技術開発
素材としての可能性を極限まで引き出すこと、
すなわち「鉄を極める」という目標に向け、私たちは挑戦し続けています
鉄分供給による藻場再生で海の砂漠化を防ぐ
磯焼けの広がりにより、魚介類の生息場だけでなく産卵場所まで消失していることが全国的な沿岸海域の問題となっています。豊かな海の生態系を取り戻すため、藻場の再生を促進することが大きな課題となっています。当社は東京大学、(株)エコグリーン、西松建設(株)とともに、鉄鋼スラグなどの鉄分を含有する物質と廃木材チップを発酵させた腐植物質とを混合することで生成するフルボ酸鉄が、海藻類の成長促進に有効であることに着目し、磯焼けを改善するための共同研究に取り組み、2004年10月から北海道増毛町の実海域で鉄分供給による施肥実験を開始し、藻場再生に大きな成果をあげています。
増毛町では、磯焼け対策として独自に発酵魚粕を用いた海域施肥実験を積極的に進めていた増毛漁業協同組合の協力を得て、磯焼けが深刻な舎熊海岸の汀線(波打ち部の陸側)約26mにわたって、当社が開発した施肥ユニット「ビバリー®ユニット」を埋設しました。ビバリーユニットは鉄鋼スラグと腐植物質の混合物をヤシ繊維で編んだ袋に充填したもので、海岸の汀線に埋めることにより波や潮の干満によってユニット中の鉄分が海中へ供給される仕組みです。2005年6月の調査では、すでにコンブをはじめとした海藻類が繁茂し、施肥した実験区海域の単位面積当たりのコンブ生育量は、施肥しなかった海域の100倍以上に及びました。かつて石灰藻に覆われ海底一面が真っ白な磯焼け状態であった増毛町の海は、現在もユニット設置部から沖合に向かってコンブなどの海藻類が豊かに生育しています。
当社は増毛町の実海域での鉄分供給による施肥効果を科学的に裏付けるため、北海道大学北方生物圏フィールド科学センターの室蘭臨海実験所でコンブの培養実験を行いました。北海道大学の本村泰三教授に研究を委託し、増毛産コンブの成熟や生長に及ぼす鉄分の効果を観察しました。その結果、コンブの雌・雄配偶体(雄しべと雌しべのようなもの)が成熟するには鉄分が必要不可欠であることを確認しました。また、コンブの胞子体(葉状体)は窒素、リンの濃度が高くても鉄がなければ成長しないことも判明しました。配偶体成熟・受精から胞子体成長へと向かう生育サイクルが回らないとコンブは成長しません。磯焼け状態が継続してコンブが生えない原因の一つとして、鉄分不足によりコンブの生育サイクルが回らなかった可能性があることがわかりました。
また、当社先端技術研究所解析科学研究部が開発した海水中の微量鉄分濃度を測定する技術を駆使して、施肥ユニットから溶出した鉄分が広い範囲に拡散している状況を明らかにしました。こうして実海域における鉄分濃度と藻場再生の関係をデータで明確化することで、ビバリーユニットの有用性を実証してきています。
さらに、2009年4月、海の森づくりにおける鉄鋼スラグ利用の有用性と安全性を科学的に解明するため、千葉県富津市の技術開発本部に「シーラボ」(海域環境シミュレーション設備)を開設しました。シーラボでは干潟や浅場を再現した水槽を設置し、沿岸海域環境や藻場再生に関するさまざまな模擬実験を行っています。