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ユーザーボイス

富士フイルム株式会社
イメージングソリューション事業部 統括マネジャー上野 隆

「カメラが持つべき品格と美しさ」

富士フイルム株式会社
イメージングソリューション事業部 統括マネジャー 上野 隆 氏 (Takashi Ueno)

X-Pro3ができるまで


Camera×TranTixxii(写真提供:富士フイルム(株))



2019年に発売された高級デジタルカメラ「FUJIFILMX-Pro3」は、発売以降、クラシックなデザインと高い描写性能で多くのカメラファンを魅了しています。ボディ外装に日本製鉄のデザイニングチタンTranTixxiiを採用することで、高級感あふれるカメラの佇まいを実現しています。X-Pro3をはじめとしたXシリーズの開発に込められた思いについて、富士フイルム(株)に取材しました。

「失われることのないエイジレスな輝き」

運命の瞬間との出会いを求めて、写真家や写真愛好家たちは、カメラをバッグにしまわず、いつでも撮影できる状態で持ち歩きます。だからこそカメラには、小型軽量でタフであること、天候や気温の急激な変化でもカメラに対する配慮を最小限に抑え、撮影に集中できることが求められます。そこでX-Pro3には、デバイスを守るフレームに加工性に富むマグネシウム、手に触れるトップカバーとベースプレートには耐食性に優れたチタンがXシリーズで初採用されました。TranTixxii採用の経緯について、Xシリーズの商品企画を担当してきた上野隆統括マネジャーは次のように語ります。

「まるでヴィンテージ製品のような、手に触れたときの懐かしい冷たさと、それなのに心が温かくなる感覚。失われることのないエイジレスな輝きはチタン外装特有のものです。手と目から所有する喜びを満たし、ただの道具ではないと語りかけてくるような、カメラが備えるべき品格と美しさを追求しました。一般的にデジタルカメラは電子機器である以上、ライフサイクルが短いため、なかなか外装にまでコストをかけにくいプロダクトなのですが、X-Pro3なら10年後、20年後も十分良い写真が撮れる高い性能を誇っています。だから、長く使ってほしい。そんなメッセージの 1つが、外装に耐食性に優れたチタンを使って堅牢(けんろう)にするところに表れています」

TranTixxiiが使用されている部位

チタンが使用されているのは、ボディ外装のトップカバーとベースプレートで、ダイヤル部やフロントファインダー窓部など、高度な絞りや張り出し加工技術が要求される箇所です。加工メーカーとの密接な連携により、高強度を保ちつつディテールにこだわった複雑なデザインを可能にしました。

トップカバー部品の製造工程

プレス金型でチタン板を加工(1)したあと、表面をロボット(2)や手作業(3)で磨きます。ブラスト処理(4)で表面の粗さを均一化したうえで、特殊コーティングなど加飾処理を施し、最後に部品のゆがみを補正して、ロゴをレーザーで印字(5)すると完成。擦り傷への高い耐性と高品位な外観をつくり込んでいます。

「プロに認められる色再現性とレンズの技」

写真を撮る人口は増えています。しかし、写真の大部分がスマートフォンで撮られています。スマートフォンに比べて、カメラは大きくて重く、高価であることから持ち歩く人が少なくなったといわれています。
かつて富士フイルムも、レンズ付きフイルムの「写ルンです」や、撮ったその場でプリントが楽しめるインスタントカメラ「チェキ」など、気軽に誰もが写真を楽しめる大ヒット商品を送り出してきました。しかし、2011年にハイエンドデジタルカメラシリーズの初代モデルX100を開発・発売する一方、13年には普及価格帯のコンパクトデジタルカメラからの撤退を決意した歴史があります。

