2025/01/06
日本製鉄株式会社
代表取締役社長 兼 COO
今井 正
世界ではウクライナや中東での紛争が継続しており、国際経済への影響も懸念されます。また、米中間の政治経済面での対立が激化し、グローバル経済は経済安全保障という名の下で、自国優先の通商政策が拡大し、マーケットの分断はますます深刻化するでしょう。
鉄鋼分野においては、中国経済の減速による需給ギャップの拡大が、今後長期間に亘る構造調整となることは確実です。国内の鋼材需要は減少を続けており、今年度は約5000万t程度と、1990年のピークからは実に4割以上減少しています。人口減少、少子高齢化などを踏まえれば、今後も内需が回復することは想定し難い状況です。
このように、極めて厳しい状況においても、当社は実力損益6,000億円以上という目標を実現することができました。今年は、更なる成長戦略を、次期経営計画として具体化する年となります。継続して厳しい事業環境に直面することになりますが、これも当社の総合力を示すための試金石とし、心新たに取り組みたいと思います。
今後の具体的な課題と取り組み方針について述べます。
中核事業である国内製鉄事業については、一連の生産設備構造対策が、本年度末の鹿島地区の高炉1系列の休止で一つの節目を迎えますが、これを粛々とやり抜きます。また、営業、製造、研究が力を合わせ、それぞれの役割と責任を果たすことが当社の総合力の根幹であり、今後もその強化に努め、当社が国内外の鋼材マーケットにおいて圧倒的なNo.1となれるよう、取り組んでいきます。
当社グループの成長エンジンとなる海外事業については、既に連結収益に大きく貢献している原料事業について、引き続き優良案件を発掘しつつ、カーボンニュートラルに向けた冷鉄源に関する総合戦略を新たに推進します。海外製鉄事業については、堅調な経済成長が続くインドAM/NS Indiaでの能力拡張計画の推進と、アセアンでは中国材の影響で特に厳しい状況となっている、タイG/GJスチールの立て直しに注力します。米国についても当社の技術力が生かせる成長市場という位置づけは不変です。米国大統領からUSスチール買収に対し禁止命令が下されましたが、当社は米国事業の拡大を決してあきらめず、法的権利を守ることも含め、あらゆる対策を追求します。1億トン1兆円ビジョンの実現をマイルストーンに、世界の競合他社に打ち勝っていくには、当社が考える重要な戦略地域を中心とした海外事業の拡大が不可欠です。
気候変動問題への対応について、2030年でのCO2排出30%削減に向けて、国の産業政策と一体となった取り組みを推進します。競争力ある技術開発、エネルギー等の産業インフラ整備、市場形成を含む設備投資回収の予見性の確保という3点に、マスバランス方式をベースとしたGXグリーンスチールの国際標準化等のルールメイキングを加えた4つの課題に関して、国のGX実行会議や産業界と一体となり、同時並行的に取り組んでいきます。
安全、環境、防災、品質保証への対応については、信用・信頼を大切にする企業であるという経営理念に基づき、従業員の安心・安全の確保とコンプライアンスに向き合っていきます。
グローバル成長戦略を変わらぬ基本方針とし、厳しさを増す事業環境においても更なる成長を目指し、全社員の心をひとつに、今年もチャレンジしていきます。