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ユーザーボイス

建築家田根 剛

チタンは時間を受けとめる
「21世紀の素材」

田根 剛(たね・つよし) ©YoshiakiTsutsui
建築家。1979年東京生まれ。AtelierTsuyoshiTaneArchitectsを設立、フランス・パリを拠点に活動。場所の記憶から建築をつくる「ArchaeologyoftheFuture」をコンセプトに、現在ヨーロッパと日本を中心に世界各地で多数のプロジェクトが進行中。


主な作品に
「エストニア国立博物館」(2016)、
「新国立競技場・古墳スタジアム(案)」(2012)、
「TodorokiHousein Valley」(2018)、
「弘前れんが倉庫美術館」(2020)など多数。

フランス文化庁新進建築家賞、ミース・ファン・デル・ローエ欧州賞2017ノミネート、
第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞、
2021年度フランス国外建築賞グランプリなどを多数受賞。
著書に『田根剛アーキオロジーからアーキテクチャーへ』『TSUYOSHI TANE Archaeology of the Future』 (いずれもTOTO出版)など。

弘前れんが倉庫美術館




屋根材にシードル・ゴールドに輝く日本製鉄の TranTixxiiが採用された。

フランス・パリを拠点に活動する建築家の田根剛氏が建築設計を手がけた、青森県の「弘前れんが倉庫美術館」が2020年7月にオープン、2021年度フランス国外建築賞グランプリ(Grand Prix AFEX)を受賞しました。弘前れんが倉庫美術館は、明治・大正期に建てられた近代産業遺産の倉庫を、新たな芸術文化創造の拠点として改修した弘前市初の公立美術館で、屋根材にはシードル・ゴールドに輝く日本製鉄のTranTixxiiチタン薄板が採用されました。今回、弘前れんが倉庫美術館への思いとチタンの可能性について語っていただきました。

「グッゲンハイムで見たいぶし銀の輝き」

チタンを使った建築といえば、フランク・ゲーリーが設計したビルバオ・グッゲンハイム美術館が有名です。あのいぶし銀のようなチタンの輝きは、他の素材では表せない独特の質感を持っています。他の金属素材は設置されたときが最も美しく、時間とともに劣化していきがちですが、チタンは時間の変化を素材が受け入れることで建築の魅力を高めてくれる。

2014年に再び、ビルバオ・グッ ゲンハイム美術館を見たときにそのことが強く印象に残りました。それ以来、いつか自分もチタンを使ってみたいと思っていて、実現したのが20年にオープンした弘前れんが倉庫美術館です。弘前れんが倉庫美術館は、もともと 100年前の明治・大正期に建てられた煉瓦倉庫です。それを美術館に、しかも地方都市で現代美術を展示しながら、市民に長く愛されるものにするという命題を抱えたプロジェクトでした。

弘前に煉瓦の建物さえまだない時代、1つ1つ自分たちで煉瓦を焼いてつくった倉庫は、日本で初めて大々的にシードル(りんご醸造酒)を製造した場所でもあります。設計には、そうした場所の記憶を継承し、さらに未来に向けたメッセージも込めたい。そう考えて、老朽化した屋根を TranTixxiiのシードル・ゴールドチタンで葺き替えることを提案しました。TranTixxiiチタンは光の干渉による色の変化が発生し、多様な色彩が表現できます。

屋根材に使ったシードル・ゴールドチタンは、太陽が昇ってから沈んでゆく間に、深い緑から淡い黄色までさまざまな色が発現します。それは、青々としたりんごがだんだん熟し、最後は夕陽が当たって黄金(こがね)色のシードルが完成するまでの時の移ろいであり、その美しい変化は1日中見ていても飽きません。オープン前に、近隣の病院の患者さんから、病室から見える美術館の屋根を眺めるのが楽しいと美術館に連絡があったそうです。

屋根の施工にも工夫を凝らし、菱葺(ひしぶき)という手間のかかる葺き方も取り入れました。降雪地域であることを念頭に、すぐ雪が落ちる屋根形状ではなく雪だまりもきれいに見えるデザインで、これは弘前の街中で見た伝統工法でもあります。大きな屋根面を細かく分割することで、微妙な傾きや積雪による歪みがさまざまな色彩を表現できるシードル・ゴールドチタンは、年を重ねるごとにさらに豊かな表情を生み出すことでしょう。



弘前積みレンガ工法
かまくらのような形は、雨や雪を防ぐ屋根の機能を果たし、来館者を温かく迎え入れる。

「大きな表現力を持った素材」

チタンは21世紀の素材だと思っています。鉄、ガラス、コンクリートなど20世紀の建築素材は、不変であることを目指してきました。その一方で、工業製品による建材は地球の環境に耐えられず劣化する素材が多くなっています。一方、チタンは耐久性があり基本的にさびない特徴がありますが、それは変わらないということではなく、ゆっくりとその変化が現れて未来につながっていくという意味で、時間を柔らかく受けとめながら環境とともに変化していける素材です。

弘前れんが倉庫美術館はそこにある光を受けとめ、その地域ならではの特色や環境を映し出した建築にすることができました。環境の時代、地域の時代に、大きな表現力を持っているチタンは、建築家にとってますます重要な素材になるのではないでしょうか。

現在、ルイ15世がパリのコンコルド広場に建てたオテル・ド・ラ・マリン内における美術館を手がけています。その歴史的建造物にあるプライベート美術館スペースの展示ショーケースに使おうと考えているのが、日本製鉄に試作してもらった再結晶化チタンです。



美術棟展示室
明治・大正期の倉庫が美術館として変貌を遂げた。



カフェ・ショップ棟
シードル(りんご醸造酒)のタンクがシードル工場であった場所の記憶とつながる。

今まで見たことのない美しい文様が浮かび上がり、チタンの可能性は「物質性」という意味でも表現が広がると思い、使いたいと思っていました。特に再結晶化されたブラックチタンは、単なる黒とも違う深い色合いで、サンプルを見たときに魅了されました。美術館には紀元前の古代文明コレクションが並びますが、チタンはそうした品々ともよく合います。何万年もかけて生み出された鉱物としての物質性が、時を超えた表現力を持っています。21世紀を生きる私たちが今しかつくれない建築を、チタンなら表現できるのではないでしょうか。まだまだ可能性を持っている素材です。私も研究を重ね、チタンの魅力をさらに引き出せるような設計を目指していきたいと思います。

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