鉄鋼スラグと腐植物質からなる海域施肥材料を用いて実海域での磯焼け改善効果を確認

2005/09/20

工学院大学
新日本製鐵㈱
㈱エコ・グリーン
西松建設㈱

 海の緑化に向け産学研究を進めている「海の緑化研究会」 (代表:工学院大学教授 定方 正毅氏 東京大学名誉教授)は、近年の漁獲高減少の一因とされる海の磯焼け改善に有効と して研究を進めてきた、鉄鋼スラグと腐植物質からなる混合物の実用化に向け、北海道増毛町 にて実海域での施肥実験を行い、その大きな効果を確認致しました。

 今、日本の沿岸では磯焼けが急速に進んでおり、水産庁によれば沿岸域の数千haもの藻場が消失していると報告されています。この磯焼けとは、コンブやワカメ等の有用な海藻群落が  消失し、岩石や岩盤が石灰藻と呼ばれる炭酸カルシウムを主成分とする白色小型藻類に覆われ海が砂漠化した状態を言います。磯焼けの広がりは魚の生息場のみならず産卵場所まで消失 させるため、各地で漁業に大きな被害が出ており、豊かな海の生態系の再生を促進させることは 喫緊の課題となっています。

 磯焼けの原因としては、海水温の上昇、水質汚濁といった環境変化や、有用な藻類をウニが食い荒らす等の種々の複合要因があると言われていますが、海に流れ込む河川の上流における木々の伐採により、それまでは落ち葉が堆積してできていた腐植土中の腐植酸鉄ができにくく なり、有用な藻類の成長に必要な鉄分(二価鉄イオン)の海への供給が減少したことも原因の 一つと考えられています。

 定方教授は、6年前から東京大学にて磯焼け改善の研究に取り組み、鉄鋼スラグ等の二価鉄を含有する物質と廃木材チップを発酵させた腐植物質の混合物中に存在するフルボ酸鉄が  アオサやコンブといった藻類の成長促進に有効であることを、(独)産業技術総合研究所等と  研究室での基礎実験や水槽を用いた培養実験を通じて科学的に明らかにし報告してきました。

 研究会メンバーである新日本製鐵㈱、㈱エコ・グリーン、西松建設㈱の3社は、当該混合物の実海域での効果を確認するため、同じく磯焼け改善に向け独自に発酵魚粕を用いた海域施肥実験を積極的に進めてきた北海道増毛町の増毛漁業協同組合の協力を得て、昨年11月に  同町にて磯焼けが深刻な舎熊海岸の汀線(波打ち部の陸側)約15mに施肥ユニットを設置しました。このユニットは、鉄鋼スラグと腐植物質の混合物をヤシ繊維で編んだ袋に充填したものです。本年3月以降、海中観察を進めてきた結果、ここ数年の間、石灰藻に覆われて海底一面が真っ白な状態であった同海岸において、ユニット設置部から沖合いへ30mほどの海域にコンブ等が豊かに生育していることが確認できました。
[ ㈱北海道オーシャングリーン開発撮影の別添写真参照 ]

 この結果は、長年、進めてきた基礎研究結果と一致し、さらに漁礁ブロックといった新たな藻場基盤を海底に設置しなくても、ある実海域において二価鉄含有物と腐植物質の混合物が磯焼けの改善、とりわけコンブの成長促進に有効であることが初めて確認できたものと考えます。今後も、この効果の長期的な持続性や、物質循環や生態系といった環境への影響等について調査を 続けていきます。

 本技術は、藻場再生による近海漁業の活性化や、鉄鋼スラグ、バイオマス等の有効利用に 寄与できるのみならず、コンブ等の藻類が陸上の植物に比べて3~5倍も成長速度が速く、その生育時に二酸化炭素を効果的に吸収することから、将来の温暖化抑制に向けた対策技術としても期待できると考えます。

                          以 上

<本件に関する問合せ先>
工学院大学
 工学部教授 定方正毅 0426-28-4574 
新日本製鐵(株)
 総務部広報センター 鈴木聖人 03-3275-5021
㈱エコ・グリーン
 代表取締役社長 堀家茂一 042-710-7031
西松建設(株)
 技術研究所 長谷部廣行 046-275-0079

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