世界初 ハイドロフォームにおける大型異形孔の高精度同時打ち抜き技術の開発・実用化について
-NSKステアリングシステムズ株式会社より「感謝状」を受賞-

2006/04/18

  • 住友金属工業株式会社
    住友鋼管株式会社

住友金属工業株式会社(社長:友野 宏、本社:大阪市)、住友鋼管株式会社(社長:藤原勝行、本社:東京都墨田区)、日本精工株式会社(社長:朝香 聖一、本社:東京都品川区、以下NSK)のグループ会社であるNSKステアリングシステムズ株式会社(社長:篠原 三知夫、本社 群馬県前橋市)は、この程、世界で初めてハイドロフォーム(*1)の工程内で、複数個の大型の異形孔を同時にかつ高精度に打ち抜くことができるハイドロピアシング技術を共同開発した。
本技術は、新型ステアリングコラム(*2)に既に適用し、実用化した。現在、この新型ステアリングコラムは、ユーザーに好評を得て順調に搭載車種が拡大している。本技術の適用により、製造工程の大幅な省略を実現するとともに、複雑部品の一体成形が可能で、高精度の成形が可能なハイドロフォームの特徴を活かし、溶接部の省略を達成した。
尚、本開発に関する貢献について、2006年4月12日、NSKステアリングシステムズ株式会社より住友金属工業株式会社、住友鋼管株式会社に「感謝状」が授与された。

1.開発の背景
ハイドロフォーム技術は、1960年代に管継ぎ手の製法として名古屋工業試験所において開発された技術であり、鋼管に水圧と軸圧縮力(*3)を付与し、金型に沿った製品形状を得る塑性加工法である。自動車部品への適用は欧米で先行し、1990年代初頭にエンジンクレードル(*4)で実用化した。
住友金属工業株式会社、住友鋼管株式会社(以下、住友金属グループ)では、国内の自動車メーカーの高度な要求に応えるべく、ハイドロフォーム部品のさらなる軽量化・複雑形状化・高強度化の技術開発を行うために、1997年、国内最大級のハイドロフォーム機を総合技術研究所(尼崎)に導入し、各自動車メーカーとともに、ERW(電縫溶接)鋼管を素材としたハイドロフォーム部品の共同開発を開始した。
住友金属グループでは、1999年、鋼管ハイドロフォームによる自動車部品の国内初搭載を皮切りに、現在まで多数の自動車部品を実用化してきており、この分野において国内最大の実績を有している。
ハイドロフォームは、従来のプレス成形・溶接組み立てと比較した場合、
(1) 複雑形状部品の一体成形が可能であり、部品点数の省略や付加的な溶接が省略できる
(2) 加工硬化(*5)が得られる
(3) 形状凍結性が良好である(スプリングバック(*6)が小さい)ため、成形精度が良好である
といった長所がある。

一方、通常の自動車部品には位置決め孔、塗装の抜き孔をはじめとして、数多くの孔が必要である。これらの孔空け加工は後工程で実施される場合も多いが、ハイドロフォーミング工程内で孔を空ける方法(ハイドロピアシング)も実用化されている。
すなわち、従来から行われているハイドロピアシングは、ハイドロフォーム工程の内圧が上昇した最終段階で、ポンチ(*7)をワーク(*8)に押し込むことで孔空けを行うものである。
しかしながら、この方法では、孔のふちの部分にだれと呼ばれる折れ曲がりの形状不良が発生するため、高寸法精度品には適用が不可能であった。また、小型の丸孔のみにしか適用されていなかった。

2.開発内容
(1)開発の狙い
ハイドロフォームの工程内で、複数個の大型の異形孔を同時に、かつ高精度に打ち抜くハイドロピアシング技術を開発し、ハイドロフォームによる自動車部品への適用の範囲を拡大する。

