社長年頭あいさつ

2004/01/05

(2004年1月5日 社内での社長年頭あいさつ)

皆さん、明けましておめでとうございます。
昨年は、年度の連結経常利益で1,600億円の見通しが得られるなど、フローの収益では着実な成果を上げることができました。皆さんも確かな達成感を感じていることと思いますが、まずはこれまでの関連・協力会社、労働組合の皆さんを含めた全員の努力に心から感謝する次第です。

しかしながら、私としては、当社のポテンシャルから見ると、この程度の収益水準で満足することは到底できません。これは、皆さんとの対話の中で、我が社には取り組むべき課題、言いかえると「宝の山」がたくさんあり、したがって更に改善できる余地がまだ十分あると確信しているからです。よって本年は、当社の「強み」と「課題」を再度しっかり認識し、強みを更に活かし、課題を大きく改善していくべき年であります。

当社の「強み」として、私は次の4点を挙げたいと思います。第一に、全国に立地する需要家への最適なサービスの提供に適した多製鉄所体制であること、第二に、国内需要家とのパートナーといえる関係があり、それによって育成された技術力・技術開発力の高さ、および国内向け売上比率の高さを有していること、第三に、世界の主要鉄鋼メーカーとのアライアンス、およびそれを核とした複眼的な視点を日本以外に持つと同時に経営資源の共有と有効活用ができること、最後に、世界に通用する「新日鉄」の信用力が存在すること、であります。

こうした強みはすべて、我々の先輩方から引き継いだ、短期間では構築できない貴重な財産であり、今後これらの強みを更に伸ばしていく必要があります。とりわけ、国内外需要家から高い評価をいただいている技術開発については、世界のトップレベルの実力を有していると自負しており、今後とも、単なる商品の提供ではなく、利用加工技術やソリューションを含めた質の高いサービスの提供に一層磨きをかけていかなければなりません。

一方、当社の鉄事業における「課題」は、「製造実力の向上をいかに図るか」に尽きます。具体的には、まず多製鉄所体制の総合力がまだまだ最大限発揮できていないこと、また営業部門と製鉄所間の対話が随分進んだものの、まだ全社ベストを目指す余地がかなり残されていること、更には昭和62年の合理化計画により国内粗鋼生産9,500万㌧を前提とした生産設備構造を構築いたしましたが、足下の高レベルの生産では様々なネック工程が存在しており、コスト高の生産構造となっていること、等であります。

また、鉄事業以外のセグメントにおける収益力が、鉄事業に比べて十分でないという課題も明確になりました。

昨年は、これらの課題を明確に認識し解決に向けて大きな一歩を踏み出しましたが、本年は、これら当社の課題を解決することにより成果を具体化する年であります。本年の経営環境は、需要面では好調なアジアはもとより米国・欧州もようやく回復の兆しがあり、昨年に比べ一層の好転が期待可能であるという明るい側面がある一方、中国の鉄鋼需要拡大に伴う、過去に経験のないレベルでの原料需給のタイト化および円高の進展等の厳しい側面もあります。これらの厳しい環境を踏まえ、全社を挙げて一つひとつの課題に粘り強く取り組み、この成果を刈り取れば、中期連結経常利益目標の前倒し達成は充分可能と考えています。

