2016年 年頭にあたって (社員向けトップメッセージ:代表取締役社長 進藤 孝生)

2016/01/04

新日鐵住金株式会社

2016年 年頭にあたって
(社員向けトップメッセージ:代表取締役社長 進藤 孝生)


 年頭にあたりまして、本年の重点課題とその対応の方向性につきまして述べたいと思います。

 昨年、2015年の経済を振り返ると、まず、原油価格が大幅に下落・低迷し、また中国経済の減速が鮮明となりました。原油価格の下落は、エネルギー分野の活動停滞につながり、一次産品価格の下落も相まって資源輸出国経済の低迷を招くこととなりました。また中国経済の減速は、中国国内需要の減退はもとより、中国と経済的つながりの深いASEANをはじめとする新興国経済にも影を落とすこととなりました。
 こうした環境変化は、当初想定した以上に早く、また大きなインパクトをもって起きたのであります。世界鉄鋼業は近年稀にみる厳しい局面に突入し、これは当面続くと見なければなりません。高度経済成長を背景に拡大を続けてきた中国の鉄鋼需要が、一昨年2014年より減少に転じたことに伴って、世界全体の鉄鋼需要の伸びは鈍化し、「2015年、世界の鉄鋼業は成熟段階に移行した」とも言われるようになりました。特に、世界で7億㌧とも言われる過剰能力のおよそ半分を占める中国において、鉄鋼業の過剰能力と過剰生産、そして過剰輸出の問題が急速に顕在化しています。中国の鋼材が市場を海外に求めて大量に輸出された結果、例えば当社の主要向け先の一つであるASEANにおいて、熱延鋼板の市況は、昨年年初にトン当たり400ドルを超える水準であったものが1年で300ドルを切るレベルまで下落する等、市況悪化に拍車がかかっています。また輸入先各国は、相次いでアンチダンピング提訴やセーフガード措置を発動しており、世界中で保護貿易措置の動きが進んでいます。一方、供給面では、高級鋼分野における競合の拡大、中国やベトナムでの新高炉火入れ等による、更なる生産能力の拡大が進み、アジアにおける鉄鋼マーケットの先行きは大変不透明なものとなっています。

 翻って、当社については、経営統合後丸3年が経過しました。この間、統合効果は着実に発揮されていると認識しています。統合後すぐに策定した2015年までの目標を定めた中期経営計画は、2014年度にその目標の多くを達成し、時価総額も世界の鉄鋼メーカーでNo.1となりました。こうした進捗状況を踏まえ、統合後第二次となる「2017年中期経営計画」を1年前倒しで策定し、技術・コスト・グローバルを競争優位性の柱に、国内事業と海外事業を両輪として成長するという基本方針の下で、更なる高みに向けた歩みをスタートさせました。
 この間、海外の下工程事業会社の生産能力は、新たな事業の立ち上げにより、昨年までの2年間でおよそ2倍となる年間1900万㌧へと拡大しました。このことも背景に、昨年7月には「グローバル事業推進本部」を新設し、全社を挙げて海外事業会社の円滑な立ち上げや収益体質改善の支援、海外マネジメントのノウハウを組織として蓄積する体制を構築しました。また名古屋製鐵所において、一昨年の事故以降休止していた第1コークス炉は、徹底した再発防止策を講じて昨年10月に操業を再開し、社会からの信頼回復に向け更なる歩みを進めているところです。

 こうした地道な努力により、鉄鋼業を取り巻く環境が急激に悪化し世界鉄鋼メーカーの多くが赤字に陥る中、当社は、決して満足できる水準ではないものの、相対的に競合他社に対してまだ優位な収益状況を保っています。これはとりもなおさず、これまで取り組んできたこと、すなわち「総合力世界No.1の鉄鋼メーカーの地位を揺るぎないものとする」という中期経営計画で定めた方向性が正しいものであることを意味していると思います。将来的・長期的には世界の経済・産業の発展とともに鉄鋼需要は着実に増加し、当社が得意とするハイ・ミドルグレード鋼の需要拡大も見込まれています。この将来を見据えた上で、現下の極めて厳しい環境に堂々と対峙し、課題に果敢に挑みつつ、本年もしっかりと地歩を固めていきたいと思います。

 それでは、本年、具体的に何をなすべきかについて述べたいと思います。

 まず大前提として我々全員で共有したいのは、早期に、尚一層筋肉質で引き締まった体質の新日鉄住金グループにならなければならないということです。そのためには、これまでに計画してきたコスト改善策や君津第3高炉休止等の設備構造対策を着実に実行し、その効果を最大限に発揮させることに加えて、現下の環境を踏まえた一層のコスト削減等、更なる競争力強化・財務体質の改善に取り組まねばなりません。

