交通産機品[Railway, Automotive, Machinery Parts]
タフブライト®

開発ストーリー

日本製鉄「タフブライト」の最高峰の輝きをバス、トラックに

40年の歴史を誇るアルミ製ホイールの国産トップブランド

日本最大手の鉄鋼メーカー、日本製鉄は 4 月、「新日鉄住金」から現社名に変更した。 トラック・バス用に製造・販売する純国産のアルミ製ホイール「タフブライト®」も日本製鉄のブランド製品として歴史をつなぐ。そのユーザ一の生の声を聞く連載。今回は特別版として、最高峰の品質を実現するために尽カした歴代の開発担当OBに苦労話や、製品にかける思いを聞いた。

植木直重さん

北原隆廣さん

同社が大型 トラック・バス用アルミホイールの販売を開始したのは1980年。開発に着手したのは、その 2 年前だ。「クランクシャフトでつながりのある大手自動車メーカーから、将来の軽量化に向けてアルミでホイールを作れないかと声をかけられたのがきっかけだった」と、植木直重さんは振り返る。日本製鉄(旧住友金属工業)の技術開発室では、オイルショックを機に新たな事業の柱となる製品の開発が待たれていた頃。すでに米国で出回っていたアルミ製ホイールを手に入れ、研究と試作品づくりを重ねたという。

鉄鋼メーカーで、しかも鉄道車輪を主要品目とする同所にとって、アルミはまったく未知の世界。アルミの材料選びの段階から手探りだったため、アルミ大手のグループ会社にアドバイスを求めるなどグループの技術と知見をフル活用した。「現場レベルでも事業の垣根を越えて取り組めた自由な社風。当時は工場に泊まり込んで徹夜で開発に没頭していた。しかし、鉄鋼メーカーの設備を使い、鉄とは融点の異なるアルミを鍛造しようとしたので失敗の連続。楽しい思い出もあるが、苦労は多かった」と北原隆廣さんは話す。試行錯誤の末、 1 年後に プロトタイプが完成。同じ頃、車両の軽量化に難航していた新交通システムのゴムタイヤホイールに採用されることが決まり、実用化がスタートした。

一方、 トラック・バス用ホイールの量産化にはさらに 1 年を要することになる。同所では、新幹線車輪に匹敵する厳しい品質基準を設けており、その基準をクリアするために高強度のアルミホイール用独自合金を開発。加えて特殊加工による表面改質とタイヤ変形を予期した形状の工夫により、強靭かつ国内最軽量のホイールを完成させた。

輝度を開発当時より30%アップしたアルミ製ホイールを「タフブライト」の商品名で販売したのが2005年。タフブライト誕生以前は、バフとよぶ研磨用の布で磨くことによって輝きを確保しようとしていたが、それまでは輝度において競合企業に後れをとっていた。そこで、グループ会社が製造するダイヤモンドチップを加工に採用。さらに鍛造技術で金属組織の緻密化を図るなどの工夫を重ね、国内最高水準の輝度を実現した。「世界最大のアルミメーカーに量では負けても質で勝った。高輝度アルミ製ホイールの誕生で愛好家が一気に増えました」(植木さん)。こうして製品改良を繰り返した結果、強度と軽さ、輝度において世界 トップクラスのアルミ製ホイールが完成。運送効率や燃費の向上、また国内最高水準の輝度により企業イメー ジの向上にも大きな効果を発揮している。

その後、2012年に「新日鉄住金」が発足、さらに2019年 4 月に日本製鉄となり、技術は引き継がれている。

日本の鉄鋼メーカーの威信をかけて誕生にこぎつけた「タフブライト」。その開発の裏には、夢を抱いた熱い技術者たちの成功と失敗の物語があった。

【タフブライトの工場概要】

<所在地> 大阪市此花区島屋5-1-109
<全体の敷地面積> 482, 634平方メートル
<工場の概要> 1901年、日本初の民間鋳鋼工揚として開所。15年に鍛造品製造に進出、20年には鉄道車両部品の製造を開始した。現在は「タフブライト」の他、鉄道用車輪・車軸と自動車用クランクシャフトの製造拠点となっている。