高級厚鋼板用革新的連続鋳造技術PCCS法およびSSC法の開発について

2007/10/18

  • 住友金属工業株式会社

当社は、需要の旺盛な高級厚鋼板の製造のための革新的な連続鋳造技術である気孔低減法(以下PCCS法(*1))と表層組織制御冷却法(以下SSC法(*2))を開発しました。これにより、ますます品質面での要求の厳しくなる高級厚鋼板の量産が可能となります。当社は、鹿島製鉄所第2連続鋳造機において既に実用化し、今後、需要の増大が期待されるエネルギー分野向けの製品への適用も拡大していきます。 尚、SSC法は、2007年8月10日に経済産業省より、「ナノサイズ微細粒子(*3)を利用した厚板高級構造用鋼の製造方法」として「第2回ものづくり日本大賞(*4)内閣総理大臣賞」を受賞しました。

1.開発の経緯
連続鋳造法は、スラブと呼ばれる厚鋼板用母材の製造方法の主流で、厚鋼板の量産と安定供給のためには必要不可欠なプロセスとなっています。 金型用高炭素鋼板や大型産業機械用鋼板などに使用される高品質極厚鋼板の製造では、スラブの中心部が凝固する段階で生じる気孔(ポロシティ)(*5)が弊害となり、連続鋳造法の適用は限界があり、従来は大型のインゴットを、分塊工程を経て、圧延機で成型して製造する方法が採られていました。 また、大入熱(だいにゅうねつ)対策鋼(*6)や高張力鋼のような高級厚鋼板のスラブを製造する際に、連続鋳造工程において、鋳片の表面温度が800~900℃付近で表層に横ひび割れ(*7)が生じていたため、スラブの検査や手入れ工程が必要となり、高級厚鋼板を量産するのに大きな弊害となっていました。 当社は、中心部気孔、表層の横ひび割れといった高級厚鋼板の製造上の問題を解決できる革新的な連続鋳造の技術であるPCCS法とSSC法を開発し、鹿島製鉄所の第2連続鋳造機で実用化しました。(図1参照)


図1 鹿島製鉄所第2連続鋳造機における新技術の適用

2.新技術の内容
(1)極厚鋼板対応PCCS法
当社は、厚みが100mmを超えるような極厚鋼板を連続鋳造法によって製造する際に、鋳片を凝固末期にロールで強圧下することで、内部の品質上問題となる鋳片中央部の気孔を鋳造段階で圧潰し、極厚鋼板の製造を可能にしたPCCS法を開発しました。本技術は、スラブ鋳片の中心部がほぼ完全に凝固する直前でスラブ表面から圧下を加えます。この時の鋳片表面と中心の温度差は約500℃前後あり、より高温の中心部に圧下変形を与え、気孔を小さくできます。(図2、図3参照)これにより、中央部の気孔は通常鋳造材の約1/3まで低減し、さらにそれに続く圧延工程で小さくなり、高感度の超音波欠陥検出試験(以下UST)に合格しました(図4参照)。

 これにより通常の連続鋳造機と圧延ラインを用いて、高能率かつ短いリードタイムで極厚鋼板の製造およびエネルギー削減が可能となりました。 本技術は、主に金型用高炭素鋼板や大型産業機械用鋼板などに使用される高品質極厚鋼板への適用が可能です。さらに、近年ますます厳しい内部品質のレベルが要求される橋梁用厚肉材や、海洋石油掘削用ジャッキアップリグ(*8)のラック部分(*9)などのエネルギー分野用厚鋼板への適用も可能となり、試作試験の結果、商品化に成功しました。需要旺盛なエネルギー分野への極厚鋼板への安定供給に大きく貢献するものと考えられます。

(2)表面割れ抑制のSSC法
連続鋳造では従来、鋳込み時間の経過とともに徐々に鋳片を冷却する方法をとっていましたが、当社は、横ひび割れ防止対策として、鋳型を出てから早期(約1分以内)に鋳片温度を約800℃程度まで急冷却し(図5参照)、その後復熱するSSC法を開発しました。これは鋳片の表層全面に横ひび割れの生じにくい制御組織で被覆すること(図6参照)により、表層の割れを防止する方法です。横ひび割れは900℃付近における高温脆化(ぜいか)現象(*10)に起因することが明らかにされており、従来は、この脆化現象は避けられないものと考えられていました。これに対して、今回、ナノサイズ微細粒子の析出を利用して、ミクロ組織制御(図7参照)を行うことにより、この脆化現象を抜本的に解消できることを発見しました。このように鋳片の凝固・冷却過程の現象を利用し、鋳片表層の冷却時に組織を制御することによって、高級厚鋼板のスラブの横ひび割れ発生を防止する連続鋳造技術を開発し、スラブの検査・手入れといった工程の省略が可能になりました。この結果、検査・表面手入れに伴う平均3日のリードタイムを省略し、高級厚鋼板の生産効率およびエネルギー効率を高めることができました。


図2 PCCS法の概要


図3 スラブ鋳片の気孔低減状況


図4 鋳造後の圧延工程での圧下を含めた気孔の低減

              
図5 SSC法冷却装置の概要                                 図6 鋳片表層組織改質


図7 ナノサイズ微細粒子析出の制御

<用語注釈>
*1 PCCS
Porosity Control of Casting Slab の略。

*2 SSC
Surface Structure Control Coolingの略。

*3 ナノサイズ微細粒子
鋼の種類により冷却過程で鋳片内には炭化物や窒化物が生成することがあります。本技術では数10nm(ナノメーター)の粒子を粒内にも生成させることにより割れの発生を防止しました。

*4 ものづくり日本大賞(なお、内閣総理大臣賞は最高賞)
経済産業省の本賞の制度概要に掲載された内容を下記に引用します。
「我が国産業・文化の発展を支え、豊かな国民生活の形成に大きく貢献してきた『ものづくり』を着実に継承し、さらに発展させていくため、最先端の技術から伝統的・文化的な『技』まで幅広い分野において中核を担う中堅世代のうち、特に優秀と認められる人材(『ものづくり名人』)に対して、内閣総理大臣が表彰を行うもの。」

*5 気孔
鋳造末期に残溶鋼の凝固時の体積収縮で空隙が発生し、そのままポロシティと呼ばれる気孔となります。鋳片の厚み中心部に不規則に存在し、直径2mm以下程度の気孔の集合体として残存します。

*6 大入熱対策鋼
造船や建築用途など溶接して使用される厚鋼板は溶接工程の合理化のために、より高い入熱量でも優れた溶接品質が得られることを求められています。このような用途に使用される厚鋼板を大入熱対策鋼と呼びます。 

*7 横ひび割れ
長さ数mm~数10mmの鋳片の幅方向かつ粒界に沿ってひび割れ状に発生する割れのことです。外見は目立たないのですが、深さが数mm~10mm以上となることから圧延時に残存していると製品疵の発生につながり、圧延前に手入れによる除去が必要となります。

*8 ジャッキアップリグ
低水深部で3~4本の脚を海底におろし、船体をジャッキアップして操業するタイプの海洋構造物。

*9 ラック
歯車の歯竿。

*10 900℃付近における高温脆化現象
鋼の冷却過程では900℃以下でオーステナイト相からフェライト相に相変態し結晶構造が変化します。このとき粒界部に析出物が優先的に生成すること、長く伸びたフェライトが生成することが原因となり、この温度域で変形に対する伸びが低下する高温脆化現象が生じます。

以 上


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