「スマートフォンの出現で普及価格帯を中心にコンパクトデジタルカメラの売上は急激に減少しました。私たちはカメラ事業の生き残りを図るため、〝スリム&ストロング〞の経営戦略の下、プロと熱心な写真愛好家を対象としたハイエンドな高級デジタルカメラ分野への参入を決断したのです。X100は光学ズームもないし、レンズ交換もできないカメラでしたが、プロの写真家が使用する高性能なデジタル一眼レフと比べても、色再現をはじめとする画質においては、フィルムカメラ時代から80年以上画(え)づくりをしてきた富士フイルムのほうが優れている、と高く評価されました。続いて満を持してレンズ交換式で趣味性の高い X-Pro1を開発・発売したときは、同じく画質は高評価だったものの、レンズ3本とボディだけ出されても、将来どうなるかわからない機種には投資できないという声も多く、X100ほどの人気は得られませんでした。

すでに高級カメラは先行する有名メーカーが多彩な機種を展開していましたから、この市場で戦うためには、独自のポジションを築く必要を痛感しました」(上野統括マネジャー) それから2年後、「小型軽量で徹底的に画質が良いカメラを、愛好家たちに受け入れられる価格でつくる」という理想を掲げて、 14年にX-T1を発売し、それがヒット商品となり、同社デジタルカメラ事業の業績をV字回復させることになりました。
「カメラ本体だけがヒットの理由ではありませんでした。純正交換レンズのラインアップが10本になり、超望遠などのプロ用の特殊なレンズ以外は一通りのレンズがそろったことも大きな要因となりました。

カメラ業界には『マウントに投資する(※)』という言葉があります。純正レンズのラインアップをそろえることで富士フイルムが本気でハイエンドデジタルカメラに取り組んでいる姿勢がユーザーに理解されたのだと感じました」(上野統括マネジャー)Xマウントレンズ群は、プロ向けフィルムカメラ用レンズやテレビレンズ、シネマレンズで多くのプロから支持されてきた「フジノン」の光学技術が駆使されています。フジノンは人工衛星にも搭載されるなど、優れた性能が高く評価されています。そして、Xシリーズはカメラと画像処理を一体開発することで、圧倒的な描写力を実現してきました。

※ マウント投資:レンズ交換式カメラは、それぞれ専用のマウントを介して交換レンズをボディに装着するため、いったんボディを決めたら、他社のレンズを使えなくなることから、同一マウントの純正レンズを使い続けるようになること。

「こだわり抜いてつくり上げた最上位モデル」

モデルチェンジごとに進化を遂げてきたXシリーズは、一貫してカメラを持つ喜びや操る楽しみを第一に考えてつくられてきました。だからこそ、最新の最上位モデルであるX-Pro3は、軽量・高強度でさびないチタンにたどり着いたのでした。
「エンジニアリングプラスチックはつくる側から言えば造形しやすく、軽くて耐久性もあり優れた素材ですが、使っているうちに妙なテカリが出てきたり、趣味性に欠けます。マグネシウムは金属ではありますが、外装材としては、カメラファンにはなぜか人気がありません。

真鍮(しんちゅう)は今となっては重く、またプレスなどの加工 ができる工場が国内には少ないことから 採用しませんでした。そして何より私には、最上位モデルにはチタンを使いたいという思いが以前からありました。シンプルな機械加工だけでは細かな部分の処理ができないため、研磨など一部の加工は1つ1つ手作業で行っています。そのため仕上げは製品ごとにわずかな違いが生じま すが、その手づくりによる違いも楽しんでいただきたいですね。

3色のうち 2色には特殊なコーティングや硬化処理を施し、通常のチタンと比べて表面の硬度が10倍も高くなり、ふだんの使用では傷つきを心配しないで済むようになりました。とにかく、とことんこだわり抜いてつくり上げました」(上野統括マネジャー)
写真好きな人に長く愛用してもらえるカメラとして、ライカといえば真鍮、ハッセルブラッドといえばスウェーデン鋼と並び、 FUJIFILM X-Pro3といえばチタンとイメージされる時代が訪れるのはそう遠くないのかもしれません。 TranTixxiiの時を超えて失われることのないエイジレスな美しい輝きが、このカメラと一緒でなければ撮れない写真の魅力を広げていきます。

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