技術開発
素材としての可能性を極限まで引き出すこと、
すなわち「鉄を極める」という目標に向け、私たちは挑戦し続けています
シリンダーヘッドガスケットはエンジンのシリンダーヘッドとシリンダーブロックとの間で使用される重要なシール部品です。基本的には薄板素材にビードと呼ばれる凸部が成形され、ビードのばね性が、燃焼を繰り返すエンジンの振動や熱変形による隙間の発生を防止し、高温の燃焼ガス、冷却水、潤滑油を分離密閉し続けています。このため、素材には優れたばね性と耐食性などが必要であり、一般に高強度ステンレス鋼が使用されています。また、表面には薄いゴムがコーティングされ、シール性を向上させています。
近年、環境負荷低減の観点から、燃費の向上、CO2ガスや環境汚染物質の排出量削減を目指してエンジンの軽量化と燃焼圧の向上が進んでいます。しかし、これらの対策は何れも燃焼時に生じるエンジンの隙間を増大させることから、シリンダーヘッドガスケットには従来以上のばね特性と優れた疲労特性(繰り返しの負荷に対する耐久性)が要求されています。
このようなお客さまのニーズや環境問題に応えるために、シリンダーヘッドガスケット向けのステンレス鋼「NAR®-301L HS1」を開発しました。このステンレス鋼は、結晶粒径を従来鋼の20μmから2μm以下に超微細化することで高いばね特性と疲労強度を持ちながら、従来並の良好な加工性を確保しています。特に、疲労特性は、従来のステンレスばね鋼の1.4倍という飛躍的進歩を遂げました。
「NAR®-301L HS1」は、2008年に日本金属学会から技術開発賞、2010年に文部科学大臣表彰にて科学技術賞を授与されました。現在、多数の自動車メーカーにて採用され、環境負荷低減と信頼性向上に貢献しています。