スチール製超軽量車プロジェクトの開発成果ULSAB-AVC (UltraLight Steel Auto Body - Advanced Vehicle Concept)

2002/01/31

2002年1月31日
新日本製鐵株式会社
NKK
株式会社神戸製鋼所

 IISI(国際鉄鋼協会)が中心となり、世界の鉄鋼会社33社、日本からは新日鐵、NKK、神戸製鋼が参加し共同で推進したULSAB-AVC (UltraLight Steel Auto Body-Advanced Vehicle Concept) プロジェクトは、1月30日その成果として高性能の高強度鋼材(AHSS;Advanced High Strength Steel)を多用することにより、自動車の大幅な軽量化を達成することができ、燃費の向上と高いリサイクル性を通じて自動車の環境負荷を低減できること、さらに高い衝突安全性と低価格が実現できることを公表した。
 今回のプロジェクトは、99年に取り組みが開始され、1500ccクラスの小型乗用車(以下C-Classと呼ぶ)と2500ccクラスの普通乗用車(以下PNGV;Partner-ship for a new generation vehicleと呼ぶ)を対象として、ボデー、エンジン、サスペンションから内装に亘る車両全体の設計を実施したものである。94年から98年にかけて実施されたULSABプロジェクトが、ボデーの軽量化を目指して行われたのに対し、このプロジェクトは車両全体の設計を行うことによりSteelの軽量化に対するポテンシャルの高さを示そうというものである。使用された鋼材は、ULSABでは汎用鋼板が主体でありハイテンの使用比率は64%であったのに対し、ULSAB-AVCでは大幅にAHSSを採用し、ほぼ100%の部品にハイテンを適用した。また、安全・環境に関する目標も高く設定し、2004年に予想される欧米での衝突安全テスト(NCAP;New Car Assessment Program)で「4つ星」から最高の等級である「5つ星」の高い評価を得ること、140g/km以下のCO2排出規制をクリアーすることとした。製造コストに関しても上昇を極力抑えることを考慮した。

以下、本プロジェクトの特長と成果について述べる。(以下、図については文末「詳しい資料はこちら」をご覧下さい)
(1)主な特長
【ベンチマーク】
 目標設定のためのベンチマーク車として、C-Class(1500ccクラス)ではFord Focus、Peugeot 206を、PNGV(2500ccクラス)ではAudi A6、Daimler ChryslerE-Classを選定した。これらに対して車両全体の重量を20~30%軽量化することを目標とした。
【スタイリング】
 スタイリングは、図1に示すようなC-Classでは、ハッチバックタイプ、PNGVではセダンタイプである。
【材料・加工法】
 構成部材のほぼ100%にハイテンが使用されている。そのうち約80%がAHSSである。AHSSは、Dual Phase鋼あるいはTRIP鋼などの組織制御されたハイテンで、従来のC-Mn系、析出強化系ハイテンと比べて、成形性と衝撃エネルギー吸収特性に優れている。AHSSを使用することにより、スタイリング、パッケージングと安全性を考慮しつつ軽量化を進めるに当たっての設計の自由度を増すことができた。使用されている鋼材の種類と使用比率を図2に示す。またC-Class車を例に使用部位を図3に示す。AHSSの適用が可能になったのは、設計を担当したPorsche Engineering Service(PES)社と鉄鋼メーカーとのサイマルテイニアスエンジニアリングに依るところが大きい。設計の早期の段階から鉄鋼技術者が参加し、新しい鋼材の選択、成形シミュレーションを共同で行った。

鋼材の最適な適用技術として図4,5に示すようなテーラードブランクとテーラードチューブが多用された。テーラードブランクは車体構造の40%近くを占め、テーラードチューブは6%含まれている。加工法としては、ハイドロフォームも多く用いられ20%以上の部品で採用されている。蓋ものでは、シートハイドロフォームも採用し、ドアなどの軽量化に寄与している。
【ボデー構造】
 ボデー構造を図6に示す。フルラップ、オフセット衝突に対応するために、2本のフロントレールがフロアの下部から後部にまで延長され、前面からの衝突荷重を伝達する構造になっている。図7に示すようにキャビンに対して、ピラミッド構造の部材を取り付け、これによりロッカーからピラーに荷重を分散させている。また、側面衝突に対応するために、シート下部にクロスメンバーを入れ、その他にピラー及びピラー下部には効率的な補強部材が採用されている。また、ボデーサイドには、Aピラーからルーフサイドを通りホイールハウス上部にかけて一体となったテーラードチューブ材を配置している。
【クロージャー】
 ドアでは、シートハイドロフォーム技術などULSACの技術を採用し、大幅な軽量化をはかった。フードは、軽量化と歩行者の頭部傷害軽減のために開かない構造を採用し、メンテナンスのための最小限のサービスリッドが取り付けられている。
【サスペンション】
 フロントサスペンションは、軽量化と歩行者保護の観点から、ショックタワーがなく、リーフスプリングを擁した新しいダブルウィッシュボーン形式を採用した。さらに、エンジンマウントとフロントエンドモジュールの一部を兼ねた構造とし、大幅な軽量化をはかった。リアサスペンションは、鋼管をU字型に加工した断面形状を持つツイストビーム方式を採用した。図8にサスペンションの概要を示す。
【エンジン】
 前面衝突の際にエンジンをフロア中央部のトンネル内に逃がしキャビンへ侵入しない構造とするために、エンジンは幅の狭い3気筒エンジンを採用した。エンジンは、ガソリン及びディーゼルの2種類を設計した。その1例を図9に示す。歩行者保護の観点から、フードの下から硬い部品をなくすようにフロントレールの下に後に倒した形で配置し、加えて操縦性の改善のために変速機をエンジンの前に置くといった革新的な設計を採用した。これにより前後輪への重量分配をほぼ等しくすることができ、操縦安定性が増している。
【その他】
 電柱等への側面衝突の際の安全性を高めるために、シート下部にクロスメンバーを配置し、シートはこれに固定した。このため、図10に示すようにペダルとステアリングは可動式とした。

(2)成果
  主な成果は次の通りであり、まとめた結果を表1に示す。
【軽量化】 
ベンチマーク車(ガソリン車)に対し車両全体の重量で20~30%の軽量化を目標としたが、今回の結果では19%(C-Class車1147kg→933kg)~32%(PNGV-Class車1470kg→998kg)の軽量化を達成した。
【CO2排出量】
欧州の2008年CO2排出規制である140g/kmを目標とし、これを大幅に達成した。
【衝突安全性】
2004年に予想される欧米での衝突安全テスト(NCAP;New Car Assessment Program)で「4つ星」から最高の等級である「5つ星」の高い評価を得ることを目標とし、これを達成した。
【コスト】
PESの開発したコストモデルにより$9190~$10240という低コストでの製造が可能となる。

ULSAB-AVCの開発成果は自動車技術展 (パシフィコ横浜 7月23日~25日)において展示、説明される予定である。

連絡先:
新日本製鐵株式会社 秘書部 広報センター    菅家  03-3275-5021
NKK       秘書部 広報企画グループ  奥津  03-3217-2123
株式会社神戸製鋼所 コミュニケーションセンター 浜田  03-5739-6010

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