6.電気抵抗溶接鋼管の溝状腐食

電気抵抗溶接鋼管は、経済面のみならず、その製造技術および品質面で著しい発展と信頼性に裏づけされ、近年広範囲にわたって使用されています。しかしながら、電気抵抗溶接鋼管が配管用鋼管(SGP-E-G)として使用された場合、使用条件や環境、輸送流体の種類、性質等によっては、電気抵抗溶接部が母材部に対して選択的に腐食されます。いわゆる溝状腐食という特異な腐食現象がみられることがあります。
電気抵抗溶接鋼管の溝状腐食発生機構と要因、発生事例解析について以下に述べます。

A. 溝状腐食の形態

電気抵抗溶接鋼管の溝状腐食は、電気抵抗溶接部に局部的に発生するV字形の腐食です。

溝食部の断面

溝食の形態

B. 溝状腐食の発生状況

配管用鋼管として電気抵抗溶接鋼管が使用される場合、流体の種類、水質、水温流速などの条件によっては、まれに溝状腐食を生じることがあります。しかしその使用条件が多岐にわたっているため、各種環境要因を考慮して溝状腐食発生を予測することは容易ではありませんが、事例の解析結果による溝状腐食の発生状況は次のとおりです。

a.貫通漏水に至るまでの使用年数

集計結果を次図に示します。
使用開始後4年までに事例の約80%が貫通漏水に至っており、その中には6カ月で発生した事例がみられます。

溝食を発生した電縫鋼管の使用年数の分布

b.水質および配管系統別の影響

解析結果を次表に示します。
溝状腐食は、水質にかかわりなく発生していますが、海水や工業用水での事例が多くみられます。特に海水では、溝状腐食速度が14mm/yearにも達する場合が認められます。全事例での平均溝状腐食速度は約3.8mm/yearで、母材部の腐食速度に比べ、溝状腐食進行速度は約5~9倍です。

水質別による溝状腐食事例の解析結果
流体 割合
(%)
溝状腐食速度 平均溝状腐食速度
(a)(mm/year)
平均腐食速度
(b)(mm/year)
係数
(a)/(b)
上水 12.5 0.7~2.3 1.5 0.24 6.25
地下水 18.8 1.1~2.0 1.3 0.22 5.91
工業用水 27.1 0.4~5.0 2.7 0.30 9.00
ブライン 10.4 0.9~6.2 3.4 0.64 5.31
海水 22.9 1.3~14.0 5.0 0.78 6.41
その他 8.3 メタノール 1.9
NaSO410.0
工場廃液 5.8

溝状腐食速度の平均:3.8mm/year(全事例の平均)

(a)公称肉厚/使用年数 (b)母材の減肉量/使用年数

流体の「地下水」には空調用含む

水質別による溝状腐食事例の解析結果
水質 冷却水 送水 排水
発生割合
(%)
溝状腐食速度
(mm/year)
発生割合
(%)
溝状腐食速度
(mm/year)
発生割合
(%)
溝状腐食速度
(mm/year)
上水 2.7 2.1 10.8 1.1 0
地下水 18.9 1.5 5.4 1.2 0
工業用水 16.2 3.0 13.5 2.2 2.7 2.3
海水 24.3 6.7 2.7 1.4 5.4 2.6
合計 62.2 29.7 8.1

水質の「地下水」には空調用含む

C.溝状腐食の発生機構

a.溝状腐食の起点

電気抵抗溶接鋼管は、熱延コイルがロールスタンドで連続的に丸く成形され、その突き合わせ部分を高周波抵抗または誘導電流によるジュール熱によって加熱成形され、溶接して製造されます。
製管時、電気抵抗溶接部は短時間のうちに急熱急冷の熱履歴を受けるため、ベーナイト含有組織となり、母材部のフェライトパーライト組織とは異なります。この組織差による電位差の存在が溝状腐食のひきがねになります。

溶接部周辺における組織差
帯鋼の層状組織(メタルフロー)に沿うMnS系非金属介在物もまた、この急熱急冷の熱履歴を受け、溝状腐食の起点となります。
一般に、MnS等の介在物は、腐食の起点となりやすいと言われています。MnSは、鋼の腐食電位(-350~-450mV:対水素標準電極)よりも貴電位で比較的安定であるため、MnSの周辺部がアノードとなって溶解すると考えられます。
また圧接により、電気抵抗溶接部のMnS系非金属介在物がメタルフローに沿って管内外面に出てきますが、製管後ただちにビード切削されるため直接表面に露出されます。
このような熱履歴を受け、露出されたMnSの周辺部は、さらに溶解性に富み、陽極になりやすく局部腐食性が高くなります。この周辺部が溝状腐食の起点となるといわれています。

b.溝状腐食の成長

一旦発生した起点は、以下のプロセスで溝状腐食に成長すると考えられます。

溝食の発生・成長過程

MnSの周辺部に対する選択腐食が、局部電池作用により進行し集積して、拡がりと深さを持った形態に成長します。すなわち、電気抵抗溶接部が母材部よりも20~60mV程度電位的に卑であるため、この陽極での腐食が進行します。さらにMnSは不安定となって溶解し、鋼の腐食を加速するH2S,SH-等を生成します。

Fe → Fe2++2e
Fe2++H2 → Fe(OH)++H+
MnS → Mn2++S2-
S2-+H2O → SH-+OH-
SH-+H2O → H2S+OH-

MnSの溶解の結果、生成するOH-よりもFe2+の水和によって生成するH+の方が多いので、陽極部近傍のpHの低下は続き、腐食はさらに加速されます。
電気抵抗溶接部と母材部との組織差による電位差による腐食に加え、酸素濃淡による局部電池(電気抵抗溶接部:陽極,母材部:陰極)が形成され、腐食はますます進展し、V字形状の溝状腐食となり、最終段階で貫通漏洩に至ります。

c.鋼管の使用環境の影響について

溝状腐食は、使用環境、使用流体の水質等により大きく影響を受けます。
しかしながら、鋼管の実使用環境と要因を正確に把握することは困難で、溝状腐食と環境要因との関連を明確にできない場合が多くあります。
一般には、溝状腐食に影響を与える環境要因としては、塩素イオン濃度,溶存酸素量,流速、温度等があげられます。溶存酸素量、流速、温度の影響について、次図に示します。

おすすめコーナー
電気抵抗溶接鋼管の溝状腐食対策には、日本製鉄のSW鋼管(SGP、SGPW、STPG)、SUPER SEAM(SGP,SGPW,STPG)およびライニング鋼管(FLP、VLP)をおすすめします。

おことわり

本資料は、一般的な情報の提供を目的とするもので、設計用のマニュアルではありません。本資料の情報は、必ずしも保証を意味するものではありませんので、本資料に掲載されている情報の誤った使用、または不適切な使用法等によって生じた損害につきましては、責任を負いかねます。また、内容は予告無しに変更されることがあります。

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