ENGLISH
ホーム > ユーザーボイス > 建築家 隈研 吾 | Kengo Kuma

ユーザーボイス

建築家隈 研吾

素材と場所に根ざした建築の
新しい出会いが始まります

隈 研吾(くま・けんご)
1954年神奈川県生まれ。79年東京大学大学院建築学科修了。コロンビア大学客員研究員、慶応義塾大学教授を経て、2009年から東京大学教授。建築作品は「森舞台/登米町伝統芸能伝承館」「根津美術館」など国内外に多数ある。

素材の力が絆をつくる

 鉄やチタンといった金属素材は、工業製品で人工的と思われがちです。しかし金属素材を形成する元素は、地球をつくっている材料です。だから、ぼくは金属素材を大地から手に入れた大切な贈り物だと思っています。この大地から手に入れた感覚を、建築のなかに感じられるような使い方をしたい、単なる工業製品という使い方はしたくないと考えています。

 20世紀の公共建築は、都市の成長や規模の拡大に応じて、町の中心から郊外へ移動し、駐車場のなかの孤立したコンクリートの箱となる傾向がありました。この時代の流れを反転させるため、21世紀の建築に一番大切なことは何か、自問自答を繰り返しました。その場所に残るような絆を構築できる建築について、ぼくはずっと考え続けました。

 例えば、新潟にあるアオーレ長岡では、立地を街の中心部に戻して、市庁舎という大きな建物のなかに、市民のコミュニケーションの中心となるナカドマと名づけた土間を設けました。壁には木をたくさん使い、建築をあたたかくして、人の絆を喚起しました。鉄も大事な主役としてデザインしています。ガラス張りの鉄骨トラス造の大屋根から、柔らかい自然光がナカドマに降り注ぎます。仰々しい建物の外観が消え去り、土と木の質感だけが残ります。

 アオーレ長岡には、毎日のように集まる常連ができたそうです。大変うれしいことです。素材の力が大きかったと思います。


竹屋 Great(Bamboo)Wall(2002年北京北部) (c)Satoshi Asakawa


シティホールプラザ アオーレ長岡(2012年新潟県長岡市)

チタンはワクワクする素材

 ぼくらは素材の力を建築に取り込むため、早い段階で素材をイメージして設計することを心がけています。一般的には素材を最後に決定するやり方が多いのですが、そうすると時間切れになってしまって、ありきたりなディテールや使い方しかできないことがあります。しかし最初に「ここは何の素材でできたらいいかな」と考え始めると、その素材を活かしたデザイン・ディベロップメントにじっくり時間をかけられます。素材の使い方としては、どこか違う所から運んできたとしても、建築ができ上がってみると、いかにもその素材が大地から生えてきたという感じがするのが理想的です。

 今、興味を持っている素材の1つにチタンがあります。外装や屋根に使ってみたいと思っています。チタンはある種の土っぽさを持っています。土だけど、強度がある。ワクワクするような素材です。さらに触ったとき冷たくないのが、すごく不思議です。実は座ったときお尻が冷たくない椅子をつくりたいと思い立ち、チタンを使った椅子のデザインにチャレンジしているところです。

 金属素材は脱工業化社会の流れのなかで、もう1度主役の座を取り戻せると思っています。そういった社会では、コミュニケーションの基本となる場所が主役になります。そのとき物としての建築ではなく、場所としての建築が求められます。場所としての建築は、単なる性能やコストだけではなく、素材と場所との相性が問題になってきます。場所に根ざした建築と素材の新しい出会いが、これから始まります。そういう出会いを、ぼく自身いろいろ演出したいし、日本製鉄にもぜひ手伝ってほしいと願っています。(談)

Follow Us!

Fecebook Twitter Instagram Linkedin Youtube
公式SNSのご紹介へ