製品の高性能化に対応する高能率連続鋳造技術の開発について
- 独自の技術と大学との連携を活用した世界一の技術を目指して -

2008/10/16

  • 住友金属工業株式会社

住友金属工業株式会社 総合技術研究所は、当社独自に開発した技術と大学との連携による共同研究の成果を活用して技術開発を行っています。製鋼の主要工程である連続鋳造において、製品の品質及び生産性向上に寄与する技術となる、浸漬ノズル(*1)の詰まりを抑制する技術、鋳型内の凝固を制御する技術、並びに湯面レベル変動を防止する技術を開発しました。これにより、連続鋳造機の性能が飛躍的に向上し、高強度鋼に代表される高級鋼の更なる品質向上と生産量拡大が可能となりました。

1.開発の経緯
連続鋳造法は、取鍋内の溶鋼をタンディッシュと呼ばれる中間容器を経て鋳型に供給し、凝固させるプロセスで、高品質な鋼材を効率良く生産するために不可欠な工程となっています。
この連続鋳造工程において生産性を向上するためには、連続的に鋳造する連々数(*2)を増加し、鋳造時間率を増加する方法と、鋳造の速度を増加し、単位時間あたりの鋳造量を増加する方法があります。しかし、連々数を増加する場合には浸漬ノズル内面にアルミナなどが堆積するノズル詰まり(ノズル閉塞)が原因となり鋳型内で片流れにつながります。鋳造速度を増加する場合には鋳片に縦割れと呼ばれる疵が発生したり、「非定常バルジング(*3)性変動」と呼ばれる鋳型内の湯面変動が大きくなります。このように、鋳型内の流動状況や凝固が不安定となることにより鋳片の品質や操業に悪影響を与えるという問題がありました(図1参照)。
鋳型における溶鋼流動と凝固の制御は高能率と高品質を兼ね備えた連続鋳造を実現するために重要な因子となります。当社ではこれらの連続鋳造における問題を解決するため、電気化学的作用を活用したノズル閉塞防止法(AI ノズル(*4))、不均一凝固を防止する高速鋳造用モールドフラックス(Cry-Max(*5))、並びに湯面変動の周波数分布に着目した鋳型内湯面レベル制御方法(Q-H∞制御(*6))を開発しました。


図1 連続鋳造機と鋳型内挙動と鋳片品質の関わりの模式図

2.新技術の概要
(1)ノズル閉塞防止方法(AIノズル)
連続鋳造時にはタンディッシュから鋳型に溶鋼を供給する浸漬ノズルの内面にアルミナなどが堆積するノズル閉塞が発生し、鋳片の品質低下や操業の障害となる場合がありました。従来は、ノズル上部からアルゴンガスを吹き込むことや、浸漬ノズルの材質や形状を変更するなどの対策が取られてきましたが、これらの技術を適用してもノズル閉塞防止効果は限定的であるなどの課題が残っていました。
これに対して当社では、基礎試験において、ノズル材質である耐火物棒から溶鋼に電流を流すと耐火物表面へのアルミナの付着を大幅に低減できることを見いだしました。これは浸漬ノズル材質と溶鋼の電気化学的作用に着目し、利用したものです。さらに、この技術を実際に連続鋳造機に適用したところ、連続鋳造中のノズル閉塞の発生が大幅に減少し(図2、3参照)、閉塞防止効果を確認しました。この方法は従来の方法とは全く異なる発想に基づく技術であり、製造コストの増加、操業上の効率低下、品質の低下といった弊害を伴うことなくノズル閉塞の防止が可能となります。
また、本技術に関して大阪大学との連携の中でその詳細な機構解明と最適化に取り組んでいます。


図2 ノズル閉塞防止の模式図


図3 連続鋳造機における付着防止効果

(2)高速鋳造用モールドフラックス(Cry-Max)
高強度鋼板用の鋼の連続鋳造では、鋳型内における凝固殻の厚みが不均一になりやすい傾向(不均一凝固)があり、一般鋼と同等の速度で連続鋳造すると、凝固殻の薄く弱い部分に縦割れや疵が発生します。そのため、実際の操業では安定した品質を得るために、一般鋼よりも鋳造速度を低下し、生産性を犠牲にせざるを得ませんでした。
鋳型内に添加するモールドフラックスには鋳型と凝固殻の潤滑や鋳型内の溶鋼湯面の保温などの役割があります。当社ではこれらの機能を確保しながらフラックスフィルム(*7)の結晶化を最大限に促進することで断熱効果を強化、凝固殻表面の急冷却を防ぎ、凝固殻の厚さを均一化するという新しい発想に基づいたモールドフラックスを開発しました(図4参照)。
このモールドフラックスを薄鋼板スラブの連続鋳造に適用したところ、圧延後のコイル疵が減少しました(図5参照)。さらに、操業の大きな阻害要因となる凝固殻の割れに起因するブレイクアウト(*8)の防止が可能となりました。
なお、この技術は平成19年度全国発明表彰 発明賞を受賞した技術をさらに発展させたものです。また、大学との連携の一環としてモールドフラックスの特性に関する研究やモールドフラックスを介した鋼の凝固現象の解明などに取り組んでいます。 