 その上で、2017年中期経営計画で掲げた大きな方向性については、ぶれることなく、各取り組みを強化していきたいと思います。
 1つ目は、車の両輪である「国内事業と海外事業の推進・強化」についてです。
 まず国内事業は、統合シナジーを一層発揮させていくとともに、「設備」と「人」へ重点的に経営資源を投入することによりマザーミルとしての製造実力を強化します。
 生産安定化と設備健全化については、まだ改善の余地はあるものの、これまでの取り組みが着実に成果につながっているとの手ごたえも感じており、継続的に推進していきます。とりわけ設備投資や修繕費については、現下の事業環境悪化を踏まえ、重大リスク対象設備の保全や設備安定化等の観点から優先順位をより明確にし、効率的かつ効果的な投入を行っていきます。
 また採用や人材育成については引き続き長期的な視点で取り組み、技能の確実な伝承と製造実力の維持・向上を図るとともに、海外事業の拡大等に柔軟かつ迅速に対応していきます。
 一方、海外事業については、競合他社に先駆けて世界的供給ネットワークを構築してきたという当社の強みを早期にフル発揮させていきたいと思います。分野別・地域別のグローバル事業戦略を念頭に、当社グループの強みを最も活かせる全社の体制、事業会社のあり方を追求します。現在、多くの事業が立ち上げ期にある中で、環境悪化の向かい風にさらされています。その中で、事業強化に向けて日夜奔走している国内外の皆さんの努力、即ち、設備の立上げ、生産構造の最適化、工場の操業安定化、お客様や合弁パートナーとの交渉等の努力は、海外における当社の実力・プレゼンス向上に着実につながっています。収益面も含めて海外事業が早期に、名実ともに国内事業と並ぶ車の両輪となるよう、グローバル事業推進本部とともに、これまで実行してきた海外事務所の機能強化・充実化も活かし、引き続き、一つひとつの課題に丁寧に取り組んでいきます。
 2つ目は技術力の強化です。世界で一流の我が国のお客様と一緒になって鍛え上げてきた技術力をさらに強化していきます。お客様のニーズを丁寧に把握しきめ細かく対応するための商品開発やプロセス開発の積み重ねが、当社の競争優位性の根幹であり、引き続き製造・販売・技術・研究の連携の下、技術開発を進めます。一方、世界を見渡すと技術の進歩は目覚ましく、いつ従来型の発想の抜本的な転換を迫られることになるかわかりません。世界の最新技術動向や他素材の動向にもよく目を配りながら、「Internet of Things」即ち「IoT」や「ビッグデータ」などの高度ITの一層の活用も進めて、画期的な新商品開発や革新的なプロセス開発等の技術革新に向けて、優先順位を明確にしつつ、グループを挙げて技術開発を加速させます。
 3つ目は統合効果の発揮とグループ総合力の底上げということです。経営統合という我々のアドバンテージを最大限に活用し、新日鉄住金グループ全体の実力を更に底上げします。またグループ会社の統合も進んだことから、これからは各社がその統合効果を発揮する段階となりました。グループ一丸となって早期にこうした統合効果をフル発揮させたいと思います。
非鉄セグメント各社の皆さんには、引き続き、新日鉄住金グループとして製鉄事業とのシナジーを追求していただくとともに、それぞれの分野においてトップクラスの収益性を誇る事業の確立を目指して、現下の環境変化に対して的確に対応し、挑戦を続けることを期待しています。
 4つ目はコンプライアンスと安全・防災・標準化です。当社はすべてのステークホルダーから信頼される企業グループであり続けなければなりません。コンプライアンスはもちろん、安全・環境・防災等のリスクマネジメントについて、グループ全体で一層徹底していきます。
防災については、一昨年の名古屋の停電・火災等の事故の教訓を風化させずに将来にわたって活かしていきます。本年は特に、リスクアセスメントやモニタリング等の、ソフト対策を従来以上に充実させていきます。そして、全社を挙げて取り組んでいる「標準化」は、業務遂行の基礎固めを行う取り組みです。技術のトランスファーや現場力の維持・向上、また、安全・防災の観点で重要であることはもとより、将来の技術のブレイクスルーを起こしうるIoTやビッグデータの活用等のベースとなるものでもあります。長期的な視点から継続性を持って着実に推進します。

 これらの4つの取り組みすべてに通じることで大切なことは、会社としてのガバナンス、即ち「会社の規律ある統治・管理」です。ガバナンスのしっかりした会社であるためには、現場第一線の問題意識が上司に速やかに届き、ミドルアップ・ボトムアップの機能が有効かつ効率的に作用する、いわゆる「風通しのよい組織」でなければなりません。社員が誇りを持って働ける会社にしていくため、知恵を持ち寄り、そして統合会社である新日鉄住金にふさわしい新たな社風をつくっていきたいと思います。

 最後になりますが、本年2016年は歴史的に見ても鉄鋼業にとっては相当厳しい1年となることを覚悟しなければなりません。
 世界の中で競争優位性を有する日本鉄鋼業と当社にとって、足下の危機はチャンスでもあります。当社は、競合他社に対するアドバンテージを最大限に発揮して総合的な優位性を保ち、世界の鉄鋼業をリードしていく存在であり続けたいと思います。当社の技術力と人材をもってすれば、それは十分に可能であると私は確信しています。「総合力世界No.1の鉄鋼メーカーの地位」、これを揺るぎないものにするため、現場第一線の皆さんから役員に至るまでがそれぞれの立場において、視野を広げ、世の中の変化を洞察する力を養うとともに、挑戦する心と課題解決をリードする気概を持って、日々の業務に取り組んでいただきたい。そして、ひるむことなく、また恐れることなく、自信を持ってこの難局に立ち向かい、それを乗り越えていきたいと思います。

以 上





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