製造業全体を同じKAMAのMESHIを食う仲間にする!

日本製鉄社内起業第1号 小林 俊さんの飽くなき挑戦
株式会社KAMAMESHI

株式会社KAMAMESHI 代表取締役社長 小林 俊さん

日本製鉄の社内起業第1号となる株式会社KAMAMESHIは、代表取締役社長を務める小林俊さん(日本製鉄からの出向社員)の「日本の製造業を復権させ、ものづくりを未来につなぎたい」という想いから生まれました。
日本の中小企業での設備老朽化という深刻な課題に対して、設備部品管理のデジタル化によって企業間を横断的につなぎ予備品マッチングを行うプラットフォーム「KAMAMESHI」を開発し、2024年4月からサービス提供を開始。わずか2年で200事業所を越える導入実績をあげ、設備故障時の効率的な対応に貢献しています。日本製鉄初のベンチャーがどのように誕生したのか。その軌跡を紹介します。

コロナ禍に本格始動した「製造業を救いたい」想いの具現化

KAMAMESHIの事業化立ち上げのきっかけは、新型コロナウイルス感染症対策による外出制限下で行われていた、日本製鉄グループ内の有志コミュニティによるオンライン交流会でした。

「私は大学時代に金型メーカーの社長と出会い、日本のものづくりに宿る誇りと奥深さを知りました。その後、新日鉄(現在の日本製鉄)に入社し、棒線事業部では営業や企画の業務などに携わるなか、お客様である日本の中小企業には高い技術力が脈々と継承され、貴重な経験値やノウハウが蓄積されている現場力のすごさを目の当たりにしました。
その一方で近年、個社では解決が難しい課題に直面し、事業の継続が難しい状況に陥っている。特に設備の老朽化が多くの企業にとって深刻な問題であることを痛感し、同じ志を持つ仲間と共に事業案の検討を始めました」

小林さんは2021年6月、日本製鉄グループ横断でチームを結成。それぞれ業務を終えたあと、平日の夜中や休日を使いながら、リモートで事業案の検討を進めました。立ち上げにあたっては、起案者の小林さんが「なぜやるのか」「なぜ今なのか」を言語化してチームの意思を醸成し、「自分たちの大義は何か」をしっかり話し合いました。

その大義を起点としてディスカッションを続け、「日本の製造業は、製品メーカーを頂点にサプライチェーンの垂直型のつながりは強いが、地域や業界を横断した水平型のつながりは弱い。ここに横串を刺して、人・もの・情報を共有して強みや機能を補完し合えば課題を解決できるのではないか」と考え、KAMAMESHIの理念を策定しました。

KAMAMESHIの大義
KAMAMESHIの理念

部品を入手したいお客様と予備品が提供可能なお客様のマッチング構想

理念策定後、小林さんは製造現場に足を運び、208社386人にヒアリングを行い、解決すべき課題を見極めました。設備老朽化の調査を深掘りしていくと、特定の予備品の調達ネックが深刻化していることが浮き彫りになりました。

「3万円の補修部品が調達できず、10億円の設備が動かせないというケースもありました。設備が止まれば立ち行かなくなり、日本のものづくりの強さを失いかねません。私も君津製鉄所(現在の東日本製鉄所君津地区)や八幡製鉄所(現在の九州製鉄所八幡地区)で生産管理を担当していた頃、設備が故障した際に設備復旧やリカバリー対応に追われました。そのことが原体験となっているかもしれません」

カーボンニュートラルや自動車業界の電動化対応など、新規の設備投資の判断は難しくなる一方、設備の老朽化は待ったなしに進んでいます。
他方、大企業では安全係数を見て予備品を確保し、資産管理のルールに沿ってこれらを定期的に廃棄しています。そこには、生産終了品や調達工期のかかる希少価値の高い部品も少なくありません。
また、問屋や商社には発注ミスや急な注文変更などで社内に滞留したまま残っている設備部品もあります。

小林さんは仲間とディスカッションを重ね、多角的に課題を探索し、設備故障が発生した企業と予備品の提供が可能な企業をマッチングさせるソリューション開発に取り組みました。ターゲットとなる初期顧客を見つけ、補修部品のネット取引に必要な在庫管理システムのデモを通して課題が解決されるのかを実証実験で見極め、フィードバックを受けながら改善を繰り返し、プラットフォームを構築していきました。

KAMAMESHIのプラットフォーム

多種多様な意見を求め、経産省グローバル企業家等育成プログラムに参加

「優秀賞」受賞@虎ノ門ヒルズフォーラム

2017年頃から日本企業にも新規事業やオープンイノベーションが浸透し始め、2021年には戦略に基づいて着手し成功を収める大企業も増加。若手社員の社内起業や他社・他業種とのコラボレーションが、企業や産業界を盛り上げていく風潮が高まりました。