(2)開発の概要とポイント
住友金属グループとNSKステアリングシステムズ株式会社が、この程、開発したハイドロピアシング技術は、ハイドロフォーム工程の内圧が上昇した最終段階で、ポンチをワークと反対側の外側に引き抜くことで、孔空けを行うものである(以下、外向きピアシング)。
外向きピアシングでは、孔のふちの部分はダイスに支えられるため、だれの形状不良は発生せず、高精度の打ち抜きが可能となった。但し、抜き孔の形状が円ではなく複雑形状や大型孔の場合には、不均一にせん断変形が進行し、孔の一部で破断が発生する。一度抜き孔の一部が破断し、加工液が外側に流出すると、内と外の圧力が同一になり、それ以上せん断変形が進まず、ハイドロピアシングは不完全に終了することになる。
これらの問題に対して、大型で複雑な孔の全ての部位のせん断変形が均一になり、同時にせん断が完了するピアシング技術を開発した。
複数個の大型の異形孔を同時に、かつ高精度にピアシングする技術の実用化は世界初であり、かつ外向きピアシングについても実用化は国内初である。
(外向きピアシングは欧米の文献に記述はあるものの、欧米での実用化は聞かない。)

(3)新型ステアリングコラム
本技術を適用したNSKステアリングシステムズ株式会社の新型ステアリングコラムについて説明する。
従来ステアリングコラムのジャケット(*9)本体は、主要3部品を溶接で固定していたが、ハイドロフォームを適用することにより一体化、部品点数を削減することができた。剛性向上を果たすとともに、溶接による熱影響による変形がなく、また溶接スパッター(*10)による悪影響のない信頼性の高い部品を開発した。
さらに、外向きハイドロピアシングを適用することにより、ハイドロフォーム工程での4つの長孔と異形孔のピアシングが可能となった。これらの孔は、ステアリング・ハンドルの位置調整(*11)の摺動部となるため高い形状精度が必要とされており、厳しい要求精度をクリアした。
これらのピアシング技術の基礎開発と部品開発は、住友金属グループとNSKグループが共同で実施したものであり、住友金属工業 総合技術研究所(尼崎)内の大型ハイドロフォーム機を活用して行われた。

さらに 、新型ステアリングコラムは、2006年3月29日、日刊工業新聞社主催の「モノづくり部品大賞」をNSKが受賞しており、本開発に関する貢献について、2006年4月12日、NSKステアリングシステムズ株式会社より住友金属グループに「感謝状」が授与された。

3.今後の展開
住友金属グループでは、今後ともハイドロフォームを取り巻く周辺技術開発に注力し、ハイドロフォームのさらなる普及につとめていく。
その際、住友金属工業 総合技術研究所(尼崎)内の大型ハイドロフォーム機を活用し、実部品の設計から試作まで、自動車メーカーのニーズに一歩踏み込んだ活動を展開していく。

<用語解説>

(*1)ハイドロフォーム:
液圧成形と呼ばれ、高圧液体によって被加工材を塑性変形させる加工法。
(*2)ステアリングコラム:
ステアリング・ホイールの動き(回転)をステアリング・ギア・ボックスに伝えるための機構。
(*3)軸圧縮力:
鋼管ハイドロフォームでは、成形時に膨出変形を助長するために、油圧シリンダーを用いて鋼管の管端部を軸方向に押し込みながら成形する。この時、管端部に作用する力をさしている。
(*4)エンジンクレードル:
エンジンを搭載する架台となる自動車部品。
(*5) 加工硬化:
金属が、変形が進むにつれ硬くなり強度を増していく現象。
(*6)スプリングバック:
金属の板を曲げ加工すると、加工後、弾性変形によって曲げ変形が幾分元に戻る現象。一般にハイテン材ほどスプリングバック量が大きくなり、加工後の製品の精度が悪化する。尚、形状凍結性とは、スプリングバックのしにくさである。
(*7)ポンチ:ダイス(雌型)に対する雄型をさす。
(*8)ワーク:加工物。
(*9) ステアリングコラムのジャケット:ステアリングコラムの胴体部。
(*10) 溶接スパッター:溶接中に、飛散するスラグおよび金属粒。
(*11)ステアリング・ハンドルの位置調整:
ステアリング・ハンドルの位置を上下方向(チルト)と前後方向(テレスコピック)に調整できる車種が増えてきている。

以 上


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