溶接部の疲労強度を高めた高級厚板の開発で財団法人 新技術開発財団から市村産業賞 貢献賞を受賞

2009/04/30

  • 住友金属工業株式会社

当社は、4月28日に、「疲労寿命延伸を可能とした新機能鋼材の開発及び実用化」と題した、溶接部の疲労強度を高めた厚板の開発に対して、財団法人新技術開発財団から 第41回市村産業賞 貢献賞を受賞しました。

1.受賞対象
従来、溶接部の疲労強度を鋼板によって高めることは不可能とされていました。当社はその常識を打ち破り、溶接部での疲労亀裂の発生を防ぐ機能のある高張力厚鋼板「FCA-W鋼」*を開発・実用化しました。

2.開発内容
(1)開発の経緯
鋼が、長期間にわたって繰り返し力を受けると、亀裂が発生し破壊することがあり、これを疲労破壊といいます。大型鋼構造物の損傷原因は、その8割が疲労破壊だといわれています。疲労破壊は、最初に微細な亀裂(疲労亀裂)が発生し、次にその亀裂が広がっていく(進展)という段階をたどりますが、従来の鋼構造物の疲労設計は、最初の疲労亀裂の発生を防ぐという考え方が一般的でした。当社は、発生した疲労亀裂の進展を抑制することで疲労破壊に耐えるという、新しい設計思想に基づいた厚板を2001年に開発しました。ところが、溶接部の疲労強度が上げられないという弱点がありました。当社は、溶接部での疲労亀裂の発生を防ぐ機能を加えた高張力厚板の開発に、昨年成功したのです。

(2)「FCA-W鋼」の特徴
従来の鋼板は、溶接部の疲労強度が弱点でした。溶接部の疲労強度は、鋼板の強度にかかわらず一定で、鋼板の材料設計で溶接部の疲労強度を上げることはできない、というのが常識でした。溶接部の疲労強度確保するために、板厚を厚くしたり、補強部材をつけたりして対応してきました。当社の開発した「FCA-W鋼」はこの常識を打ち破り、疲労亀裂進展を抑制する機能に加え、溶接部での疲労亀裂発生を防ぐ機能も持っています。従来の鋼構造物において、材料を「FCA-W鋼」に置き換えるだけで、板厚増や補強部材を省略して、長寿命化や軽量化が可能となりました。

(3)効果
A)「FCA-W鋼」を社会インフラの溶接構造物に使用することで、寿命の延長につながり、安全・安心な社会の実現・維持に貢献します。
B)「FCA-W鋼」を輸送機器に使用することで、軽量化が可能となり、省エネルギーや CO2 排出削減に寄与します。 

3. 今後の展開
「FCA-W鋼」について、自動車の足回り部材、建設機械、鉄道台車への適用が検討されています。また、海洋構造物、風力発電設備、鉱山機械への適用についても、お客様から強い期待が寄せられています。

以 上

 

<参考>市村産業賞について
財団法人 新技術開発財団の第41回 市村産業賞推薦要綱に掲載された表彰の趣旨を下記に引用します。

[表彰の趣旨]
リコー三愛グループ各社を統轄した創業者、故市村清氏の昭和38年4月29日紺綬褒章受賞を記念して、市村賞を創設し、科学技術の普及啓発に資するとともに科学技術水準の向上に寄与することを目的としています。 本表彰は科学技術の進歩、産業の発展、文化の向上、その他国民の福祉・安全に関し、科学技術上貢献し、優秀な国産技術の開発に功績のあった技術開発者に対して行います。

<用語解説>
*  FCA-W鋼:「FCA」はFatigue Crack Arresterの略。 「W」は、Weld(溶接)とダブルの意味。ダブルは、疲労亀裂進展の抑制と溶接部の疲労亀裂発生抑制という2つの機能を持つという意味です。 FCA-W鋼の、疲労特性以外の機械的性質、溶接性、加工性などの厚板としての基本性能は、一般の高張力鋼と同等またはそれ以上です。

左から、財団法人新技術開発財団 会長 牛尾 治朗氏
当社 総合技術研究所 シニアコンサルタント 有持 和茂
当社 鋼板・建材カンパニー 厚板技術部 参事 稲見 彰則
当社 総合技術研究所 厚板・条鋼研究開発部 主任研究員 誉田 登


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