「日本製鉄グループは高いポテンシャルがあるのですが、潜在能力を十分に発揮できていないという課題感を長年抱いていて、素材提供だけでなく、幅広くものづくりを支えられる会社に変えていきたいという強い想いを持っていました。

事業を進める上で、リソースを考えると会社内の新規事業が良いですが、顧客に寄り添いスピーディーな事業開発を進めるなら起業。両方が得られる状態だと社内起業がベストではありますが、当時の日本製鉄には制度がなく、模索する日々が続きました」

小林さんは活路を見出すべく、2021年9月から12月にかけて実施された経産省のグローバル企業家等育成プログラムに参加し、国内外で活躍している起業家の講義から多くを学び、翌年7月には選抜者20名のみが派遣される1週間のシリコンバレー研修へ赴きます。

「多岐にわたる業種から選ばれた参加者から事業案やプラットフォームに対してたくさんの意見をもらい、構想実現に向けて飛躍的に質を高めることができました」

小林さんの事業案は最終成果発表の場で優秀賞を受賞しました。

恵まれた環境と橋本社長(現・会長)の強力な後ろ盾を得る

小林さんは、シリコンバレー派遣決定後に東南アジア日本製鉄出向の内示を受け、5月にタイへ赴任しています。現地の社長に話を切り出したところ、「そんな良い話があるのならしっかり学んできなさい」と背中を押してくれたといいます。

派遣後、「優秀賞受賞」の成果を引っ提げて帰国した小林さんは、バンコク事務所やREの技術シーズ発表会などでKAMAMESHIを積極的に発信。
デジタル改革推進部の部長層によるバックアップ、社内報の掲載、副社長のタイ出張時に同行者がプレゼンする場を設けてくれるなど、上司をはじめ数多くの方からサポートを受け、社内で小林さんとKAMAMESHIの存在は少しずつ広まっていきました。

システムの実証なども進めるなか、どういった形で事業を実現するのが良いか、最適解が見えず苦しんでいた小林さんに救いの手を差し伸べたのは、最後の一年で人事改革の実施を計画していた橋本社長(現在は会長)でした。

「橋本社長に事業を発案した動機から内容、制度や仕組みが対極にある基幹産業とベンチャーの狭間で悩んでいること、この取り組みが会社の変革イメージと若手の離職率減少につながり得ること、さらに経産省の出向企業制度についても説明したところ、『若いうちに経営経験を積むことは意味がある。検討するよう指示をするから準備を進めるように。日本製鉄初の試みであり、大きく成功させてほしい』とご支持いただきました」

そこから社内の多くの関係者の協力もあり、わずか3カ月で出向企業制度を活用した起業の方向性が固まり、2023年8月に会社を設立。人事部と出向契約を取り交わし、10月1日に出向。11月に経産省の出向起業制度に採択され、事業開発費用の補助金を受けられることになりました。

走り回る日々、サービス提供開始と同時に新規顧客を獲得

新規顧客獲得のために小林さんが最初に狙いを定めたのは、愛知、大阪、東京都大田区でした。特に愛知や大阪では支社の皆様の協力もあり、自動車部品のTier1やコイルセンターやプレスメーカー、棒線2次加工メーカーなどへのプレゼン行脚に明け暮れます。

「KAMAMESHIの第一号会員になってくださったお客様は、豊臣機工さんと富士シートさんです。2023年12月に名古屋支店でプレゼンさせていただいたのですが、一週間後に部品がなくて困っていると役員の方から連絡を受けました。
まだ登録者がいないので、プラットフォーム内には部品がありません。必死でECサイト内を探しまわって無事発見することができました。役員の方には非常に感謝され、翌年4月のサービス開始と同時に会員登録してくださいました。リリースと同時に新規顧客を獲得でき、幸先の良いスタートでした」

登録品は二次元コードを発行でき、スマホやタブレットで更新可能。置き場を登録して、二次元コードを貼れば探す苦労もなくなる

「整理整頓されていると、故障時に部品が社内にあるのか簡単にわかるようになる。なければKAMAMESHIを見て、あればマッチングする。見える化と使いやすさも含めて好評で、『故障した部品が入手できず致命傷になる事態が避けられた』との声も多くいただきました。会員数は順調に増え、昨年の夏ごろからはプラットフォーム内でも部品が見つかるようになり、マッチングできるようになりました」

