建築鉄骨用大入熱対応 高HAZ靱性鋼の開発について

2001/03/10

平成13年3月6日
新日本製鐵株式會社

建築鉄骨用大入熱対応 高HAZ靱性鋼の開発について

新日本製鐵株式会社(社長:千速 晃)は、新技術「HTUFF」を用いた高強度・大断面の鉄骨溶接に好適な厚鋼板の開発に成功しました。
この厚鋼板は高層建築物の鉄骨加工で使用される引張強度490N/mm2 、520N/mm2 、590N/mm2鋼に適用され、溶接入熱1000kJ/cm程度の高能率・大入熱溶接の場合でも溶接熱影響部の靱性の劣化を抑え、安定した熱影響部性能を発揮します。この新鋼材が現在動き出している首都圏大型プロジェクトでご採用されることを期待しています。

<建築物大型化と、溶接熱影響部(HAZ)の問題>
近年、阪神大震災の教訓をもとに建築構造物の破壊性能研究が進んでおり、特に注目されているのが鉄骨構造物の溶接接合部性能です。
建築物の大型化(高層化・大スパン化)につれて鉄骨用鋼材は高強度・大断面化しており、部位によっては最大板厚100mmまでの厚板が使用されています。このような大断面の鉄骨加工には、高能率・大入熱溶接が採用される場合があります。耐震性能要求が最も高い柱-梁接合部の溶接入熱は40kJ/cmまでですが、板厚40mmを超す箱型断面溶接柱(ボックス柱)では400kJ/cm~500kJ/cmを超えるような大入熱溶接が用いられることがあり、溶接時に鋼の溶融温度(1400℃以上)直前まで温度上昇する溶融線近傍の熱影響部(HAZ:Heat Affected Zone/別紙参照)は、冷却に長時間を要する為に鋼材組織が粗大化し、耐震性能上特に重要な靱性の劣化を招きます。このため、鉄骨溶接接合部性能の靱性余裕が小さくなることがあります。

<新技術「HTUFF」の開発>
今回開発された新技術は、溶接熱影響部で安定した靱性を確保するものです。
当社は以前、Tiの酸化物や窒化物を利用したHAZ靱性改善技術(TiO鋼、TiN鋼)を開発しましたが、今回開発した「HAZ細粒高靱化技術」(HTUFF:Super High HAZ Toughness Technology with Fine Microstructure imparted by Fine Particles)は、これを画期的に改善したもので、より高温まで安定な酸化物・硫化物等の微細粒子を鋼中に多数分散させ、HAZの組織粗大化を強力に制御(抑制)します。さらに、鋼材化学成分の最適化により、局部脆化組織を低減することにも成功しており、組織粗大化制御との組み合わせで、より安定したHAZ靭性を実現します。

<参考>

  1. 大入熱溶接時の溶接熱影響部(HAZ:Heat Affected Zone)の課題
    溶接接合部は「鋼材+熱影響部+溶接金属」で構成されます。
    溶接金属は溶接材料と鋼材の一部が溶融凝固した部分です。熱影響部は鋼材の熱影響を受けた部分全体を言いますが、溶接金属と近接した熱影響部では溶融温度(1400℃以上)直前まで鋼材温度が上昇しています。
    溶接入熱が小さい場合には、鋼材への溶接熱の伝導により熱影響部は急速に冷却されます、溶接入熱が大きい場合には熱影響部が拡大されると同時に、冷却時間が長くなります。
    小入熱(20kJ/cm程度)では急速冷却により熱影響部が硬化組織となりますが、鋼材の炭素当量(Ceq)や溶接割れ感受性組成(PCM)を適正にすることにより、また、溶接時の予熱を実施することにより硬化組織の影響を小さくすることも可能です。
    一方、大入熱では緩冷却により熱影響部組織が粗大化します。大入熱になればなるほど、より緩冷却となり粗大化の程度も大きくなります。
    この組織粗大化を抑えることが大入熱溶接の熱影響部靭性改善の最大の課題です。

  2. 新鋼材使用の例
    ボックス柱のエレクトロスラグ溶接法が適用されるダイヤフラム溶接部の溶融線近傍熱影響部で、柱寸法等による影響はありますが、一つの目安として溶接入熱700kJ/cm程度であればシャルピー吸収エネルギーとして100J程度(0℃)以上、1000kJ/cmで70J程度(0℃)以上の高HAZ靱性確保が可能となり、安定した接合部性能となります。
      尚、従来鋼で70Jを確保しようとした場合には、溶接入熱400kJ/cm~500kJ/cm程度が限界と考えます。

    又、新鋼材使用によりボックス柱ダイヤフラム溶接用のエレクトロスラグ溶接のような大入熱溶接法が大断面の柱─梁接合にも適用することが可能となり溶接条件のバラツキ(パス間温度、溶接入熱等)を気にすることなく高能率溶接による安定した接合部性能が確保できます。

  3. 販売規格
    新鋼材規格は建築用鋼材の板厚方向特性を規定したSN及び大臣認定品のCグレード材の付加仕様として位置づけており、SN490C-HF、BT-HT325C-HF、BT-HT355C-HF、BT-HT440C-HF(SA440C)として販売予定です。

  4. 溶接材料
    新鋼材に適用可能な溶接材料も既に日鐵溶接工業(株)において開発が完了しており鋼材同様の靱性確保が可能です。



line
本件に関するお問い合わせ先
line
厚 板 営 業 部  池辺 TEL:03-3275-7815
line
建材開発技術部  志村 TEL:03-3275-6720
line




このページの上部へ

ここからフッター情報です