世界最高性能の油井管特殊ねじ継手「VAM®21」の開発について

2010/10/20

  • 住友金属工業株式会社

 当社は、油井管に使用する特殊ねじ継手「VAM®」(*1)の高性能製品「VAM®21」をVallourec社(以下 バローレック社(*2))と共同で開発しました。「VAM®21」は、これまで掘削の困難であった超大深度の天然ガス田・油田の開発を可能にしました。
「VAM®21」の性能は世界最高水準で、超大深度の天然ガス田・油田でも安定した性能を発揮するスーパーハイエンド品です。


1.開発の背景
油井管を使って天然ガスや石油を開発する時、多数の油井管を「ねじ継手」で接続して使います。ねじ継手で接続された地中の油井管には管の外から内側に押す地圧、内側からの天然ガス・石油の圧力、管自身の重さによる管の長さ方向の引張そして圧縮といったさまざまな荷重がかかります。超大深度の天然ガス田・油田では、地圧に加えて、管の重さによる長さ方向の圧縮荷重が大きな課題です。
ねじ継手の試験規格には、大きな荷重下でも管接続部の漏れを起こさないこと(シール性能)を調べるテストがあります。もっとも厳しいISO規格(*3)は、油井管本体が壊れるギリギリの圧縮荷重を繰り返しかけるというテストを含んでいます。これまで、このテストに全サイズで合格したねじ継手はありませんでした。
一方、開発現場での締結作業が容易であることも重要です。油井管とねじ継手を締結する時に、ねじの山谷がきちんと噛み合わないまま締め付けてしまうと、ねじ山が潰れたり、焼き付いたりといったトラブルが起こり、管の端を切り落としてねじを再加工するなど、余分なコストが発生します。

2.「VAM®21」の特徴
(1)「VAM®21」は、従来にない高いシール性能をもっています。

   「VAM®21」は、油井管の端の雄ねじ部で雌ねじと密着して漏れを防ぐ部分(シール面)の先に「VAM Stabilizer™ 」と呼ぶ延長部を設けました。
油井管の端部のシール面は、カップリング(両端に雌ねじをつけた短い鋼管で、雄ねじのついた油井管を接続する部品)のシール面より少し大きめに作られています。雄ねじの方を雌ねじより少し大きく作ることで、シール面同士を強く密着させる設計なのです。
「VAM Stabilizer™」には、先端以外はカップリングと接触しないように隙間があります。延長部「VAM Stabilizer™」があることで、油井管の雄ねじシール面は、管の端ではなく、少しだけ内側に位置したかたちになりました。雄ねじシール面が、雌ねじのシール面に締め付けられ、縮められた時に、シール面だけでなく、油井管の延長部「VAM Stabilizer™」が元の大きさに戻ろうとする力も加わり、雄ねじ雌ねじ2つのシール面がより強く密着するようになったのです。
「VAM®21」が世界で初めて実現した優れたシール性能は、製品化した全サイズで、最も厳しいISOの試験規格に合格できます。

 (2) 「VAM®21」を使えば、ねじ継手の締結作業が容易になり、トラブルを回避できます。

   油井管のねじ継手は斜めに入るとねじの山谷が噛み合わなくなります。この問題を解決するために、従来のねじ継手は、ねじ山の頂面を管軸に対して斜めにしていました。油井管をカップリングに差し込んだ時に、油井管の雄ねじの山の頂面と、カップリングの雌ねじの山の頂面がぶつかることで、油井管とカップリングがまっすぐになることを狙った仕組みでした。ところが、まれに頂面同士がきちんと当たらない場合があり、すると噛込み(ねじの山谷が噛み合わず、引っ掛かって動かない状態)が発生していました。
「VAM®21」では、ねじ山の頂面を管軸と平行にし、かつねじ山の斜面を面取りしました。これは、油井管とカップリングが最初にまっすぐになることではなく、逆に油井管とカップリングの間に適度な遊びを作ることで、締結の過程での噛込みが起こるのを防ぐという発想の転換に基づく設計です。これで現場での噛込みが減少し、締結作業性が向上しました。
また、「VAM Stabilizer™」によってシール面が油井管の端ではなくなったので、管の端をどこかにぶつけてもシール面は傷つかずに済み、現場の手荒な扱いによるシール性能低下が起こらなくなりました。

 「VAM®21」はその高いシール性能で、超大深度の天然ガス田・油田開発を可能にしました。またその締結作業性から、天然ガス田・油田開発を容易にする製品として、メジャーオイルをはじめとするお客様から注目されています。

3.今後の展開
  「VAM®21」は昨年5月、環境の厳しい北海油田の天然ガス田開発で初めて使用されました。高いシール性能と現場での優れた締結作業性は、お客様から高い評価をいただいています。その後も、世界最高水準のねじ継手として、東南アジア、西オーストラリア、中東で販売実績を重ねています。
現在はケーシング(*4)や大径チュービング(*5)として使用される、外径が9-5/8インチから13-3/8インチまでの22サイズを製品化しています。今後もサイズラインナップを順次充実させて、厳しい環境でエネルギーを開発するお客様の要望に応えていきます。

以 上



<説明図>

図1「VAM®21」の新技術の説明図 (1)油井管端部(「VAM Stabilizer™」)の形状

図1「VAM®21」の新技術の説明図 (2)締結作業の容易性

図2 「VAM®21」の販売状況

<用語解説>
*1 VAM®
当社とバローレック社が共同開発しているシームレスパイプの特殊継手のブランド名。全世界の高級油井管に占めるシェアは約40%で第1位です。世界46ヵ国に137ヵ所ねじのリペアショップがあり、世界一のサービス体制です。

*2 バローレック社
(1) 本 社  :フランス
(2) 代表者  :Philippe Crouzet
(3) 事業内容 :石油・ガス用その他鋼管の製造・販売
(4) 資本金  :229,123千€
(5) 従業員数 :約18,600人(2009年12月31日現在)  
当社とバローレック社は、シームレスパイプの特殊継手の世界的有力ブランド「VAM®」で、30年以上の提携関係にあります。

*3 もっとも厳しいISO規格
油井管のユーザー(メジャーなどの石油会社)とメーカー十数社で組織された国際規格委員会で制定された、油井管特殊ねじ継手の実体試験規格 ISO13679 CAL Ⅳのことです。

*4 ケーシング
天然ガス田・油田で、井戸の坑壁の崩壊を防止する目的で埋設される油井管。大きいものは外径20インチ程度から、小さいものは5インチくらいまでの油井管が使用されます。

*5 大径チュービング
上記のケーシングの中に設置される、生産物を汲み上げるための油井管。通常は外径2-3/8インチから7インチ程度までの小径の油井管が用いられますが、近年は井戸の生産効率を上げるため、9-5/8インチといった大径の油井管も使用されます。


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