「ハイブリッド車の駆動モータ用電磁鋼板 27SXH270の開発」(社)日本金属学会から技術開発賞を受賞

2006/09/19

  • 住友金属工業株式会社

当社は、このたび「ハイブリッド車の駆動モータ(*1)用電磁鋼板(*2) 27SXH270(*3)の開発」で(社)日本金属学会から技術開発賞(*4)を授与された。贈呈式と受賞記念講演は、2006年秋期大会期間中(9月16日)に行われた。

1. 受賞対象
今回の受賞対象は、地球環境の観点から普及が急速に進展しているモーターを併用して走行するハイブリッド車の駆動モータ鉄心向けに開発した、優れた磁気特性と加工性を有する無方向性電磁鋼板27SXH270に関するものである。 本電磁鋼板は平成16年より本田技研工業株式会社殿のハイブリッド車の駆動モータに採用されているが、二輪車の発電機や家電モータの鉄心材料にも採用されており、機器の高機能化と省エネルギーに貢献している。

2. 開発内容
(1)ハイブリッド車の駆動モータ用電磁鋼板の要求特性
駆動モータの必要性能は、車両の燃費性能を満足させるための高いモータ効率と減速時のエネルギー回生効率、および車両への搭載性を満足させる小型・高出力が必須条件である。また、ハイブリッド車の普及に欠くことの出来ない要件として低コストであることが挙げられる。
以上の要件を満たすためには、電磁鋼板に対して高周波鉄損の低減と高磁束密度(*5)の高度な両立が要求される。更に、駆動モータの低コスト化には鉄心生産効率の向上が必要であり、鉄心として積層された鋼板間の固着力であるカシメ強度(*6)が極めて重要となる。

(2)開発のポイント
1)低鉄損と高磁束密度の高度な両立
鉄損は板厚が薄いほど低減しやすいが、磁束密度も低下する傾向がある。本開発では、リンの積極的な添加と当社独自の焼鈍設備の活用により、鋼板の結晶配向を制御して、板厚を 薄くしても磁束密度の低下を抑制できる技術を世界で初めて確立した。その結果、同一磁束密度の従来製品(板厚:0.35mm、0.5mm)に比べて20~50%の鉄損低減を実現した。

 2)鉄心生産効率と磁気特性の観点からの最適板厚
板厚が薄いほど鉄損は低減しやすいが、カシメ強度の低下により鉄心生産効率は劣化する。そのため、鉄心生産効率面での最適板厚を見極める必要がある。本開発では、当社独自の連続打ち抜き-自動カシメ性評価設備を活用して板厚とカシメ強度の関係を詳細に調査し、カシメ強度を安定して確保できる下限の板厚が0.27mmであることを見極めた。この結果から、鉄心生産効率と磁気特性の両立する最適板厚が0.27mmであることを見出した。

 3)開発品のモータ性能
鉄心素材特性のみによるモータ性能の向上代を定量的に評価するため、27SXH270と代表的な高級無方向性電磁鋼板であるJIS規格の35A250を用いて永久磁石タイプの小型モータを試作し、種々の運転条件で効率を比較した。27SXH270は35A250と比較して、いずれの運転条件(周波数∝回転数、トルク)においても高い効率を示す。特に、低速回転-高トルク域での効率は約2%向上した。この運転条件は、ハイブリッド車の最も重要な走行性能の一つである発進時に相当しており、27SXH270がハイブリッド車の駆動モータ用途として好適な特性を有することが示されている。日本国内の全モータの効率を2%向上させた場合、約300万kW、原子力発電所3~4機分の節電が可能とされており、27SXH270の環境への寄与が極めて大きいことが分かる。
実際に27SXH270を用いたハイブリッド車の駆動モータは、従来のハイブリッド車の駆動モータに比べて幅広い運転条件領域にて効率が向上している。このようなモータ性能の大幅な改善には、モータ構造の変更のみならず27SXH270の優れた特性が大きく寄与している。

3. 今後の展開
モータや発電機の省エネルギーと小型・高出力化に対する要求は年々強まっており、本電磁鋼板の適用は拡大すると考えている。今後は、本開発の技術を横展開して、高性能無方向性電磁鋼板の品揃えを強化することにより、二輪車の発電機やエアコン等の家電モータ分野の客先ニーズにも応えるとともに、地球環境問題の解決に貢献していきたい。

<用語解説>

*1 駆動モータ:
走行するための動力源となるモータ。自動車では、ワイパーやパワーウィンドー等の電装品を作動させる小型モータを多数搭載しているが、燃費や動力性能を支配する駆動モータがハイブリッド自動車や燃料電池車では最も重要なモータといえる。

*2 電磁鋼板:
電気機器の鉄心材料となる電磁鋼板には、方向性と無方向性の2種類がある。方向性電磁鋼板は、鋼板面内の圧延方向の磁気特性が著しく優れているが、他の方向の磁気特性は劣っている。磁化方向が一方向に固定されている変圧器の鉄心の場合、方向性電磁鋼板の圧延方向を鉄心の磁化方向に合わせて使用することにより、高性能の電気機器を製造することができる。一方、無方向性電磁鋼板は圧延方向の磁気特性は方向性電磁鋼板に比べて劣るが、鋼板面内の特性差が小さく平均的な磁気特性が優れている。このため、磁化の方向が一定でないモータの鉄心材料に適している。本電磁鋼板は、この無方向性電磁鋼板である。

*3 27SXH270:
無方向性電磁鋼板の当社規格。27は、板厚が0.27mmであることを表す。SXHは、高磁束密度材であることを表す。270は鉄損W15/50(励磁周波数50Hzで1.5Tに磁化した場合の鉄損値)が2.7W/kg以下であることを表す。

*4 技術開発賞:
(社)日本金属学会の会報誌である、まてりあ 第44巻 第8号(2005)、に掲載された第29回技術開発賞募集の説明を下記に抜粋して紹介する。
[本賞の趣旨]
本会は、創意あふれる開発研究を推奨する目的で、金属工業ならびにこれに関連する新技術・新製品などの独創的な技術開発に携わった技術者に対し、本賞を受賞するものである。
[選考基準]
独創性、有用性、将来性、実績
[選考]
受賞者の選考は選考委員で行う。選考委員は本会理事会が毎年選考し、会長が委嘱する。

*5 高周波鉄損の低減と高磁束密度
電磁鋼板の特性の中で最も重要なものは、鉄損と磁束密度である。モータは、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する機器であるが、この変換ロスが鉄損であり、鉄心の中で熱エネルギーとして消費される。従って、鉄心材料として鉄損の低い電磁鋼板を使用することによりモータ効率が向上し、省エネルギーが達成できる。また、小型でも十分なトルクを出せることが、ハイブリッド自動車の駆動モータでは極めて重要であり、このためには鉄心が大きな磁化を持つことが必要である。この鉄の磁化の指標が磁束密度であり、高磁束密度の電磁鋼板を使用するほど、小型でトルクの大きいモータを作ることができる。    

*6 カシメ強度:
モータ鉄心は、プレスで連続打ち抜きにより鉄心形状に成形された電磁鋼板を積層し、固着して組み立てられる。現在最も多用される積層鋼板の固着方法が自動カシメであり、打ち抜き時に鋼板にヘコミとダボを成形し、打ち抜きの次工程でヘコミとダボを押し込んで鋼板をかしめる。かしめられた積層鋼板の固着強度であるカシメ強度がある一定以上でないと、鉄心の組み立て作業に支障をきたす。

ハイブリッド車駆動系の一例

以 上


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