省エネルギーパワーデバイス用シリコンカーバイド単結晶の育成技術を開発

2008/10/16

  • 住友金属工業株式会社

住友金属工業株式会社 総合技術研究所は、シリコンとチタンなどの金属からなる高温の溶液からシリコンカーバイド(*1)単結晶を成長させる溶液成長法(*2)を世界で初めて開発しました。これにより、シリコンカーバイド製の省エネルギーパワーデバイス(*3)の実用化が可能になります。

1.開発の背景
シリコンカーバイドはシリコンに比べてより高電圧、高熱に耐えるので、小型で効高率なパワーデバイスを作ることができます。ハイブリッドカーや電気自動車に使われるパワーデバイスがシリコン製からシリコンカーバイド製に置き換わる等の改善で CO2 削減が期待されるなど、省エネルギーの鍵を握る材料です。実用化には、大口径で結晶欠陥の少ない単結晶ウエハの実現が必須です。
従来のシリコンカーバイド単結晶育成技術は、シリコンカーバイドの原料粉末を昇華(固体から液体を経ずに気化)させ、種結晶上に再結晶化させる「昇華再結晶法」(*4)です。この方法で直径4インチ径までのシリコンカーバイドウエハの開発が進んでいますが、結晶欠陥が多く、MOSFET(*5)などのパワーデバイスへの適用が遅れていました。
当社は、製鉄技術で培った高温制御技術をベースに、2000年より開発に着手し、全く新しい、溶液からのシリコンカーバイド単結晶育成技術の開発に世界で初めて成功しました。

2.開発の内容
当社は、NEDO(*6)の助成を受け、シリコンとチタンなどの金属からなる高温の溶液からシリコンカーバイド単結晶を成長させる溶液成長法を開発し、2004年に2インチ、2006年に4インチ径のシリコンカーバイド単結晶の育成に成功しました。
溶液成長法は、溶液から結晶を成長させるため、気体から一気に固体(結晶)をつくる昇華再結晶法に比べて、結晶の欠陥が少なくなります。
また本開発では、種結晶を上方から溶液に浸沈し回転させながら引き上げる製法を用いています。これはシリコンで実績の豊富なチョクラルスキー法(*7)に近い製法のため、量産にも適しています。
さらに、種結晶とるつぼの加減速回転などの改善によって、200μm/hr超(5時間で1mm超)と従来のほぼ倍の成長速度を達成しました。
実用化には、結晶をスライスしウエハにするため、厚さが必要となります。現在、成長方法を改善し2インチ径で5mm厚さの単結晶育成に成功しました。今年度内にはcmレベルの厚さの結晶を育成する予定です。
エピタキシャル膜(*8)の成膜技術についても溶液成長法で進めており、従来の1/10以上の結晶内不純物濃度の低下に成功し、さらに高純度化を進めています。

3.今後の展開
今後は、更に安定した成長技術の開発を進め、早期の実用化に向けた技術的な課題の克服に集中的に取り組んでいきます。

<参 考>
溶液成長法による炭化ケイ素単結晶の育成                     

  2インチ炭化ケイ素単結晶の育成  

<用語解説>
*1 シリコンカーバイド:
炭化ケイ素(SiC)。絶縁破壊電界がシリコンの約10倍、熱伝導率が約3倍という優れた物性値を持つ化合物です。

*2 溶液成長法:
過飽和溶液からの結晶の晶出現象を利用した結晶成長法。

*3 パワーデバイス:
電力用半導体素子とも呼びます。電力を変換、制御する半導体装置です。スイッチング、整流などの機能があり、ダイオード、サイリスタ、MOSFETなどの種類があります。家電製品、ハイブリッドカーや電気自動車、産業、鉄道、電力などのシステムに使われています

*4 昇華再結晶法:
固体結晶原料が液体状態を介さず気体となる昇華現象を利用し、昇華した気体を冷却し再度結晶へと変換することで結晶を成長させていく手法です。

*5 MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor):
金属-酸化物-半導体電界効果トランジスタ。FET(電界効果トランジスタ)の中では最も一般的に使用されています。スイッチング素子として使われます。

*6 NEDO:
新エネルギー・産業技術総合開発機構。日本の産業技術とエネルギー・環境技術の研究開発およびその普及を推進するわが国最大規模の中核的な研究開発実施機関。

*7 チョクラルスキー法:
種結晶をるつぼ内で溶融状態の原料に接触させてゆっくりと回転させながら引き上げる方法。シリコン結晶の最も一般的な成長方法です。

*8 エピタキシャル膜:
基板となる結晶の上に、更に純度が高く欠陥の少ない結晶成長を行った薄い膜です。この膜の上に素子構造を形成してパワーデバイスなどをつくります。

以 上


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