生産中止品は自動ひも付けして見える化できる。リスト表示もカテゴリ分類も自由に決められ、各企業で使いやすくアレンジ可能。この機能はビジネスモデル特許を取得している

システムを駆使しながらも1社1社と密にコミュニケーションをとり問題解決することを大事にしている小林さんの姿勢は、多くのユーザー企業の心を掴んでいます。

「お金をかけられない会社ほど切実に困っています。そこにも気づき手を差し伸べてくださる。かつ、問題が起きていないときでも利用し続けられるリーズナブルな価格帯で、今や『困ったらまずKAMAMESHIに』が当社全体の合言葉になっています」(豊臣機工 黒住専務)

「困りごとに徹底的に寄り添ってくださる姿勢に惚れ込み、ヨコのつながりで製造業全体を支えていく根底の考え方に共感しました。KAMAMESHIの会員となり、日本全体の製造業で困っているところを補い支え合っていく場づくりに我が社も協力していきたい」(トヨタ自動車 鈴木主幹)

「製造業を同じ釜の飯を食う仲間にする」計画は着々と実現中

2年間で得られた事業所数は約200カ所、掲載部品数は20万点以上に及ぶ

立ち上げ初期は日本製鉄関係企業が占めていたものの、今ではオーナー系や商社系、さらには競合他社資本の企業も数多く加入しています。

「私が望んでいた産業界全体に横串を刺すことが、コイルセンターにおいては実現できてきたと思います。直近は、トヨタ自動車さんとも契約し、積極的な連携を進めており、ヤマハ発動機さんが今まで廃棄していたものを提供してくださったりするなど、業界も系列も横断して仲間づくりが進んでいます。
さらに、KAMAMESHIは、日本語、英語、タイ語、中国語、インドネシア語、ベトナム語、スペイン語に対応しており、住友商事さんの東南アジアのコイルセンターや日本製鉄の海外の鋼管事業会社など海外拠点でも利用されています。国内外でどんどん輪が広がっています」

小林さんの精力的な活動によりKAMAMESHIの認知度は広まり、業界内の注目度の高さはもちろんメディアにも度々取り上げられ、数々の賞を受賞されています。

東京都ベンチャー技術大賞「優秀賞」受賞
日本経済新聞社主催NIKKEI THE PITCH GROWTH 2025-2026 「グランプリ」「オーディエンス賞」ダブル受賞

出会いがもたらすアイデアの活用がKAMAMESHIの本質的な価値となる

立ち上げより約3年、3期連続黒字で売り上げも1億円超え、4期目は売り上げ2億円と登録事業所数300カ所を目指して奮闘しています。

「今は自社の競争力を削いでまで、これを選ぶ/選ばないという時代ではありません。何がお客様にとってのベストなのかが基準となっているので、私たちも国内外問わず、枠を超えて連携先を持ち、幅広くかかわりながらKAMAMESHIのサービスを洗練させ、本質的な価値を高めていきます。
価値向上としてはもう1つ。最近、お客様の現場で既設の制御盤や操作盤などの電気品調査もやっていて、どの設備でどの部品が使用されているか、1工場で数千~数万点の部品に生産中止品状況・代替品情報を調べてデータ化もしています。点検や設備故障記録も付帯しているのですが、これはメンバーの強みを活かした新規サービスです。出会ったお客様だけでなく仲間の能力もフルに発揮できる会社でありたいと思っています」

小林さんの掲げる、枠を取り払ってすべてを横串にしてマッチングする事業は今の時代に求められているサービスであり、さまざまな人を巻き込みその能力を発揮させることで産業全体を活性化させたい想いと行動には、社員からも熱い視線が注がれています。

「学生時代に熱くて格好いい製造業に携わりたいと心を震わせ、日本製鉄で働いている方々のレベルの高さを目の当たりにして、『ここでなら日本の製造業を支える人間として成長していける』と入社を決めました。ずっと持ち続けてきた想いを、社内起業第1号『KAMAMESHI』という形にして、今、製造業を支えるために邁進しています。

橋本会長からいただいた『マネジメントと経営は別物。お客様に求められる本質的な提供価値を磨き続けることが重要である』の言葉を噛みしめながら前進し続けます。やりたいこと、実現したいことがまだまだあるんです」

日本製鉄初の社内起業家として、今後の活躍がますます期待されています。

六郷BASE オフィスにて
(プロフィール)

小林俊(こばやし・しゅん)2010年に新日本製鉄株式会社入社。君津製鉄所では生産管理、本社では営業や企画、八幡製鉄所では生産管理・鉄源構造対策プロジェクト、東南アジア日本製鉄のバンコク事務所営業駐在など、製造業の最前線からグローバルビジネスまで幅広く従事。2023年8月に株式会社KAMAMESHIを起業、同年10月に日本製鉄から出向開始。2024年4月にサービス開始を正式リリースする。