新型衝突安全性能評価システムの開発について
- 次世代車体構造の提案に向けて -

2006/10/20

  • 住友金属工業株式会社

当社は、世界最大かつ最速の大型落錘試験装置(*1)の開発により、自動車車体の衝突現象を高精度に再現、評価する試験手法を確立した。さらに、得られたデータを元にした高精度なCAE技術(*2)を構築することにより、新型衝突安全性能評価システムを開発した。今後、本システムを有効活用しながら、鉄鋼材料の性能を最大限に発揮するための部品・構造を自動車メーカーに提案し、衝突安全性能を向上させた次世代車体構造の開発に技術協力していく。

1.開発の背景-落錘試験のニーズ
自動車メーカーが要求する性能の中には衝突安全性能の確保と車体軽量化=燃費向上の両立がある。それを満たすために、素材メーカーには、単に材料開発のみではなく、部品毎に要求される性能を理解した上で、自動車メーカーに対してどの材料をどのように使えば最もパフォーマンスに優れた車体部品を得られるかや、開発した部品の性能が実車状態で機能するかを事前に知る手段等について具体的な提案を行うことが求められている。
また、開発期間の短縮要求が強まっている近年では、簡易にかつ安価に部品の性能を評価する試験手法へのニーズが急速に高まってきている。特に、車体の骨格設計に直結する衝突安全性能の評価は極めて重要であり、そのニーズに合致する試験装置が落錘試験装置である。

2.当社の落錘試験装置の開発
当社が平成14年4月に導入した落錘試験装置の第1号機は、試験速度が最大時速64kmと当時としては国内最大かつ最速の試験装置であり、試験機内のスペースが広く色々な角度から現象を観察できることなどから自動車メーカー(以降、ユーザー)からの引き合いが相次ぎ、2500体にも及ぶ試験を実施してきた。その中で、様々な試験に対応し、ノウハウを蓄積して、ユーザーから試験手法に対する信頼もいただいてきた。
本装置では、1秒間に数千コマに及ぶ記録が可能な高精度高速カメラを駆使し、実車では外板などで隠れてわからない部品の変形挙動を克明に観察することができる。さらに、荷重と高速画像との対比によって、どの瞬間に、どこで、何が起こっているかを正確に把握することができる。
一方で、ユーザーニーズは、簡易モデルによる性能比較などの基礎検討から構造評価、実車代替へと複雑化してきた。部品単体での性能に加え周辺構造との組合せ、つまり、構造という視点での部品開発・評価が求められてきている。即ち実車代替の試験こそが、今の技術開発で求められる視点である。このため、試験装置をさらに大型化する必要が生じてきた。また、自動車の衝突安全に関する規制が、より高速での乗員保護を求めるなど強化される動きが欧州を中心に拡がりつつあり、試験速度の高速化への対応も必須となった。

3.新落錘試験装置の導入
当社ではこれまでに蓄積した試験手法のノウハウを活用し、実車フルラップ試験(*3)まで、また時速96km(60マイル)の超高速域までの試験を可能とした、世界最大かつ最速の落錘試験装置を新たに設計・製作し、平成17年5月に立ち上げた。これにより実車代替の試験、つまり、構造という視点での衝突安全性評価のニーズに完全に対応できる体制を確立した。現在、数多くの試験依頼を受け、部品単体から車体骨格全体までの様々な試験を実施している。

4.高精度CAE技術の構築及び新型衝突安全性能評価システムの開発
当社では、新・旧の落錘試験装置の活用により、高速度カメラ撮影の他、動的な変位計測システムの構築、高応答性の荷重計測システムなど、測定手法のノウハウを蓄積してきており、これにより、高レベルでの衝突解析の精度検証を可能としてきた。
一方で、部材の衝突エネルギー吸収量を高精度に予測するためには、適切な材料データを解析に用いる必要がある。当社は、素材メーカーならではの精緻な材料データを豊富に蓄積しており、各種の解析に最適な材料モデルをユーザーに提供できる。さらに、当社ならではの強みとして、本装置を活用した衝突現象の計測・分析により解析結果の精度検証のみならず、解析モデルの最適化を可能としてきた。これらのCAE技術を用いて、部品単体だけでなく、構造体での性能評価も実施している。
最高レベルのハードウェアである新落錘試験装置と最高レベルのソフトウェアとしての高精度CAE技術を複合することによって新型の衝突安全性能評価システムを確立し、現在では、実車フルボディの解析技術を確立するまでに至り、ユーザーと共同でさらに高精度の解析技術構築を推進している。

5.6S-プロジェクト(*4)
この新型衝突安全性能評価システムによって、ユーザーから「落錘(=衝突評価)の住金」とまで賞されるほど評価技術に対する信頼をいただいている。
当社では、この評価技術をベースとして、車体の新構造提案につなげる活動「6S-プロジェクト」を積極的に推進している。具体的には、自動車を解体、分析することでその構造、機能を把握し、本装置を活用することにより、新しい部品・構造のアイデアを創出、蓄積する活動である。そのアイデアを練り上げ、部品性能のトータルデザインを行い、次世代の車体構造をユーザーに提案している。さらに性能、品質の向上に加え、ユーザーで重要な生産性向上やコスト低減という観点を含んだ提案も実施している。

6.本開発の成果と今後の展開
昨年発表した「高効率クラッシュボックス(*5)の設計技術開発」は、本システムを最大限に活用し、「6S-プロジェクト」を通じてユーザーと一体となって開発した成果である。本開発成果は、すでに実用化されており、さらに適用拡大を図っている。
今後はさらに当社独自の新型衝突安全性能評価システムを最大限に活用し、「6S-プロジェクト」を活性化させ、ユーザーに一歩踏み込んだ協業活動を展開して、「部品と構造提案のできる素材メーカー」としての当社の地位を確実なものにしていく。

<用語説明>
(*1) 落錘試験装置
衝突試験に代えて、自由落下により錘(おもり)を落として、供試材を実際に潰し、その衝突エネルギー吸収性能を評価する装置。

(*2) CAE技術
Computer Aided Engineering
コンピュータを活用して、製品の設計、製造、工程設計などの事前検討の支援を行うこと。 

(*3) フルラップ試験
米国及び日本の法規試験として採用されている50km/hで平面バリアに衝突させる試験形態。

(*4) 6S-プロジェクト
Sumitomo's Sophisticated Safety Solutions by Steels & Structures
衝突安全性能最高レベル(6つ星<6stars>)の車体構造を提供する活動。

(*5) クラッシュボックス
フロント/リアサイドメンバー(フレーム)の先端に配置され、衝突時のエネルギーを効率よく吸収することで、軽衝突時の補修性を向上、即ち、本部材とバンパーの交換のみで補修が完了し修理費を軽減できること、さらに高速衝突の際の人体損傷を限りなく小さくすることを目的とした自動車構造部品の中で最も重要な部品の一つである。

以 上


このページの上部へ

ここからフッター情報です