バネ部品用ステンレス薄板「NAR-301 SS1」の開発について

2005/11/02

  • 住友金属工業株式会社
    株式会社住友金属直江津

住友金属工業株式会社と株式会社住友金属直江津は、この程、パソコンや携帯電話など、家電・IT製品に使用するバネ部品用として、従来よりも高い強度と優れた加工性を両立させたステンレス薄板「NAR-301 SS1(*1)」を開発し、サンプル出荷を開始した。

1. 開発の背景
ステンレス鋼製のバネ部品は、パソコンや携帯電話など、家電・IT製品において数多く使用され、製品の優れた性能や高い信頼性を支えている。これらの製品はエンドユーザーのニーズ、環境問題等から小型・軽量化が進行しており、バネ部品にも更なる高強度化、高精度化が要求されている。
このバネ部品は、ステンレス薄板を素材として金型を用いたプレス加工にて成形されるが、素材には複雑かつ高精度の形状を得るために、優れた加工性が必要である。加えて、携帯電話のボタン用皿バネ(*2)等の繰り返し応力がかかるバネ部品では、それに耐える高い強度が必要である。更に、バネ部品は、小型・軽量化された最終製品の構造体として、剛性低下を補うために高い強度が必要である。
これに対して、ステンレス鋼等の金属材料は一般に高強度化による延性(*3)の低下が避けられず、高い強度と優れた加工性が両立しないが、「NAR-301 SS1」は高い強度と優れた加工性の両立を目的として開発したステンレス薄板である。

2. 開発のポイント
「NAR-301 SS1」は、実生産としては世界初となる新たな製造方法を適用することで、これまで得ることが難しかった微細な結晶粒組織を安定生成させ、高性能化を実現した材料である。 素材は従来の規格成分を満たし、顧客側で材質変更の必要がなく、リサイクルも容易である。

3.開発材の特長
(1)高強度、高延性
強度と延性のバランスに優れ、従来材と同一硬度において比較した場合、伸びが約15%上昇した(図1)。この特長から、プレス加工によって製造されるバネ部品用素材として最適である。

(2)優れた加工性
同様に同一硬度での曲げ加工部の表面粗さは約40%と大幅に低減し、従来材にない平滑な表面を得ることに成功した(図2)。また、成形後の部品を変形させる残留応力(*4)が低下し、その異方性(*5)が半減した。これらの特長から、特に小型・軽量化での高精度加工を必要とする精密加工部品用素材として最適である。

(3)高疲労強度
更に、(図2に示した)曲げ加工部での繰り返し曲げ試験において、従来材を超える高疲労強度を確認した。この特長から、バネの繰り返し使用における耐久性向上が可能である。

4.開発材の適用
現在、家電・IT製品を対象にサンプル出荷を始め、顧客からの評価をいただいている。併せて各方面へのPR活動を通じて、顧客から良好な反応をいただいており、順次サンプル出荷の対象を拡大している。

5.今後の展開
パソコン、携帯電話に代表されるように、家電・IT製品の小型・軽量化は今後も続くものと考えられる。これらのニーズに応えるべく、「NAR-301 SS1」の適用拡大を目指していく。
更に、新たな高性能材料の開発を進め、より多くの顧客のニーズに応えていく。

<用語解説>

*1 NAR-301 SS1
NARは住友金属工業のステンレス鋼の登録商標(N:Nippon Stainless,A:Acid,R:Resistance)、301は16~18Cr-6~8Ni前後を主合金成分とするステンレス鋼を示す番号であり、SS1 は今回の開発材を示す住友金属工業での略称である。

*2 皿バネ
板に凸部を設け、皿状の形状に加工したバネ。凸部に対して上からかかる応力にバネとして作用し、携帯電話のプッシュボタンの下に適用されるものが代表例としてあげられる。

*3 延性
「材料が外力によって変形を生じて破壊する程度」と規定される特性。一般的には引張応力下での伸びにより評価され、伸びの大きい材料ほど加工性にも優れる。ただし、ここでの加工性は残留応力、異方性等を含め、高精度のバネ部品を成形するために必要となる全ての性質を含めたより広い意味で使用している。

*4 残留応力
外部から応力が作用していない状態で、材料に残存する応力。内部応力とも言う。同応力により成形後の部品が変形し、所定形状が得られないという現象を生じる。

*5 異方性
残留応力の板の長手方向と幅方向での差。差が大きい場合、異方性が大きいと評価する。

<参考>

以 上


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