CM「鉄フェス」篇出演 鉄彫刻家 飯田誠二さんインタビュー

日本製鉄のCM「鉄フェス」篇で、神秘的な音色を響かせる鉄の楽器「Sei water WHALE」。その製作者は、銭湯のボイラーや消火設備を手がけてきた「飯田工務店」の三代目であり、鉄彫刻家としても活動する飯田誠二さんです。
幼い頃から鉄に魅せられ、彫刻の製作を通して“鉄が生む響き”の可能性に気づいた飯田さん。音響効果楽器との出会いをきっかけに、12年に及ぶ試行錯誤の末、鉄からやわらかな音色を引き出す独自の楽器を創り上げました。飯田さんが見つめ続けてきた 「鉄に宿る新しい表現」 に迫ります。

楽器作品を通して伝えたい、鉄が生む響き

プロフィール

鉄彫刻家。川崎市出身、茅ヶ崎在住。工務店の家に生まれ、13歳で溶接を習った。鉄に囲まれて育つなか、鉄の持つ可能性を感じて彫刻作品製作をスタート。2010年からは、鉄の本来の響きを追求した「音のかたち Seiシリーズ」を展開。「小さくても凝縮された振動が空間をつなぐ」というテーマのもと、風を受けてささやかに響く鉄彫刻、海洋ごみを活用した曼荼羅スコープ、鉄の架空生物など、多様な表現を生み出している。

目指すのは「誰でも触れて楽しめる楽器作品」を通して、鉄の振動が持つやさしさと豊かさを届けること。

鉄の音に囲まれて育った少年時代

─幼い頃から鉄の「音」に興味を持っていたそうですね。

70年以上続く「飯田工務店」の三代目として生まれ、幼い頃から鉄に囲まれて育ちました。
祖父の代には、公衆浴場で使われる風呂釜「飯田式ボイラー」を手がけており、時代とともにつくるものは変わってきましたが、配管や溶接といった“鉄の仕事”が、いつも身近にある環境でした。工場に響く鉄の音や、父が鋼材を下ろすときに鳴る「カン、カン」という音は、気づけば日常の風景になっていました。
焼き入れで鉄が硬くなると音が変わること、加工によって響きが変化することにも自然と気づくようになって。もともと金属楽器や打楽器、電子音の響きが好きだったこともあって、“鉄の音”に惹かれていきました。

きれいな音色に誘われ、自然と人が集まってくる路上演奏の一コマ。
─飯田さんが鉄の彫刻や楽器を手掛けるようになったきっかけは何でしょうか。

幼いころから工場に出入りして手伝ったりもして、実家の工務店の仕事は好きだったものの、若い頃は「華がないな」とは思っていました。祖父の代から、看板も出さず、営業もしない。それでも十分需要があった家業に誇りをもっていました。技術だけで勝負していて、高い技術を持つ父はまさに昭和の職人でした。銭湯のボイラーを修理して真っ黒になっている父はかっこよくて、尊敬していましたが、縁の下の力持ちってなかなか他人には伝わりにくいんですよね。友達は名の知れた企業に勤めて、自社のノベルティや商品をプレゼントしてくれるんですが、うちは扱っているものが鉄でしょう。持って行って自慢できない。鉄の板あげられないじゃん(笑)。そういう意味でも「華」がないな、と。そこで、「新たな鉄の魅力を引き出したい」と考えて始めたのが鉄の彫刻です。

家業を手伝いながら、鉄の魅力を生かした鉄の彫刻作品を手掛ける毎日でしたが、まだまだ重くて大きい彫刻は、やっぱりポケットに入れて友達に紹介するというわけにはいかず、なかなか魅力も伝わりにくい。 そんなとき、鉄の持つ「音」に気付いたんです。小さくても遠くの方まで伝わる、人を惹きつける響きに「華」を感じました。溶接の仕方によって音が変わることにも魅了され、鉄の持つ奥深い可能性にワクワクしました。

あと、なんといっても鉄の魅力は、やっぱり重さ。僕にとっては重さイコールかっこよさなんです。しかも重たいのに柔らかくて、力を加えれば折れずに曲がるので、非常に扱いやすい。鉄は、産業革命から続く千年の知恵が詰まった、人類の叡智の結晶だと思っています。

12年かけてたどり着いた音色

─これまでにないような鉄の楽器が生まれたのはなぜでしょうか。

きっかけは「ウォーターフォン」というステンレスなどで作られた楽器でした。
映画やドラマで、不気味な音を出すためによく使われています。独特の響きがずっと気になっていて、「もっと美しい音が出せるんじゃないか」「怖いイメージを取り除いて、人に寄り添う優しい音にできたら」と感じていました。
彫刻製作のなかで偶然鳴った音を、奏でられないか。家業で培ってきた精密な溶接の技術があれば、「鉄から新しい音が生み出せる」——そんな直感から、鉄の楽器づくりに挑戦し始めました。

