2015年度入社式 社長メッセージ (代表取締役社長 進藤 孝生)
2015/04/01
新日鐵住金株式会社
2015年度入社式 社長メッセージ
(代表取締役社長 進藤 孝生)
皆さん、ご安全に!
これは当社において全社で共通する挨拶であります。今後、様々な場面で使うことになると思います。是非大きな声で挨拶してください。
さて、改めまして、新入社員の皆さん、入社おめでとうございます。会社を代表して皆さんを心から歓迎します。
皆さんは長い教育期間を終え、本日より、我々と共に実社会における様々な課題に対峙していくことになります。そして世の中の動きを「“鉄鋼”という窓」を通して見ていくことになるわけであります。これから皆さんと一緒に仕事ができることを本当に嬉しく思います。
新日鐵住金は、前身である新日本製鐵と住友金属工業の時代も含めて顧みると、戦後の高度成長期における「設備能力の拡張」、日本経済の成熟期における「厳しい合理化」を経て、現在のグローバル化の時代に至るまで、我が国鉄鋼業の発展の歴史を担うとともに、日本経済の成長の礎となってきた会社であります。
我々は、先輩方が築き上げてきた歴史や企業文化を受け継ぎ、それらに新たな価値を加えて後世に引き継いでいかねばなりません。皆さんはこのような歴史的流れの中で仕事をするということをまずもって認識し、そして是非誇りに思って頂きたいと思います。
さて、皆さんが当社に入社し社会人の第一歩を踏み出す本年、2015年は、日本としては戦後70年という1つの節目となる年であります。戦後70年の歴史の所産として、経済は著しくグローバル化が進展し、中国の台頭や中東諸国の政情不安等、政治的にも経済的にも世界的なリスクが増大する真っただ中にあります。
世界経済を見渡すと、米国をはじめとした先進国を牽引役に全体としては緩やかな成長が継続しています。また日本経済も、東京オリンピック、パラリンピックを2020年に控え、いわゆるアベノミクスを背景に、足下は正念場ではあるものの、比較的堅調に推移しております。
こうした中、鉄鋼業界については、近年は新興国の需要拡大を背景に、世界の需要は着実に拡大してきました。しかしながら、現在では世界的に生産能力が需要を大幅に上回る供給過剰構造となっており、その需給ギャップの規模はアジアにおいては約3億トンにも上ると言われております。とりわけ大きな過剰能力を抱えていると言われる中国の鉄鋼業はいよいよ成熟期に入り、直近では再編の兆しも出始めてはいるものの、依然として過剰能力の解消には至っておらず、その中国や韓国から、自国市場で行き場を失った鋼材がアジアのマーケットに大量に流入している状況にあります。このように当社がグローバルに相対するマーケット環境は厳しさを増しています。
こうした環境下で、皆さんは当社で社会人の第一歩を踏み出すわけであります。
さて、当社は2年半前に経営統合により誕生したわけですが、統合は大変順調に進んでいます。統合後に策定した中期経営計画において定めた目標は、目標年度であった2015年度終了を待たず、既に概ね達成する見込みです。こうしたことも踏まえ、先般、2015年度~2017年度を実行期間とする中期経営計画を策定して新たな目標を掲げ、まさに本日よりその完遂に向け邁進していくことになります。その計画の下、当社は「技術」「コスト」「グローバル」をキーワードに、総合力で世界No.1の鉄鋼メーカーとなることを目標としています。具体的には2つのことを目指しています。
1つ目は「設備と人に着目して、国内の製鉄所の製造実力を再構築すること」、2つ目は「それをベースに、グローバルな事業推進を深化させること」であります。
まず、「国内製鉄所の製造実力の再構築」です。当社がグローバルに事業を展開する上でベースとなる高い技術力を育むのは「マザーミル」たる国内の製鉄所・製鋼所等の各製造拠点であります。国内の製造拠点には長い鉄づくりの歴史の中で培われ、又、日本製造業の一流のお客様に鍛えられた、世界一の「製造技術」や高機能商品の開発等の「製品技術」があります。そしてこれらの技術を基に具体的な製品に造りこむ「製造実力」・「現場力」があります。これが我が国鉄鋼業の競争優位性の源であります。昨年の名古屋製鉄所における一連の事故は、これらが十分に確保されているか否かを今一度謙虚に反省せよとの警鐘でありました。国内の製造拠点がマザーミルとして絶えず競争力を磨いていくためにも、そのキーとなる「設備」と「人」に着目して重点的に経営リソースを投入し、その製造実力を再構築していこうというのが狙いの1つであります。
2つ目は、「グローバルな事業推進の深化」です。世界的に鉄鋼需要が伸びる中、当社は他社に先駆けて、中国・韓国勢とは一線を画す高級鋼を中心に、グローバル展開を進めてきました。今では既に約200社にものぼる海外子会社・関連会社を世界中に設立して事業を推進しています。これらの海外事業をしっかりと立上げ、伸びゆく海外の需要を確実に捕捉し、収益性を高めていくことが、当社が一層成長していく上で不可欠なのであります。我々の仕事のフィールドはグローバルに広がっており、その中で皆さんも仕事をしていくとの認識を持って頂きたいと思います。
そして将来的には、世界中どこにいても、「新日鐵住金」の名前が聞かれるような圧倒的なプレゼンスをもった会社を築いていきたい、そのように考えています。