再度繰り返しますが、収益とは、従業員が誇りを持って働ける会社になるための必要な条件であり、会社が効率的に運用されている証であり、同時に、社会の中で新日鉄の存在を高めるもの、であります。新年にあたり、皆さんには、このことについて今一度認識を新たにし、各々の課題に真正面から取り組んでもらいたい。
当社の中核事業である鉄事業については、すでに昨年より製造実力を回復すべく複数のプロジェクトに着手しています。本年は、この取り組みの成果を必ず実現しなければなりません。
第一の課題は、さらなる「全社ベスト」を追求することであります。トップランナー方式については、製鉄所の壁を越えた「全社ベスト」を目指す運動論として定着してまいりました。いくつかの工程で確実に成果が出はじめており、全社の実力は確実に向上していると認識しています。
また、昨年の名古屋における事故の際、全社一丸となったサポートにより、奇跡的なスピードでのリカバリーを実現いたしました。これは、全社一丸となった時の当社製造実力のポテンシャルの高さを改めて証明したものと思います。
しかしながら、製鉄所間の技術・ノウハウの共有化、および良い意味での競争は、永遠の課題です。今年は、全工程にわたりトップランナーミルとの所間技術交流、技術トランスファーを更に深化させてほしいと思います。また当然のことですが、社内のトップランナーは、世界に範を求め全社技術レベルの更なる向上を図り、世界トップレベルのコスト競争力実現を目指すよう期待しています。
第二の課題は、製鉄所・営業部門の緊張感ある対話による一層の収益拡大です。製鉄所・営業部門は、受注内容・製造条件の見直し等、更なる収益向上に向けた製販一体の取り組みに着手いたしました。両部門の本格的な対話は緒についたばかりであり、時間はかかるかも知れませんが、これらの成果は永続するものであり、一つひとつ解決することにより、何よりも「収益」をベースとした業務運営が徹底されることが、期待される大きな成果です。

第三の課題は、ネック工程解消により工程能力を向上することです。これまで各製鉄所では、足下の高水準での生産において、様々な要因から緊急対応に次ぐ緊急対応に追われ結果としてコスト高の構造になり、スループットの最大化も阻害されていました。よって、この高生産下での整流化を図っていくことが課題であります。
鉄源工程から出荷までのネック工程を解消し生産裕度を確保するために、最小の設備投資で最大の効果をあげるべく生産設備構造対策を検討・実施中です。これによって、計画保全が実施可能になると同時に、歩留向上、作業率向上、あるいはハイテン対策、安全にも好影響をもたらすなど、当社の製造実力向上に大いに役立つものと強く期待しています。
以上の対策に横串を通す製造実力向上プロジェクトの大きな柱として、計画保全プロジェクトを全社的に取り上げる考えです。計画保全は、計画した修繕内容を計画したスケジュールで実行し、それにより設備の稼働率を最大化し収益を向上するという、製造業としてのベース実力を表すものです。計画保全を実施するためには、製鉄所の製造実力、生産計画の立て方、生産指示の方法、受注方法等、数々の条件が揃わなければなりません。したがって、この取り組みにより当社の本質的な課題が明らかになり、それを一つひとつ解決することにより、大きな効果が期待されます。是非とも様々な議論を重ねて、飛躍的な効果を実現してほしいと思います。

鉄以外のセグメント および 新日鉄グループ各社についても、昨年は、各事業セグメントとのトップミーティングの開催に加えて、昨年末、各セグメント分社を訪問し、多くの皆さんと対話を実施いたしました。各セグメントには、いかに「収益効率」面で当社中期連結経営計画の達成に貢献できるかという視点であらゆる方策を検討・実行していただきたい。

エンジニアリング事業については、「社内分社」を徹底し、完全に別会社のように自立した運営マインドを早期実現してほしい。そのためには、目指すべきは売上ではなく「収益」であることを徹底するとともに、各事業毎に事業分野の選択・集中を行い、各々が他のトップレベルの競合メーカーと伍していける競争力と収益力を確立することを期待しています。

化学事業については、昨年負の遺産を清算して、ようやく本来の事業活動に前向きに取り組める環境になりました。化学品・コールケミカル等基盤事業の一層の体質強化、およびCCL等、高成長が期待できる需要分野を確実に捉えていくとともに、いまだ健全化の目途の立っていない事業の再構築を早急に進め、更なる収益基盤・財務体質の強化をお願いいたします。

システムソリューション事業については、一昨年の上場以来、SI事業でのプレゼンスは確実に高まってまいりました。株価が昨年10月には上場来最高値をつけたことは、投資家の期待のあらわれであります。しかし、システムソリューションとして初めて厳しい競争環境に直面している中で、NSソリューションの強みを活かして、是非とも成長企業として中期計画の達成に全力を挙げることを要請いたします。

都市開発事業については、平成15年は好調であったマンション事業が、本年は一転して厳しい年に転じることになります。量の拡大は指向せず、収益に徹した事業展開をお願いしたいと思います。また当社グループとしてのブランド・総合力を発揮し、他社が真似できないソリューションビジネス拡大、および当社遊休地の効率的活用に注力することを期待いたします。

