鋼板ハイドロフォームの技術開発について
- 高張力鋼板(ハイテン材)による自動車用大型・複雑形状部品の成形技術を開発 -

2005/11/02

  • 住友金属工業株式会社

当社は、この程、鋼板ハイドロフォーム(*1)の注水・シール技術(*2)と高精度なFEM(有限要素法)解析モデル(*3)を開発することによって、世界で初めて高張力鋼板(以下、ハイテン材)での大型・複雑形状部品の成形技術を確立した。今後、自動車メーカーでの鋼板ハイドロフォーム技術による自動車部品の実用化を目指し、技術協力を展開していく。

1.開発の背景
鋼管ハイドロフォーム技術は、1960年代に管継ぎ手の製法として名古屋工業試験所において開発された技術であり、鋼管に水圧と軸圧縮力(*4)を付与し、金型に沿った製品形状を得る塑性加工法である。自動車部品への適用は欧米で先行し、1990年代初頭にエンジンクレードル(*5)で実用化した。
当社では、国内の自動車メーカーの高度な要求に応えるべく、ハイドロフォーム部品の更なる軽量化・複雑形状化・高強度化の技術開発を行うために、1997年、国内最大級のハイドロフォーム機を総合技術研究所(尼崎)に導入し、各自動車メーカーとともに、ERW(電縫溶接)鋼管を素材としたハイドロフォーム部品の共同開発を開始した。
当社では、1999年、鋼管ハイドロフォームによる自動車部品の国内初搭載を皮切りに、現在まで多数の自動車部品を実用化してきており、この分野において国内最大の実績を有している。鋼管ハイドロフォームは、従来のプレス成形・溶接組み立てと比較した場合、


・複雑形状部品の一体成形が可能であり、部品点数の省略や付加的な溶接が省略できる
・加工硬化(*6)が得られる
・形状凍結性が良好である(スプリングバック(*7)が小さい)ため、成形精度が良好である

といった長所がある。このように、鋼管ハイドロフォーム技術は、自動車メーカーからの部品の軽量化、高強度化、コストダウンの要求にマッチした技術である。

2.開発内容
(1)開発の狙い
自動車メーカーからの大型・複雑形状部品の更なる衝突安全性向上や軽量化要求に応える。

(2)開発の概要
当社が開発した鋼板ハイドロフォーム技術は、上下2枚の板を重ね合わせ、周辺を溶接したのち、片側に設けられた注水孔から高圧水を注入し、金型に沿った製品形状を得る方法である。この程、世界で初めてハイテン材での大型・複雑形状部品の鋼板ハイドロフォーム技術を確立した。

(3)開発のポイント
・注水・シール技術の開発
他社にはない信頼性の高いシンプルな技術を開発することにより、加工を可能とした。

 ・素材と金型形状の最適設計
高精度なFEM解析モデルを構築することにより、実現した。すなわち、変形解析により破断としわの発生を予測することが可能となった。また、金型形状の設計法を確立し、素材となる最適なブランク*8の形状設計が可能となった。

 鋼板ハイドロフォームは、従来のプレス成形や鋼管ハイドロフォームと比較して、重ね合わせた鋼板の周囲を接合後、高圧水を注入するだけで成形が完了するため、大幅に工程を省略でき、コスト削減が期待できる。

 更に、鋼板ハイドロフォームでは、鋼管ハイドロフォームの長所を活かしつつ、同成形技術では対応できなかった断面周長変化*9が大きい製品や薄肉品での成形が可能となるため、ハイテン材での大型・複雑形状部品の一体成形に有効である。

(4) 鋼板ハイドロフォーム技術による自動車部品の試作例
総合技術研究所(尼崎)内の大型ハイドロフォーム機を用いて実施した、大型サスペンションメンバー*10の試作例を紹介する。尚、大型サスペンションメンバーは、断面周長差が大きいため、鋼管ハイドロフォームでは、成形不可能な製品である。
従来のプレス成形では6部品を別々に成形した後、アーク溶接を行っている。その際、従来法ではブランクの打ち抜き金型6セット、プレス成形金型が18セット計24セットの金型が必要であるが、鋼板ハイドロフォームではブランクの打ち抜き金型1セット、ハイドロフォーム金型が1セット 計2セットとなり、大幅な金型数の削減と工程省略が可能となった。
今回の試作では、引張り強さ590Mpa、板厚1.6mmのハイテン材を使用したが、割れやしわの発生もなく良好な成形が可能で、更に、スプリングバックも殆ど発生しなかった。また、FEM解析との対比も良好であった。

3.今後の展開
当社は、鋼板ハイドロフォームによるハイテン材での大型・複雑形状部品の成形技術を確立したため、今後、同部品の自動車メーカーでの実用化を図るべく、技術協力を推進する。その際、総合技術研究所(尼崎)内の大型ハイドロフォーム機を活用し、実部品の設計から試作まで、自動車メーカーのニーズに一歩踏み込んだ活動を展開する。

<用語解説>

*1 ハイドロフォーム:
液圧成形と呼ばれ、高圧液体によって被加工材を塑性変形させる加工法。

*2 注水・シール技術:
被加工材の内部に高圧水を漏れることなく注入する技術。

*3 FEM(有限要素法)解析モデル:
有限要素法とは、微分方程式を、近似的に解くための数値解析の方法。複雑な形状・性質を持つ物体を単純な小部分に分割することで近似し、全体の挙動を予測しようとするもの。今回の鋼板ハイドロフォーム解析では、有限要素法を用いて、2枚の板と周辺の溶接部をモデル化した。

*4 軸圧縮力:
鋼管ハイドロフォームでは、成形時に膨出変形を助長するために、油圧シリンダーを用いて鋼管の管端部を軸方向に押し込みながら成形する。この時、管端部に作用する力をさしている。

*5 エンジンクレードル:
エンジンを搭載する架台となる自動車部品。

*6 加工硬化:
金属が、変形が進むにつれ硬くなり強度を増していく現象。

*7 スプリングバック:
金属の板を曲げ加工すると、加工後、弾性変形によって曲げ変形が幾分元に戻る現象。一般にハイテン材ほどスプリングバック量が大きくなり、加工後の製品の精度が悪化する。尚、形状凍結性とは、スプリングバックのしにくさである。

*8 ブランク:
鋼板のコイルから打ち抜かれた加工前の中間製品。

*9 断面周長変化:
断面の周方向の長さの変化。

*10 サスペンションメンバー:
サスペンションのアーム(ロッド)類をボディに固定する際に介れる独立した骨格(フレーム)。単にメンバーやサブフレームとも呼ばれる。

鋼板ハイドロフォームによるサスペンションメンバー試作品外観

以 上


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