加工性と強度のバランスに優れた新チタン合金「SSAT-35」の開発について

2007/10/18

  • 住友金属工業株式会社

当社は、加工性と強度のバランスに優れた新チタン合金「SSAT-35」を開発しました。チタン合金は加工性が悪いのが欠点ですが、その点を大きく改善した新チタン合金を開発し、当社での製造コストとお客様での手間や加工コストを低減します。

1.チタンの用途及び需要環境
チタン(Ti)は比重が鉄の約6割と軽く、高強度や高耐食性を兼ね備えた非常に優れた特性を有する金属です。
チタンは用途別に大きく2種類の成分系があり、他の元素をほとんど含まない純チタンと、アルミニウム(Al)やバナジウム(V)などを添加したチタン合金があります。
純チタンは高い加工性と高耐食性を特長としており、高濃度のアルカリや酸が使用される化学プラントや、海水を汲み上げ真水にする淡水化プラントの配管など、主に高耐食性が求められる環境で利用されます。
一方、チタン合金は高強度や高耐熱性を特長としており、最近特に航空機分野での需要が伸びています。高耐熱性が求められるジェットエンジン周りや、航空機の燃費向上の観点から高強度と軽量化が求められる構造用部材として利用されます。

2.新チタン合金の開発経緯
(1)従来のチタン合金の問題点
世界で製造されるチタン合金の約9割を占めると言われるTi-6Al-4V(Al:6%、V:4%を含む合金)は、強度に優れるものの加工性が悪く冷間圧延が非常に

 困難(*1)であり、当社での製造コストとお客様での手間や加工コストを増やす要因になっています。

(2)開発方針
加工性と強度のバランスに優れた新チタン合金の開発に当たって、Ti-6Al-4Vより強度は低いものの、冷間圧延が可能なTi-3Al-2.5V(Al:3%、V:2.5%を含む合金)をベースに合金成分を検討しました。その結果、新チタン合金「SSAT-35*2」が開発されました。                     

3.新チタン合金の特徴
(1)金属組織
「SSAT-35」はAl:3%、V:5%を含むように合金設計されており、最終製品の金属組織は非常に微細にすることが出来ました(図1参照)。この微細な組織が加工性や強度に良い影響を与えます(詳細は以下)。


図1 チタン合金のミクロ組織比較

(2)強度特性
「SSAT-35」は純チタンやTi-3Al-2.5Vを上回る強度を持っています。また製造条件によってはTi-6Al-4Vに近い強度を持つことも可能です(表1参照)。

(3)加工性

 1)冷間加工性
「SSAT-35」の冷間加工性を評価するために、冷間曲げ試験を実施しました。結果、Ti-6Al-4Vよりかなり優れており、純チタンとの比較でも、ほぼ同等か種類によってはそれを上回る曲げ性を持っています(表2参照)。

        
表1 純チタン及び各種チタン合金の引張強度の範囲                                    表2 冷間曲げ加工試験結果
                                                                                                     * 純チタンはJIS規格3種を記載。

 2)熱間加工性
お客様は熱間で複雑な形状への加工を行うことが多いので、熱間加工性も重要な特性のひとつです。「SSAT-35」は従来のチタン合金に比べこれを大きく改善させました。その結果が高温引張試験です(図2参照)。
特に800℃付近で超塑性現象*3が起き、1000%を越える非常に大きな伸びが得られました。これがお客様での手間と加工コストの低減に貢献します。


図2 高温引張試験片の外観
(上段:引張試験前、下段:800℃での試験後)

(4)その他メリット
冷延コイルの製造に当たって、現有設備をそのまま活用出来ますので、新たに設備投資を行う必要がありません。また「SSAT-35」は成分系がチタン合金の中でも多く製造されているTi-6Al-4Vと同様であることから、原料が入手しやすく、合金屑のリサイクルも非常に容易であり、環境面にも配慮しています。

表3 純チタン及び各種チタン合金の特徴(総括)

4.今後の展開
加工性と強度のバランスに優れたチタン合金「SSAT-35」は、冷延コイル製造が可能ですので、その扱いやすさから、航空機分野やゴルフクラブ等に代表されるレジャー分野など幅広い分野での適用が期待されます。

<用語解説>
*1 冷間圧延が非常に困難
冷間圧延が非常に困難なTi-6Al-4Vのコイル製造は国内では皆無ですが、海外では一部製造されています。

*2 SSAT-35:
今回開発した新チタン合金を指す当社の材質記号。「SSAT」とはSuper Sumitomo Alloyed Titaniumの略。

*3 超塑性現象:
高温状態の金属が引っ張ることで水アメのように柔らかく伸びる現象。熱間加工性に影響する。

以 上


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