当社開発 高耐食性タンカー原油タンク用厚鋼板「SMICORE」
実船試験でタンクの天井部、底板部の両方での高耐食性を世界で初確認

2008/12/25

  • 住友金属工業株式会社

当社は、2004年に、腐食環境の厳しいタンカー原油タンクの天井部、底板部用に、耐食性を高めた厚鋼板「SMICORE」(SMI Crude Oil Corrosion Resistant Steel)を開発しましたが、この程、約2年9ヶ月の実船での耐食性試験が終了し、天井部、底板部両方で従来鋼に比べ高い耐食性を持つことを世界で初めて確認しました。

1.開発の経緯
タンカーの原油タンク内は、原油、酸素、硫化水素、塩化物、水による厳しい腐食環境にあり、タンク天井部の全面腐食(*1)と底板部の孔食(*2)が問題となっています。
天井部では、腐食によって板厚減少量が年間0.1mmを超える場合があり、従来は塗装を施す対策がなされていますが、再塗装によるメンテナンスコスト増加の問題がありました。
また底板部では、約2年半ごとのドックでの検査時に局部的な孔食が多数確認され、従来は点検・補修によるメンテナンスコスト増加の問題がありました。

当社は、これらの問題に対し材料面から対応すべく、2004年に天井部、底板部の両方で耐食性を高めた厚鋼板「SMICORE」を開発しました。「SMICORE」は、複数の合金元素を含有した低合金厚鋼板で、従来鋼と同等の機械特性・溶接性・溶接継手特性を確保しつつ、一材質で原油タンク天井部、底板部両方で優れた耐食性を持つ鋼材です。
「SMICORE」は、2005年8月に就航した原油タンカー「SANKO BLOSSOM号」(運航者:三光汽船株式会社殿、建造:住友重機械マリンエンジニアリング株式会社殿)で試験適用を行ってきました。

2.試験結果
適用船の就航から約2年9ヶ月が経過し、1回目のドックでの検査時に、三光汽船殿・住友重機械マリンエンジニアリング殿の協力を得て、適用部位(No.2、No.3の2タンク 図1)の腐食調査を実施しました。その結果、天井部では、従来鋼に対し板厚減少量が6割程度まで低減しました(図2)。
底板部は、従来鋼では深さ2mmを超える孔食が発生していたのに対し、「SMICORE」では深さ2mmを超える孔食はありませんでした。「SMICORE」の孔食深さはNo.2タンクで従来鋼の1/4程度、No.3タンクで従来鋼の6割程度まで低減しました(図3)。また、今回調査した部分の孔食深さから、統計処理で全タンクの孔食深さの最大値を推定すると、「SMICORE」の最大孔食深さは従来鋼の4割程度となることがわかりました(図4)。
このように、実船の天井部、底板部両方で、従来鋼に比べ耐食鋼の優位性が確認されたのは世界初です。「SMICORE」を使用することで、原油タンクの塗装フリー化・メンテナンス低減に寄与します。

3.試験結果の意義
IMO(国際海事機関)では、タンカー原油タンク内の塗装を義務化する動きがあり、日本として耐食鋼の使用も認めるよう提案しています。今回の実船結果は、耐食鋼が原油タンクの腐食対策として有効であることを示したもので、今後の耐食鋼の採用に向け重要な結果です。

<用語解説>
*1 全面腐食
鋼板全面がほぼ均一に腐食する腐食形態。大型原油タンカーでは、メンテナンスの状況にもよりますが、大きいもので一般的に年間0.1~0.3mm程度の速度で進行します。

*2 孔食
局所的に発生する直径数mmのお椀状の腐食。大型原油タンカーでは、1タンクあたり数千個の孔食が発生する場合もあり、深さ方向に年間数mm程度以上の速度で進行します。

 


図1 耐食鋼の適用部位

 


図2 実船試験(上甲板)における平均板厚減少量の比較

 


図3 実船試験(底板)における最大孔食深さの比較

 


図4 極値統計処理による全タンクにおける推定最大孔食深さの比較

以 上


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