世界初 鉄系閉断面構造部材における究極の超ハイテン化技術を開発
― 3次元熱間曲げ焼き入れ(3DQ)量産加工技術の開発について―

2009/10/13

  • 住友金属工業株式会社
  • 住友鋼管株式会社

住友金属工業株式会社、並びに住友鋼管株式会社(以下 住友金属グループ)は、この度、世界で初めて、鋼管を素材として1470MPa以上の強度を有する自動車部品を成形可能な3次元熱間曲げ焼き入れ量産加工技術(以下 3DQ (*1))を開発しました。本技術は、鉄系閉断面構造(*2) 部材における究極の超ハイテン化技術であり、本技術を適用することによって、従来と比較して30~50%の部材軽量化と大幅な衝突安全性が可能となり、将来のスペースフレーム車体構造(*3) につながる技術として期待されます。

1. 開発の狙い

近年、自動車業界は、地球温暖化防止を目的とした CO2 削減(燃費向上)のための車体軽量化や、安全性向上対策としての衝突安全性の向上に、重点的な取り組みを行っています。本技術は、この2つの相反するニーズに同時に対応するものとして開発されました。車体の主要部材である閉断面構造部材を超ハイテン化し、さらに任意形状(3次元形状)の部材を製造できる量産加工技術です。住友金属グループは、これを世界で初めて実現しました。

2. 開発の概要とポイント

本技術は、鋼管を素材とした1470MPa以上の強度を有する閉断面構造の自動車部品を成形可能とする量産加工技術です。従来技術で実現可能な強度は最高でハイテン980MPaクラスであり、今回、世界で初めて1470MPaクラスの強度を実現しました。
鋼管を局部的に加熱しながら水冷によって焼入れしつつ、同時に可動ローラダイスにより曲げモーメントを与えることによって曲げ加工を行い、複雑な形状をした閉断面構造部材を一工程で製造することが可能です。



【3次元熱間曲げ焼き入れ(3DQ)量産加工技術】

本技術は、任意形状の3次元加工を行うとともに同時に焼き入れを行う逐次成形法であり、従来のハイドロフォームをはじめとする冷間加工では達成不可能な効果を得ることが可能になります。
熱間プレス(*4) の焼き入れによる強度向上効果と、ハイドロフォーム*5 による閉断面構造加工の長所を、併せ持つ画期的な技術であり、本技術を適用することによって、30~50%の自動車部品の軽量化と大幅な衝突安全性の向上が期待できます。
本技術は、
・ 1470MPa以上の強度の部品が得られる。
・ 形状凍結性が良好である(スプリングバック*6 が小さい)ため、成形精度が良好。
・ 成形品の残留応力が小さい。
・ 成形品の残留応力に起因する遅れ破壊*7 の心配がない。
・ 閉断面構造の成形が可能であることから、プレス成形品の溶接組み立て時に必要なフランジ部*8 が省略できるとともに、部品点数を減らすことや、付加的な溶接が省略可能。
・ 任意の曲げ形状を加工でき、複雑部品の一体化が可能。
・ 部分的な焼入れが可能で、自動車部品の必要な部分だけを高強度化しやすい。
・ 金型数の大幅な削減が可能。(ダイレス成形)
という特徴を有しています。

3. 最近の加工技術の開発状況

住友金属グループは、自動車メーカーの高度な要求に応えるべく、1997年、国内初の大型ハイドロフォーム機を導入し、以降、自動車メーカーとの共同開発を通じて、多数の鋼管ハイドロフォームによる自動車部品を実用化し、この分野において国内最大の実績を有しています。
一方、熱間プレス技術は、1470MPa以上の強度を有する開断面構造の自動車用高強度部材として、1992年頃から欧州で適用され、最近日本国内にも適用拡大している技術です。住友金属工業株式会社は、これまで高周波焼き入れ鋼で培った技術を活用し、2001年には、熱間プレス用後熱処理鋼板(商品名:スミクエンチ)の開発・実用化に国内で初めて成功し、多くのユーザーに供給してきました。

4. 今後の展開

本開発技術は、材料開発技術、素材となる各種断面形状の鋼管成形技術、二次加工技術といった、住友金属グループの総合力を結集して生まれたものであり、自動車の超軽量化に寄与する次世代の車体構造として注目されているスペースフレーム構造の実用化に大きく貢献する技術です。住友金属グループでは、熱間プレス技術やハイドロフォーム技術に加え、本技術の開発により、自動車の軽量化に寄与する、超ハイテン化加工技術のラインナップがさらに広がり、自動車メーカーへの提案体制がより強力なものとなりました。今後、住友金属グループは、自動車メーカーとともに、本技術の実用化を目指し、さらなる技術開発を展開していきます。


【3DQ量産加工技術による部材】

以 上

 

<用語解説>
*1 3DQ
3 Dimensional Hot Bending and Quench  3次元熱間曲げ焼き入れ

*2 閉断面構造
円管や角鋼管のように、部材断面が閉じている形状のもの。一般に、開断面構造に比べ、曲げやねじりに対して高い剛性を有します。

*3 スペースフレーム構造
3次元の骨格を用いた自動車の車体構造であり、モノコック構造に勝る剛性が簡単に得られ、大幅な軽量化が実現できます。現在、レーシングカーや少量生産のスポーツカー、およびアルミの中空材を採用した乗用車が実用化されています。

*4 熱間プレス
プレス成形する前に材料を加熱して,成形と同時に急冷することで、焼入れし強度を高めます。1470MPa以上の強度を有する開断面の自動車部品の成形が可能です。

*5 ハイドロフォーム
液圧成形と呼ばれ、高圧液体によって被加工材を塑性変形させる加工法。

*6 スプリングバック
金属の板や管を冷間で曲げ加工すると、加工後、弾性変形によって曲げ変形が幾分元に戻る現象。一般にハイテン材ほどスプリングバック量が大きくなり、加工後の製品の精度が悪化します。尚、形状凍結性とは、スプリングバックのしにくさです。

*7 遅れ破壊
高強度鋼部品が静的な負荷応力を受けた状態で、腐食等により鋼材に水素が侵入すると、ほとんど塑性変形を伴うことなく、突然破壊する現象。

*8 フランジ
プレス成形による絞り加工などで成形された製品の縁の部分で、閉断面構造の自動車部品を溶接組み立てする際に必要となります。


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