低りん鋼の高効率生産と環境負荷低減の同時実現
-粉体上吹き法による新溶銑脱りん技術の開発-

2010/10/20

  • 住友金属工業株式会社

 鋼に含まれるりんは、一般的に鋼の性能を悪化させる有害な不純物です。強度(硬さ)を低下させる、靱性(粘り強さ)を劣化させる、耐腐食性を弱めるなどの影響があり、これを低コスト、低環境負荷で除去することは製鋼工程の大きな課題です。今般、当社は、脱りん剤を粉体にして溶銑表面に吹きつける革新的プロセス「SRP-Z(図1)」を開発し、これを世界で初めて工業的に適用することに成功しました。
SPR-Zは、脱りんの反応効率を飛躍的に高めることで、高級鋼の品質を改善し、生産能率を向上させ、環境負荷を低減することを可能にする技術です。
この技術は、当社が、2006年に「大河内記念生産特賞(*1)」を受賞した「SRP (Simple Refining Process」を発展させたものです。

1.開発の背景

 製鋼工程の精錬の役割は、高炉から出てきた不純物の多い鉄(銑鉄)の純度を高め、所定の成分に調整することです。なかでも重要なのは、脆さの原因になる不純物、とりわけりんと炭素の除去(脱りん、脱炭)です。
脱りんと脱炭は、必要な熱力学的条件(温度、塩基度など)が異なっています。従来ひとつの転炉で行っていたこの二つの機能を専用の炉に分担させたのがSRP技術でした。炉を二つ使うことによるエネルギーや時間のロスを、専用炉の効率アップで上回り、能率、エネルギー効率、環境負荷、品質すべての点で従来プロセスを大きく凌駕するプロセスを実現したのです。
脱りん炉で使う脱りん剤は、塊状の生石灰(酸化カルシウム・CaO)です。生石灰は安価な反面、融点が2000℃以上と高く、塊状では溶解が遅いという問題がありました。そのため脱りん炉内で全量を溶解できずスラグ中に未反応のまま残っていました。従来の対策は、脱りん炉の底吹きガス流量を増やし攪拌することでしたが、改善には限度がありました。

2.開発の概要

 (1)粉体上吹き溶銑脱りん法(SRP-Z)

   今回開発したのは、生石灰を粉にして、酸素とともに上吹きランス(*2)から溶銑表面へ吹きつけるという方法です。粉は表面積が大きいので反応速度が上がります。従来は、粉が転炉内で舞い上がり、溶銑と反応せずに炉外へ排出されてしまうので塊を使っていたのです。当社は、粉体上吹きに適した特殊な形状のランスを開発し、かつ操業条件を改善することで、ほとんどの生石灰の粉を溶銑と反応させられるようになりました。この結果、生石灰の投入量を15%減らしたうえに脱りん時間を短縮することに成功しました。
さらに、脱りん反応を促進する機能を持つアルミナ( AL2O3 )を含むスラグが使用可能になりました。アルミナを含む脱りん剤は粘性が高いので、反応で生成するガスの気泡がスラグ表面から抜け出せず膨張します。この膨張が原因でアルミナを含むスラグは従来使えませんでした。新プロセスSRP-Zの粉体上吹きを使えば表面の気泡を破ることができます。アルミナを含んだ取鍋スラグ(*3)を利用すると、さらに高い脱りん効率を実現できます。

 (2)効果

   新プロセスSRP-Zは脱りん能力の向上に加えて、大きな副次効果を生み出します。
第一に、二酸化炭素( CO2 )削減効果が挙げられます。加熱する生石灰が減るので、必要なエネルギー量が低減し、鋼1トンを作るために排出される CO2 量が削減されます。
第二に、鉄ダストの低減です。生石灰の粉が舞い上がりにくいランスと操業改善の結果、鉄ダストの発生も減少しました。歩留が向上し、作業環境も改善しています。
第三に、脱りん炉スラグの有効活用のための負荷軽減です。従来、スラグを路盤材として活用するには養生(*4)が必要でした。スラグ中の未反応生石灰が水と反応すると膨張する性質があります。これでは路盤材として使えないので、販売する前に未反応生石灰を水と反応させる必要があったのです。SRP-Zではスラグに未反応生石灰がほとんど残らなくなり、養生時間を大幅に軽減しても路盤材として活用できるようになりました。
第四に、取鍋スラグのリサイクル用途を社外に求めずに、社内の製鋼工程で活用することができるようになります。

3.今後の展開

 今回開発した粉体上吹き脱りん法は、当社/鹿島製鉄所および株式会社住金鋼鉄和歌山の転炉で実用化され、エネルギー分野に使われる高級鋼の量産に寄与しています。さらに今月稼働の株式会社住友金属小倉の新脱りん炉でも適用する予定です。
鹿島製鉄所はすでに取鍋スラグの社内リサイクルを実現し、環境負荷の低減に貢献しています。住金鋼鉄和歌山と住友金属小倉でも適用を検討しています。
当社は本技術により、グループ全製鉄所において、高品質の製品を、低い環境負荷で、高能率で製造する技術を進化させていきます。

 

<図1 粉体上吹き溶銑脱りん法(SRP-Z)の概要>

 

<図2 鹿島製鉄所での製鋼スラグのリサイクルと活用>

 

<用語解説>

*1)

大河内記念生産特賞

大河内記念会から毎年、わが国の生産工学、生産技術の研究開発、および高度生産方式の実施等に関する顕著な功績に対して贈呈される賞です。

*2) 上吹きランス
転炉の上部から炉内の溶銑へ大量の酸素を供給するための管のこと。その先端には複雑な構造の孔が複数設けてあり、その孔から吹き出した酸素ジェットが転炉内の溶銑へ衝突します。
*3) 取鍋スラグ
連続鋳造した後に残る製鋼スラグの一種で、脱酸剤として添加するアルミニウム由来のアルミナを含んでいます。
*4) 養生
転炉から取り出されたスラグの中にある未反応生石灰を水分と反応させて、十分に膨張させ安定化させること。長期間屋外に置いて雨水などで反応させる方法や、蒸気をあてて短期間で安定化させる方法があります。

以 上



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