を具体的に考え、周りを巻き込んで変えていく、そういう若手リーダーになって下さい。数年たてば皆さんも部下を持ち、突然重い責任を負っていくことになりますが、その時から始めても間に合いません。教育制度も充実していますが、日々の仕事を通じて自ら育つという気構えが大事です。
アドバイスの最後に、私の座右の銘を紹介したいと思います。日々の実践を通じてのみ力がついていく、という意味の「事上磨練」という王陽明の言葉です。行動や実践を通して知識や精神を磨く、ということです。皆さんへの心からの歓迎の意を込めて、この言葉を紹介します。
いずれにしても、大きな時代の変化の中で、多くの困難な課題を1つ1つ解決していかなくてはなりません。社長である私が自ら先頭に立って、乗り越えていく決意です。経営陣や会社を信じてついてきてください。一致団結して、世界に大きく飛躍しましょう。