世界最高の耐メタルダスティング腐食性を実現するニッケル(Ni)基合金の開発

2007/10/18

  • 住友金属工業株式会社

当社は、このたび、天然ガスから環境にやさしい液体燃料を製造するプロセスで起こる過酷な高温腐食を防止して、プラントの効率を大幅に向上させる革新的な防食技術を確立し、それを適用した材料であるニッケル(Ni)基合金を開発しました。新技術はSMR(Surfactant-Mediated Resistance:表面におけるガスの解離性吸着の抑制)法(*1)と呼んでいます。

1. 開発の背景
天然ガスから常温液体の燃料を製造するには、まず天然ガスを掘削して産出し、これを合成ガス(*2)に改質(*3)した後、様々な方法で合成してつくります。常温液体の燃料は、液化天然ガス(LNG:天然ガスを-162 ℃に冷却して液体にしたもの)に比べ、常温での燃料の輸送と貯蔵が容易なため、コスト面でのメリットがあります。また製品は硫黄酸化物(SOx)や粒子状物質(PM)を発生させず、環境に優しいクリーン燃料(*4)として期待されています。 現在、クリーン燃料はメジャーオイルを中心に商用化が進められており、既に、石油を原料とする軽油や灯油に一部混ぜて使用されています。メジャーオイルは天然ガス田の近くで、クリーン燃料製造プラントを運営し、各地へ輸送しています。 天然ガスを改質してつくる合成ガスは1,000℃以上の高温で、パイプを通過しながら冷却して常温になります。ゆっくり冷却させると高温状態での通過時間が長くなり、およそ800~450℃の温度域で、合成ガスに含まれる一酸化炭素(CO)中の炭素(C)がパイプの金属材料の中に侵入し、メタルダスティング腐食が発生します。 従来は、パイプの腐食を回避するために、合成ガスを急冷してきました。急冷した場合は、改質ガスの熱エネルギーを捨てざるを得ません。当社開発の新技術により、改質ガスの熱で蒸気を発生させるなど、エネルギーを回収できるようになります。
このようにクリーンな燃料を効率よく生産するというお客様と社会のニーズに応える新技術(SMR法)を確立するとともに、合金開発に適用しました。

2. 開発の内容
(1)従来の防食技術の問題点
従来の防食技術では、クロム等を含有させて保護性酸化スケールを金属表面に形成し、金属とガスを遮断していました。酸化スケールは、割れや剥離といった欠陥を生じやすく、欠陥部から金属に炭素が侵入してしまいます。このため、酸化スケールは長期にわたる耐メタルダスティング腐食性が保証できないという問題がありました。

(2)新技術のポイント
合成ガスと金属の反応過程では、まずCO分子が金属表面に吸着し、その後解離した原子状の炭素が金属中に侵入します。そこで、このようなガスの解離吸着を抑制(SMR法)できれば、炭素が金属中に侵入しなくなると考えました。この技術を実証するために基礎実験を進めた結果、合金に銅(Cu)を添加することで解離吸着反応を抑制することが分かりました。この基礎実験の結果を裏付けるため、CO分子が金属表面で解離する様子を電子論計算から解析し、また、銅がCOの解離吸着を抑制する有効元素であることも検証しました。

3.SMR法適用による世界最高の耐メタルダスティング腐食性合金の実現
金属に耐メタルダスティング性を持たせる効果を発揮する銅の添加量は数十%以上ですが、クリーン燃料製造プラントの金属材料には、耐メタルダスティング性以外にも高温機械特性や溶接性が要求され、多量に銅を添加するとこれらの特性が劣化してしまいます。そこで、新技術を実用化につなげるため、従来技術も併せて適用(ハイブリッド適用)した合金、つまり、クロムなどを含有させて保護性酸化スケールを形成するとともに、銅を数%程度に最適化して、酸化スケールに欠陥が生じた場合にガスの解離性吸着を抑制する合金を開発しました。
当社の腐食試験で、新技術を適用したNi基合金は、既存のNi基合金(一般的に、腐食に最も強いとされている金属)を大幅に上回る耐食性能を発揮することを確認しました。今回見いだしたSMR法は、世界最高の耐メタルダスティング腐食性を実現できる次世代防食技術と言えます。

4.今後の展開
銅を最適に成分設計したNi基合金管は現在、お客様の実機プラントで実証実験を行っています。当社は本技術を早期に実用化することを目指しており、お客様がクリーン燃料を製造するために、効率の良い大型プラントを設計できるように努め、クリーン燃料の普及促進による地球環境対策に貢献していきます。
また、本技術によりつくられたNi基合金は、様々な合成ガス製造分野(例えばメタノールやアンモニアの製造過程)でも適用が可能です。さらに、SMR法の基本原理は、メタルダスティング腐食以外の防食に適した合金の設計にも応用できる可能性があります。
当社はクリーン燃料プラント以外にも、本技術が活用される場所を探索していきます。 

<用語解説>
*1 SMR法
SMRは「Surfactant-Mediated Resistance」の略で、表面反応を抑制することを意味します。金属表面でのガスの解離性吸着を抑制する新しい技術です。

*2 合成ガス
一酸化炭素(CO)と水素(H2)を含む混合ガス。天然ガスを改質して得られる合成ガスは、その他にCO2やH2Oなどを含みます。

*3 改質
ある物質から異なる物質を化学的につくること。例えば天然ガスの主成分であるメタンを化学的に変換してCO やH2を含むガスにするなど。

*4 クリーン燃料
硫黄分や芳香族の含有量が低く、燃焼によっても硫黄酸化物(SOx)や粒子状物質(PM)が発生しない燃料。GTLやDMEの他、水素も含まれます。
GTLは「Gas To Liquids」の略で、広義にはガスから液体に変換されるものすべてを意味しますが、狭義には天然ガスを改質して合成されたナフサ、灯油および軽油などの製品を指します。

以 上


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