社団法人日本金属学会 技術開発賞のトリプル受賞について

2009/09/15

  • 住友金属工業株式会社
  • 株式会社住友金属直江津
  • 株式会社住友金属小倉

住友金属工業株式会社(以下 住友金属)、株式会社住友金属直江津(以下 住金直江津)、株式会社住友金属小倉(以下 住金小倉)は、本日、社団法人日本金属学会より、「高級極厚鋼板用新連続鋳造技術(PCCS法)の開発」(住友金属)、「固体高分子形燃料電池セパレータ用ステンレス箔の開発」(住友金属、住金直江津)、「焼準省略可能な高強度軟窒化クランク用鋼の開発」(住友金属、住金小倉)について、住友金属グループとして、第32回技術開発賞(*1)をトリプル受賞しました。
なお、「焼準省略可能な高強度軟窒化クランク用鋼の開発」については、株式会社本田技術研究所殿との共同受賞です。

受賞内容
1.「高級極厚鋼板用新連続鋳造技術(PCCS(*2)法)の開発」(住友金属)
(1)開発の背景

 連続鋳造法は、厚鋼板用母材(スラブ)の製造方法の主流で、厚鋼板の量産と安定供給のためには必要不可欠なプロセスとなっています。
金型用高炭素鋼板や大型産業機械用鋼板などに使用される高品質極厚鋼板の製造では、スラブの中心部が凝固する段階で生じる気孔(*3)が弊害となり、従来は大型のインゴットを、分塊工程を経て圧延機で成型して製造する方法がとられていました。

(2)開発の特徴および効果

 住友金属は、厚みが100mmを超える極厚鋼板を連続鋳造法によって製造する際に、鋳片を凝固末期にロールで強圧下することで、内部の品質上問題となる鋳片中央部の気孔を鋳造段階で圧縮し、極厚鋼板の製造を可能にしたPCCS法を開発、鹿島製鉄所第2連続鋳造機で実用化しました。
これにより、通常の連続鋳造機と圧延ラインを用いて高能率かつ短いリードタイムで極厚鋼板の製造が可能となりました。また、インゴットから連続鋳造化することで粗鋼1トンあたり約110kgの CO2 排出量を低減できます。

2.「固体高分子形燃料電池(*4)セパレータ用ステンレス箔の開発」(住友金属、住金直江津)
(1)開発の背景

 燃料電池は、発電効率に優れ環境にやさしくクリーンな次世代技術として、自動車をはじめ様々な分野での応用が期待されています。燃料電池にはセパレータという部品があり、燃料ガスと冷却水の流路を構成するとともに、発生した電気を伝導させる役割を担います。セパレータは、1台の燃料電池に数十枚、数百枚単位で使用されるため、性能と品質が安定し、量産性に優れ、単価が安いことが求められています。

(2)開発の特徴および効果

 住友金属と住金直江津は、量産性に優れ、成形が容易なセパレータ用ステンレス箔を開発しました。ステンレス鋼は、表面に不動態皮膜(*5)が形成されるため高い耐腐食性を有していますが、不動態皮膜の電気伝導性が著しく低いため、そのままではセパレータに適さない素材です。そこで、鋼中に多数析出させた導電性金属析出物を、不動態皮膜を貫通させて表面に露出させ、鋼板表面の電気抵抗を顕著に低減させる方法を開発しました。
以前は、高価な金めっき処理を施すことにより抵抗を低減する方法がとられていましたが、今回開発した技術により、安価なセパレータの製造が可能となりました。
なお、本技術開発のうち量産製造技術開発の一部は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)との共同開発の成果です。

3.「焼準省略可能な高強度軟窒化(*6)クランク用鋼の開発」(住友金属、住金小倉)
(1)開発の背景

 エンジンの主要な構成部品であるクランクシャフトは、エンジンの高出力化や軽量化のために高強度化が求められるとともに、製造工程におけるCO2 排出量の削減や低コスト化が求められています。
高出力エンジン等に使用される軟窒化クランクシャフトは、鍛造後の結晶粒の粗大化によりもろくなるため、軟窒化前に焼準工程(焼きならし)(*7)等の熱処理工程が従来必要でした。

(2)開発の特徴および効果

 住友金属と住金小倉は、クランクシャフト用鋼として、チタン、窒素およびモリブデンを添加することで、鍛造後の組織の微細化を図り、焼準工程を省略しても焼準処理した鋼と同等以上の特性が得られる材料を開発しました。
本開発鋼を使用したクランクシャフトは、製造時のCO2 排出量を約22%、コストも約8%低減でき、既に2006年から市販の乗用車に搭載されています。

住友金属グループでは、地球環境に配慮した製品による「差別化の加速」をめざして、今後とも技術開発と実用研究を進めていきます。

以 上

 

<用語解説>
*1 技術開発賞:

日本金属学会会報「まてりあ」の“新技術・新製品”欄の著者で、金属工学ならびにこれに関連する新技術・新製品などの独創的な技術開発に携わった技術者に対する賞。

*2 PCCS:

Porosity Control of Casting Slab の略。

*3 気孔:

鋳造末期に残溶鋼の凝固時の体積収縮で空隙が発生し、気孔となります。鋳片の厚み中心部に不規則に存在し、直径2mm以下程度の気孔の集合体として残存します。

*4 固体高分子形燃料電池:

燃料電池とは燃料から取り出した水素と空気中の酸素を反応させ電気を得ることが可能な発電システムで、発電効率に優れCO2排出量が少ない環境にやさしいシステムです。燃料電池は、内部に水素イオンを通す電解質膜を持っていますが、この電解質膜の素材が固体高分子(樹脂)膜である燃料電池を固体高分子形燃料電池と呼びます。燃料電池は電解質膜の素材の違いにより、いくつかの種類があり、固体高分子形燃料電池は、量産化が最も近いと期待されています。

*5 不動態皮膜:

ステンレスは、含有するクロム、鉄と空気中の酸素が反応し、表面に酸化皮膜が生成されます。この酸化皮膜を不動態皮膜といい、これによりステンレスは高い耐腐食性を有します。

*6 軟窒化:

クランクシャフトの代表的な表面硬化処理の一つ。軟窒化炉内の600℃前後の温度域で窒素(および炭素)を鋼中に拡散させて、疲労強度を向上させます。

*7 焼準工程(焼きならし):

熱間鍛造後の結晶粒を整えるための熱処理方法。



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