      
図4 高速鋳造用モールドフラックスの設計思想                                図5 モールドフラックスによるコイル疵改善効果

(3)鋳型内湯面レベル制御方法(Q-H∞制御)
連続鋳造では鋳型内の溶鋼湯面レベルを検知し、この信号に基づき鋳型内への溶鋼供給量を制御するスライディングゲート(*9)を開閉する制御を行っています。鋳造速度を増加すると強い周期性と大きな振幅を持つ湯面レベル変動が発生することがありました。これは、鋳型から引抜いた鋳片がロール間でバルジングし、鋳片の引き抜きに伴いバルジングの大きさが同期して変動するために湯面レベルが周期的に大きく上下降するもので、「非定常バルジング性変動」とよばれます(図6参照)。湯面変動が大きくなるとモールドフラックスの巻き込みなどの鋳片欠陥が発生するという問題がありました。
これに対して当社では、連続鋳造機および鋳造条件により湯面変動の周波数分布が特定の値のピークを持つことに着目し、鋳造中の湯面レベル変動からその周波数を割り出し、対応する変動を演算に基づき先回りして打ち消すという独自発想の「補正値演算部」(*10)を付加した鋳型内湯面レベル制御方法を開発しました。その結果、周期的レベル変動の抑制性能を従来の制御法から飛躍的に高めることができました。連続鋳造機の操業中に従来制御装置から本発明制御装置に切替える試験をしたところ、非定常バルジング性変動に相当する0.27Hz周期の振幅は1/10以下に低減しました(図7参照)。

        
図6 非定常バルジング性変動の模式図                       図7 本制御装置と従来制御装置との適用結果比較

3.大学との連携
基礎的な機構解明、特性調査に関しては連携講座を設置している大阪大学をはじめとする各大学と連携して共同研究を進めています。

当社では以上紹介した技術のように独自の発想に基づく技術と、大学との連携による共同研究の成果を活用して連続鋳造の鋳型における諸問題を克服し、製品の高級化に対応しながら高能率な生産を実現できる連続鋳造技術を確立しています。これらの技術開発成果を生かし、連々数の増加や平均鋳造速度上昇による生産効率向上を進め、今後も需要の増大が期待されるハイエンド製品の製造能力を高めていくとともに、鹿島製鉄所の年産830万トン、和歌山製鉄所の年産520万トン生産体制の構築や株式会社住友金属小倉の製鋼プロセス革新に寄与していきます。

<用語注釈>
*1 浸漬ノズル:
タンディッシュから鋳型へ溶鋼を供給するノズルを浸漬ノズルと呼びます。

*2 連々数:
連続鋳造では能率を向上するために鋳造中に取鍋を交換することにより、鋳造を中断することなく連続的な操業を行っています。この時の連続的に鋳造する取鍋杯数のことを連々数と呼びます。

*3 バルジング:
鋳型から引き抜いた鋳片は複数のロールで挟み込む形で支持されるため、ロール間では鋳片内部の未凝固溶鋼の圧力(静圧)により凝固シェルが膨らむことがあります。この現象をバルジングと呼びます。

*4 AIノズル:
Anti-Clogging Immersion ノズルの略。 閉塞を防止する浸漬ノズルの意味。

*5 Cry-Max:
Crystallization Maximumの略。 最大限の結晶化を図ったフラックスの意味。 

*6 Q-H∞制御:
Q-parameterized H∞制御の略。周波数に同調した制御の意味。

*7 フラックスフィルム:
鋳型内の溶鋼表面に散布されたモールドフラックスは溶鋼の熱により融解し、鋳型と凝固殻の間に流れ込み、フィルムを形成します。この層のことをフラックスフィルムと呼びます。

*8 ブレイクアウト:
連続鋳造中、凝固殻の薄い部分の割れが開口し、内部の溶鋼が漏れる操業上の事故です。この事故が発生すると、連続鋳造機の復旧作業に1日かかる場合もありますので、生産性に多大なロスを与えます。

*9 スライディングゲート:
タンディッシュから鋳型に供給される溶鋼流量は、丸孔をくりぬいた耐火物板を重ね、これを摺動することにより制御します。この流量制御機構のことをスライディングゲートと呼びます。

*10 補正値演算部:
湯面レベルの変動を表す計算モデルに基づき任意の周期のレベル変動の位相に合わせて鋳型内溶鋼収支をつり合わせるように先回りして溶鋼注入ノズル開度を調節する演算を行います。

以 上


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