◎長田先生が研究されている感性工学とは、どのような学問なのでしょうか。
ひと言で表現すれば、人間の感性を科学的に解明する学問といえます。ある製品をつくるときに、どうすれば消費者に共感してもらい、心を動かすことができるか。それをものの性質からアプローチして、感性と物性の関係を数値化、モデル化する研究をしています。
ひと言で表現すれば、人間の感性を科学的に解明する学問といえます。ある製品をつくるときに、どうすれば消費者に共感してもらい、心を動かすことができるか。それをものの性質からアプローチして、感性と物性の関係を数値化、モデル化する研究をしています。
◎具体的に教えていただけますか。どのような研究事例があるのでしょう。
そうですね、直近だと、ある化粧品メーカーとの共同研究があります。たとえば「透明感」という言葉は美しい肌を象徴するキーワードのひとつですが、その定義はこれまで明確ではありませんでした。
そこで私たちは、素肌に対する印象語とメイク肌に対する印象語を集めてモデル化してみました。すると、それぞれの肌における透明感には違いがあることがわかったんですね。素肌の場合はナチュラル感やキメの整った質感など、視覚からの情報が透明感を左右していました。一方、メイク肌の場合は、なめらかさやすべすべ感といった触覚にアプローチする要素が透明感を強く感じさせていました。
素肌とメイク肌で透明感の感じ方が異なるという事実は大きな発見でした。その結果を受けて、化粧品メーカーは新たに「触覚の透明感」というコンセプトを立て、パウダーファンデーションの新商品を開発しました。
そうですね、直近だと、ある化粧品メーカーとの共同研究があります。たとえば「透明感」という言葉は美しい肌を象徴するキーワードのひとつですが、その定義はこれまで明確ではありませんでした。
そこで私たちは、素肌に対する印象語とメイク肌に対する印象語を集めてモデル化してみました。すると、それぞれの肌における透明感には違いがあることがわかったんですね。素肌の場合はナチュラル感やキメの整った質感など、視覚からの情報が透明感を左右していました。一方、メイク肌の場合は、なめらかさやすべすべ感といった触覚にアプローチする要素が透明感を強く感じさせていました。
素肌とメイク肌で透明感の感じ方が異なるという事実は大きな発見でした。その結果を受けて、化粧品メーカーは新たに「触覚の透明感」というコンセプトを立て、パウダーファンデーションの新商品を開発しました。
◎なるほど、それは興味深いですね。そもそも先生が感性工学を研究しようと思ったのは何がきっかけだったのでしょう。
私は1988年に電機メーカーに入社して、鋼材の表面傷検査装置の開発などをしていたんですね。ただ、これはすごく難しくて、傷があれば絶対にダメというわけではなく、たとえば模様がある部分の小さな傷はOKだったり、評価がとても感性的なんです。だからコンピュータで画一的に判断できない。どうしたものかと悩んでいた頃に、当時大阪大学の井口征士先生が手がけられていた感性工学を知り、すごく興味を持ったんです。人間の感性に対して科学的なアプローチをしてものづくりに活かすという、それまでまったく出会ったことのない学問でしたから。
ちょうどそのとき、ある真珠メーカーから真珠の鑑定をする装置を作れないかという相談がありました。真珠って厚さが0.5ミリほどで、約1000枚の薄い層でできているんです。そのひとつひとつの層が光を反射しているのですが、光は波と同じ性質を持つので、いっしょになって強め合ったり、逆に打ち消しあったりすることによって、ピンクだったり緑だったり、真珠独特のあの美しい色があらわれます。これを薄膜干渉と呼びますが、この色の出方も真珠の価値のひとつになっているんです。
鑑定装置を開発するには、真珠の美しさとは何かを定義する必要があります。だからまずは鑑定士さんたちにヒアリングをして、巻きがどうだとか、照りがどうだとか、はんなりしてるとか(笑)、匠の感性がぎゅっとつまった言葉を採取して、真珠の価値をモデル化する作業から始めました。途中、上司から「そんな儲かりもしない仕事はやらなくていい」と言われながらも(笑)、なんとか鑑定装置を完成させることができたのですが、この仕事をきっかけに感性工学を本格的にやろうと決心して、井口先生のもとで学んで35才のときに博士号をとりました。
私は1988年に電機メーカーに入社して、鋼材の表面傷検査装置の開発などをしていたんですね。ただ、これはすごく難しくて、傷があれば絶対にダメというわけではなく、たとえば模様がある部分の小さな傷はOKだったり、評価がとても感性的なんです。だからコンピュータで画一的に判断できない。どうしたものかと悩んでいた頃に、当時大阪大学の井口征士先生が手がけられていた感性工学を知り、すごく興味を持ったんです。人間の感性に対して科学的なアプローチをしてものづくりに活かすという、それまでまったく出会ったことのない学問でしたから。
ちょうどそのとき、ある真珠メーカーから真珠の鑑定をする装置を作れないかという相談がありました。真珠って厚さが0.5ミリほどで、約1000枚の薄い層でできているんです。そのひとつひとつの層が光を反射しているのですが、光は波と同じ性質を持つので、いっしょになって強め合ったり、逆に打ち消しあったりすることによって、ピンクだったり緑だったり、真珠独特のあの美しい色があらわれます。これを薄膜干渉と呼びますが、この色の出方も真珠の価値のひとつになっているんです。
鑑定装置を開発するには、真珠の美しさとは何かを定義する必要があります。だからまずは鑑定士さんたちにヒアリングをして、巻きがどうだとか、照りがどうだとか、はんなりしてるとか(笑)、匠の感性がぎゅっとつまった言葉を採取して、真珠の価値をモデル化する作業から始めました。途中、上司から「そんな儲かりもしない仕事はやらなくていい」と言われながらも(笑)、なんとか鑑定装置を完成させることができたのですが、この仕事をきっかけに感性工学を本格的にやろうと決心して、井口先生のもとで学んで35才のときに博士号をとりました。