─改良を重ねて誕生した「Sei water WHALE」。こだわりを教えてください。

目指したのは、「誰が弾いても美しい音が響く楽器」です。
音階を整え、深くあたたかな音色に仕上げるまで、試行錯誤は12年ほど続きました。海の中でクジラが歌うような響きが生まれたとき、ようやく手応えを感じ、「Sei water WHALE」と名付けました。“water”はウォーターフォンの発明者・Richard Watersさんへの敬意から名前をいただいています。
この楽器の特徴は、内部に水を入れ、水中に仕込んだマイクで音を拾う点です。水と電気を扱うため漏電のリスクがあり、これまで誰も本格的に挑戦してこなかった構造でした。
さらに、独特の響きを生むには、底面に厚さ0.5mmのステンレスを使う必要があります。厚さ1mmになると音が変わってしまうため、非常にシビアな調整です。
ただ、自分にはボイラーや配管のように“絶対に水を漏らしてはいけない”溶接を日常的に行っていたこと、表から溶接して裏側まで一体化させる「裏波溶接」ができたことで、この構造を実現できました。

「華」を求めて見つけた、鉄の可能性

─子どもたちに鉄の楽器を触ってもらう活動もされているそうですね。

はい、子ども向けのイベントなどで、実際に鉄に触れてもらう機会をとても大切にしています。 僕が子どもの頃は、茶の間にも当たり前に鉄製品があったものですが、今は生活の中からほとんど姿を消してしまいました。このままだと、鉄特有のひんやりとした質感や、あの独特の澄んだ響きさえも忘れ去られてしまうんじゃないか……。そんな危機感があるんです。

だからこそ、自分の作品を通して「鉄は決して危ないだけのものじゃないんだよ」ということを伝えていきたい。まずは触れて、音を鳴らして、鉄という素材を肌で感じてほしいんです。今の僕にとっては、単に魅力をアピールするというよりも、「鉄という存在そのものを、もっとみんなに分かってもらいたい」という一心で活動しています。

─日本製鉄のCMに楽器をご提供いただきました。CMをご覧になっていかがでしたか。

最初に「CMで使わせてください」とご連絡をいただいたときは、驚きましたし、うれしさが込み上げました。演出に合わせ、立ちながら演奏できるようフックを追加するなど、CM用の調整も加えて撮影に臨みました。
完成した映像を見たときは、フェスのような明るい世界観の中で、自分の楽器が他のメジャーな楽器と並んで登場している姿を見て、 「“楽器”として認めてもらえた」と誇らしかったです。

鉄を楽器にしたことで、日本製鉄さんをはじめ鉄の魅力をたくさんの人に知ってもらえるようになりました。ポケットサイズの楽器はいろいろな人にお渡しができますし、道で演奏すれば子どもたちが集まり、人の輪が広がっていきます。さまざまな人からお問い合わせもいただくようになりました。これからも人を惹きつける鉄の魅力を発信し、鉄を通じた人とのつながりを、どんどん広げていきたいですね。

飯田さんが生み出す“鉄の音と作品”

Sei WHALEのほかにも、飯田さんは鉄の可能性を音や視覚で伝える作品を多数製作しています。

「SINGING Sei」
内部の突起と鉄の厚みが生む涼やかな音色。手で軽く揺らすだけで鉄が歌い出す、掌サイズの楽器。
「TANK DRUM」
プロパンガスボンベを加工し、複数の音階を刻み込んだ本格的な楽器。ドレミファソラシドが美しく響きます。
「wakka RING」
内部に仕込まれたパーツが回転し、鉄とぶつかって軽やかな音を奏でるリング状の作品。
「曼荼羅スコープ」
海洋ごみを材料として製作した万華鏡。鉄の外装越しに広がる光の模様は、見る人の感性を刺激します。

曼荼羅スコープの動画

鉄の魅力を届けたい

鉄は重い、硬い、無機質——そんなイメージを持たれがちです。
しかし、加工の仕方や厚み、たった数ミリの違いで、驚くほど豊かな表情を見せてくれます。

飯田さんのSei WHALEをはじめとする作品は、 「鉄には、こんなに柔らかく豊かな世界がある」ということを音で実証しています。

日本製鉄はこれからも、身近にある鉄の魅力、鉄が持つ可能性を多くの人に届けていきたいと考えています。