新素材事業については、既存事業の集中と選択を引き続き進めていくとともに、REとの連携により、IT材料分野等、将来的に高収益が期待できる新材料開発に集中し、機動的に展開してほしいと思います。

新日鉄グループ各社については、昨年、大きな収益向上の実をあげていただきました。グループ各社の経営の健全度も確実に改善されつつあることは、皆さんの努力の成果です。昨年10月、グループ会社が目指すべき財務目標等を明示いたしましたが、今年は、各社それぞれが、コアビジネスへ集中するとともに、「業界トップクラス」の優良会社を目指していただきたい。私は、グループ各社の毎月の収益見通しと実績を把握しており、場合によっては、直ぐに直接社長と電話する考えです。今年は、中期計画の早期達成を目標とし、グループの一員としてベクトルを共有しつつ、収益力向上・財務体質強化を強く期待いたします。

私にとって、昨年4月の社長就任挨拶は、皆さんに対するコミットメントでもありました。
その中で、私は、「現場を大切にする会社」を目指したいと申し上げました。経営と現場との距離を縮めるため、昨年、全製鉄所、全支店、主要関連会社を訪問し26回の対話を繰り返しました。その際、皆さんの現場第一線での努力を目の当たりにし、本当に元気づけられました。今後もこのような対話を継続・拡大していく所存です。

また、「従業員が誇りを持って働ける会社」にしたいとも申し上げました。この目標に向けて、当社は少しでも前進したでしょうか。収益向上については、一定の成果をあげ、さらに上を目指せる展望も開けてきたことは、大きな前進であると思います。

しかし、誇りを持って働くためには、言うまでもなく新日鉄が社会から尊敬される企業であることが必要であり、新日鉄およびグループ各社の事業活動における、「安全・防災」、および「コンプライアンス」、「環境問題への対応」を徹底することを通じて、社会に対する責任を果たしていくことが絶対に必要です。しかしながら昨年は、とりわけ安全・防災面およびコンプライアンスについて、極めて残念な結果に終わった1年となりました。


安全・防災は、昨年10月末に要請したとおり、企業が存続するための絶対条件です。製造実力における最高の実力が、安全・防災に表れるといっても過言ではありません。昨年の重大災害の頻発、名古屋の事故発生は、当社の「ものづくりの実力」に対して強い危機感を抱かざるを得ず、「今一度立ち止まって、自らの実力を見直さなければならない」というシグナルであると受け止めています。

本日、EN本が13ヶ月完全無災害を達成したとの報告を受けました。
私は、安全・防災への取り組みを今年の最重要課題として取り上げ、社長として自ら先頭に立って取り組む決意です。
まず、昨年10月より取り組んでいる「全社リスクゼロ活動」による災害リスク要因の徹底した排除・ミニマム化を図ります。更に、対話の徹底と一人ひとりのリスク予知対応能力の向上により、災害をミニマイズしていきたいと考えています。
また、安全・防災の基盤である当社の「ものづくりの実力向上」についての再点検・強化を目的とした全社横断的なプロジェクトとして、平尾副社長をヘッドとした委員会をすでにスタートさせました。本年3月までに、技術・技能面、現場のマネージメント等、あらゆる観点からの具体的な提案を期待するとともに、それに基づいた対策を早期に実行する所存です。

一方、コンプライアンスについても、新日鉄グループ各社を含め、社員一人ひとりがその重要性を今一度肝に銘じ、徹底を図っていただきたい。

現場を重視し、収益を向上させて、安全で災害のない、信頼される職場を実現できれば、本当に働くことに誇りを持てる会社になるのです。もちろん、この実現に向け、私は全力で取り組む所存でありますが、皆さん一人ひとりのやる気と問題意識こそが一番大切です。製造実力の向上をはじめとした諸課題の解決に向け、各々が自分の問題として取り組むとともに、自らの専門性をはじめとした競争力を高め、目標に向かって自己研鑽してほしい。そして、ともに働くことに誇りを持てる、新しい「新日鉄」および「新日鉄グループ」を創り出そうではありませんか。

以上


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