耐熱用オーステナイトステンレス「ＮＡＲ－ＡＨ－４」鋼板・シームレス鋼管　ＡＳＴＭ／ＡＳＭＥ規格を取得

住友金属工業株式会社と株式会社住友金属直江津は、この度、石川島播磨重工業株式会社と共同開発した耐熱用オーステナイトステンレス「ＮＡＲ－ＡＨ－４」(*1)鋼板とシームレス鋼管について、ＡＳＴＭ（米国材料試験協会）(*2)／ＡＳＭＥ（米国機会学会）(*3)規格を取得した。今回の取得により、今後、海外の火力発電プラントや化学工業プラント高温装置部材、ボイラ高温機器や、燃料電池の改質器(*4)部材などに「ＮＡＲ－ＡＨ－４」鋼板とシームレス鋼管の採用拡大が期待できる。

１．背景
材料が海外プラントに採用されるためには、ＡＳＭＥ規格等の公的国際規格に材質登録がなされていることが必須であり、両社では、ＡＳＴＭ／ＡＳＭＥ規格の登録を進めてきた。

２．「ＮＡＲ－ＡＨ－４」の特徴
代表的な耐熱ステンレス鋼である高クロム・高ニッケル系のＳＵＳ３１０Ｓと比較した場合、下記の特徴がある。
(1)優れた経済性
・ニッケル含有量がＳＵＳ３１０Ｓの半分以下でありながら、同等以上の特性を保持しており、経済的である。
(2) 優れた高温特性
・高温強度及びクリープ強度(*5)が、ＳＵＳ３１０Sより優れている。
・９００～１，０００℃の耐高温酸化性(*6)は、ＳＵＳ３１０Ｓと同等以上である。
・組織安定性に優れ、高温で長時間使用後の靭性低下がＳＵＳ３１０Ｓに比べ、はるかに少ない。
(3) 優れた溶接性
・溶接高温割れ感受性(*7)がＳＵＳ３１０Ｓに比べ大幅に改善し、特に厚肉材での溶接がより優位となっている。

３．今後の展開
今回のＡＳＴＭ／ＡＳＭＥ規格の取得により、省ニッケル型の耐熱ステンレス鋼として、火力発電プラントや化学工業プラントの高温装置部材、ボイラ、燃料電池の改質器部材、また、ＳＵＳ３１０Ｓの代替用として、国内はもとより海外向けに積極的に拡販を進めていく。

＜用語解説＞
＊１「ＮＡＲ－ＡＨ－４」（材質記号　ＵＮＳ　Ｓ３１０６０）
「ＮＡＲ－ＡＨ－４」は、平成５年に石炭焚き複合火力発電プラントの加圧流動層燃焼（ＰＦＢＣ：Pressurized　Fluidized-Bed　Combustion）複合発電設備の高温部機器（約９００℃）用として、石川島播磨重工業株式会社と共同開発した材料である。ＰＦＢＣ向けでは、電源開発株式会社若松の実証プラント、九州電力株式会社苅田新一号、中国電力株式会社大崎一号にほぼ独占的に採用された。また、低品位炭や都市ごみ、木くず、産業廃棄物を燃料とする循環流動層ボイラ（ＣＦＢ：Circulating　Fluidized-Bed　Combustion）、火力発電プラントや化学工業プラントの高温装置部材、燃料電池の改質器部材など、これまでに１，０００トンを超える受注実績がある。　　

今般、ＡＳＴＭ：A213/A213M、A240/A240Mに登録。
ＡＳＭＥ：Section Ⅰ・Section Ⅷ（ボイラ・溶接構造圧力容器）にCode Case 2430として登録。

＊２　ＡＳＴＭ（米国材料試験協会）
American　Society　for　Testing　and　Materialsの略称。
米国における工業材料及びその試験法に関する規格を作成する世界最大の標準化機関。ＡＳＴＭ規格は、団体規格ではあるが、世界標準として権威を有する規格である。

＊３　ＡＳＭＥ（米国機械学会）
American　Society　of　Mechanical　Engineerの略称。
ボイラ、圧力容器、原子力プラント関連機器に関する国際規格。これらの機器の製造及び検査を行なうための安全規則を定めるもので、操業中の製品品質の劣化に関して、その限界を規定することを目的としている。

＊４　燃料電池の改質器
天然ガスや、灯油、アルコール系などの燃料から、発電に必要な水素を取り出す装置。

＊５　クリープ強度
クリープとは、一般に高温で低荷重の下、材料が徐々に連続的な塑性伸びを示す現象をいう。特に高温機器に使用される構造部材ではクリープが材料の設計強度を決定する重要な因子となる。クリープに対する抵抗をクリープ強度という。

＊６　高温酸化性　
金属を大気中で高温加熱すると金属表面に酸化物（酸化スケール）が生成する。加熱中、このスケールが成長・剥離を繰返し金属そのものが減肉していく現象をいう。「ＮＡＲ－ＡＨ－４」は、酸化進行の抑制と酸化スケールの密着性を高めることでスケール剥離による重量減少がほとんど見られない耐熱ステンレス鋼といえる。

＊７　溶接高温割れ感受性
溶接凝固過程で発生する熱応力で割れを起こす可能性。

以　上