大地震時無損傷建物を実現する超高強度厚鋼板を開発
- 建築構造物用 1000MPa級厚鋼板(商品名 SSS1000)の開発について -

2008/10/16

  • 住友金属工業株式会社

住友金属工業株式会社 総合技術研究所(以下、当社総研)は大阪大学、京都工芸繊維大学、株式会社日建設計、片山ストラテック株式会社と共同(以下、当研究グループ)で、建築鉄骨の主要構造部材に用いられる厚鋼板としては最高の強度を有する1000MPa級鋼(引張強さ:950MPa級)の開発に世界で初めて成功しました。この厚鋼板を使えば、大地震でも建物が損傷せず、その後も使用できる「無損傷建物」が実現できます。この新技術は、当社総研が進めてきた産学連携の成果です。国土交通大臣の認定も取得しています。                                                                            


1.開発の背景・目的
超高層ビルなどに代表される大型の鉄骨系建築構造物には素材として厚鋼板が用いられる場合が多く、これまで地震時の建築構造物の安全性を担保する方法として、鋼材の塑性変形(*1)能力を活用して建物に加わる地震エネルギーの吸収を図る設計思想がとられてきました。すなわち地震時には鉄骨部材の変形を許容することで、建物の倒壊・崩壊を防ぐという設計手法がとられており、その結果大きな地震の後では建物の継続利用が困難になる場合がありました。一方、1995年の兵庫県南部地震をはじめとして、直近では岩手・宮城内陸地震など、震度6以上の地震が多発しており、巨大地震への対策が社会の急務となっています。
そこで、当研究グループでは,このような大地震時でも建物の主要構造部材を弾性状態(*2)にとどめ、鉄骨各部の無損傷化を実現するための新しい建築用高強度厚鋼板とその利用技術について研究開発を進めてきました。

2.新技術の内容
大地震を受けた後も無損傷を維持できる建築設計を実現するための方法として当研究グループでは、現在建築分野で一般に用いられている厚鋼板の中では最高強度の590MPa級鋼(降伏強さ(*3):440MPa以上)に比べて2倍の降伏強度を持つ 1000MPa級の高強度鋼(降伏強さ:880MPa以上)を制振デバイスとともに採用する方法を提案しました。しかしながら当該分野では、これほどの高い強度を有する建築用途に適した厚鋼板が存在せず、またその使用を認められていませんでした。

当社は種々の鋼構造分野で最も先行して高強度鋼適用が進められている水圧鉄管分野におけるトップサプライヤーであり、高強度鋼の製造に多大な経験とノウハウを保有しています。しかしながら、それらと設計や施工条件の大きく異なる建築構造への高強度鋼の適用の実現は鋼材メーカーからの素材の提案のみでは難しく、設計者や施工者などとの共同検討が必須と判断しました。

そこで、大阪大学、 京都工芸繊維大学(研究総括と基礎設計)・日建設計(具体設計)・片山ストラテック(施工条件確立)・当社(鋼材、溶材開発)からなる連携研究を 2004年からスタートさせ、この設計方式の実現に向けて精力的に活動を行ってきました。
建築分野へ1000MPa級鋼を適用する際の大きな課題の一つは,高強度鋼の宿命ともいえる溶接施工における厳しい管理範囲を緩和し、汎用性を持たせる必要があることでした。この課題に対し最も苛酷な状況下での評価試験群の結果をフィードバックしながら、鋼材・溶接材料の最適な合金成分設計・製造条件を得ることに成功しました。

今回当社の開発した1000MPa級鋼は、審査を経て2008年6月2日に建築基準法第37条第2号の規定に適合する材料として国土交通大臣より認定書を受領しました。
溶接材料については、溶接材料メーカーである日鐵住金溶接工業株式会社との共同研究を行い、1000MPa級鋼の溶接組立に使用した際に、広範囲な溶接条件下で母材とほぼ同レベルの高い(降伏強さ)強度特性を有する溶接金属部を得ることのできる溶接材料も開発を完了しています。この溶接材料は1000MPa級鋼と同時に国土交通省の大臣認定を取得しました。
これらの認定により、開発した製品を実際の建物へ適用することが可能になりました。

3.今後の展開
今後引き続き、連携体制のもと本鋼材のメリットを最大限に発揮させることのできる設計法の検討と、実用のための活動を進めていきます。

<用語解説>
*1 塑性変形:
変形を引き起こしている荷重を取り除いた後、元に戻らずに残っている変形のこと。材料の弾性限度を超えた永久変形。

*2 弾性状態:
変形を引き起こしている荷重を取り除いた後、元に戻る状態のこと。

*3 降伏強さ:
弾性を失って、荷重を取り去っても原形に戻らない塑性変形領域に入る強度のこと。


図1連携フォーメーション


表1 提案構造

以 上


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