以上、「国内製鉄所の製造実力の再構築」と「グローバルな事業推進の深化」の2点を車の両輪のごとく着実に押し進めていくことが、当社、ひいては日本の鉄鋼業を更に発展させていく事につながります。これが皆さんたちの歴史的な役割・使命でもあります。今後、皆さんそれぞれの持ち場は違っても、この2つのいずれかには関わっていることを常に念頭において、業務に取り組んで頂きたいと思います。
さて、私の経験に基づく、皆さんへのお願いを3点申し上げます。
1点目は、「なぜこの会社を選んだのか」を各自、今一度再確認して頂きたいということです。経営学の教科書は「企業経営とは事業環境変化への対応である」と教えています。正にその通りであります。10年、20年の単位で事業環境は必ず変わります。事業環境が変われば企業の経営戦略も変えていかなければなりません。これからの長い会社生活において、皆さんにもそういう判断をすべき時が必ず来ます。経営とはそういうものだからです。その時に問われるのが「わが社は何のために存在するのか?」という根源的な問いであります。その際、思考の軸として甦ってくるのが、「なぜ自分はこの会社を選んだのか」という、今、この時点の皆さん一人ひとりの決意であります。この決意を各自再確認して、是非心に刻んで頂きたいと思います。これが1点目です。
2点目は、「仕事を通じてスキル・業務知識の習得をして頂きたい」ということです。仕事をしていく上では、まず業務が発生する現場に足を運び素直に事実を見ることが必要です。「現場は宝の山」と言われる所以です。まず、現場の事象に精通した上で、諸先輩に教えを請うたり、会社の教育プログラムを受けたり、又、自分で考えたり、文献を読んだりして、業務知識・専門知識を身に付けてほしいと思います。中でも皆さん共通に身に付けて頂きたいのが「語学力」と、「プレゼンテーション能力」すなわち、分かり易い論理を組み立てて(論理構成力)、相手に伝える能力です。両方ともまずは「相手が聞きたいと思う、意味のある伝えるべき内容」を用意できることが前提ですが、コミュニケーションツールとしての「言語能力」と、「プレゼンテーション能力」は大切です。これが2点目です。
3点目は、「会社生活を通じて人間的成長を遂げて頂きたい」ということです。私がこの会社を選んだのは、「鉄という産業の基礎素材を安価に供給して日本経済の役に立ちたい。」ということでありました。しかし、本当の理由は企業文化に属するものであったと思います。議論を尊び、正論なら上司・部下の隔てなく自由に議論のできる「議論に上下なし」という気風、個別企業益もさることながら常に日本経済全体を考える伝統、そしてそれらを体現する先輩たちの人物の大きさでありました。
この新日鐵住金という人間集団は、皆さんがこの中で人生を送り、人間的に成長する場として決して不足のある場ではありません。どうかわが社の多様な人材に接し、又、「鉄鋼」という窓から世の中を洞察する目を養って頂き、一回りも二回りも大きな人間に成長して頂きたいと思います。
最後に、私がこの会社の経営にあたって大事にしている言葉を2つご紹介して結びとします。
1つ目は、私が若い時にしていたラグビーに関わる言葉ですが、「Honor is Equal」という言葉です。直訳すると「名誉は等しい」ですが、試合でトライをした人のみならず、パスをつないだ人、スクラムを支えた人、タックルで相手の攻撃を防いだ人等、各々の役割は違っても、チームの勝利への貢献は等しい、与えられる名誉は等しいという「チームワークの真髄」を表した言葉です。このあと、皆さんはそれぞれの職場に配属になり、その後も様々な仕事を経験していくことでしょう。その役割と責任は違っても、皆さん一人ひとりの仕事が、会社の成長、ひいては経済・社会の発展につながる重要な仕事であります。それを忘れずに、仲間と協力しながら、自らの役割を全うしていただきたいと思います。
2つ目は、「練習ハ不可能ヲ可能ニス」という言葉です。これは慶応義塾大学の塾長を務めた小泉信三先生の言葉です。練習を繰り返すことによって、肉体的能力・精神的能力の両面において、出来なかったこと、又、一見不可能と思われたことが、可能になるということです。「日々の努力」の大切さを言っています。練習や日々の努力を繰り返すことにより、スキル・技能が向上し、また技術が開発され、それまで不可能であったことが可能になるとすれば、「技術は不可能を可能にする」と言い換えた方が、尚一層、我々にとって意味のある言葉となるかもしれません。いずれにせよ、つらくても、練習すなわち「日々の努力」を続けることによって、はじめて成果を手にすることができるのであります。皆さんが、日々の仕事に真摯に取り組み、大きく成長することを期待しています。
以上の2つの言葉は、私が全社員に度々話してきた言葉であります。我々ものづくりの会社にとって、「チームワーク」と「日々の努力・鍛錬」こそが大切であると考えるからであります。
これからの長い会社生活、曇る日も照る日もあります。又、穏やかな凪の日もあれば、激しい嵐の日もあろうかと思います。心身の健康を第一に、上司・先輩の話をよく聞き、同僚と語らいながら、「焦らず、慌てず、しかし、侮らず」、まずは着実に仕事の基礎を身につけて頂き、そして、将来大きな仕事をしていただくこと、これを心から期待して皆さんへの私からのエールと致します。
以 上