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ユーザーボイス

株式会社イチバンセン
ICHIBANSEN/nextstations 一級建築士事務所代表川西 康之

「地域と共に考え、
 未来へカタチに夢を乗せる」

株式会社イチバンセン
ICHIBANSEN/nextstations 一級建築士事務所代表
代表取締役社長 川西 康之 氏 (Yasuyuki Kawanishi)


1976年(昭和51年)奈良県川西町生まれ
千葉大学 大学院 自然科学研究科デザイン科学(建築系)博士前期課程修了
デンマーク王立芸術アカデミー建築学科 招待学生
  Det Kongelige Danske Kunstakademis Skoler for Arkitektur
  The Royal Danish Academy of Fine arts, school of Architecture
オランダ DRFTWD office Amsterdam 勤務
文化庁派遣新進芸術家制度にて、SNCF-AREP フランス国有鉄道交通拠点整備研究所 勤務
株式会社栗生総合計画事務所 勤務
CUT (Chiba University Team) 共同主宰

現在、株式会社イチバンセン ICHIBANSEN / nextstations 一級建築士事務所 代表取締役
国立大学法人 千葉大学 工学部 建築学科 非常勤講師
設計組織 nextstations 共同主宰
グッドデザイン賞 審査員 兼 フォーカスイシューディレクター

主な受賞歴
えちごトキめきリゾート雪月花(新潟県)
SBID International Design Awards 2016 Winner of Design for public(国際デザインアワード公共デザイン部門最優秀賞/英国)
IDA 10TH International Design Awards GOLD Winner(米国国際デザインアワード金賞、アメリカ合衆国)
FDA Asia Design Awards 2016 Silver Award(アジアデザイン賞銀賞、香港)ASIA DESIGN PRIZE (大韓民国)
鉄道友の会ローレル賞2017日本産業デザイン振興会グッドデザイン賞2016 公益社団法人国土緑化推進機構ウッドデザイン賞
ふるさと名品オブ・ザ・イヤー 地方創生賞 一般社団法人照明学会 照明普及賞
土佐くろしお鉄道中村駅リノベーション(高知県)
The Watford Group Brunel Award 2014(ワットフォードグループ ブルネル賞優秀賞、オランダ)
日本産業デザイン振興会 グッドデザイン特別賞2010 中小企業庁長官賞
国土交通省 第9回日本鉄道賞特別表彰 地方鉄道駅舎リノベーション賞 The Great Indoors Award 2012 Serve & Facilitate Final 5(オランダ)公益社団法人 土木学会 デザイン賞 2012
最優秀賞 高知県建築設計監理協会 高知県建築文化賞 審査員特別賞
NPOキッズデザイン協議会 第5回キッズデザイン賞 日本商環境設計家協会 JCDアワード2010 新人賞
木材活用コンクール 最優秀賞 林野庁長官賞 日本サインデザイン協会 SDA賞2010 入選 社団法人鉄道建築協会 鉄道建築協会賞
公共の色彩賞 10選 入選 一般社団法人照明学会 照明普及賞
日経アーキテクチュア(日経BP社刊)「次世代の変革者100人」選定

■見えないニーズをカタチにしたい

 私たちの原点は、社名のとおり鉄道駅にある。しかし、私を含めて社員が鉄道マニアということではない。
10年前、独立後間もない初めての仕事がたまたま鉄道駅だった。四国の小さく古びた駅をリノベーションしたいという機会に恵まれた。予算は少なかったが、「お前に任すきね」という不思議な自由があった。事前に鉄道会社が調べた乗客アンケート調査で第一位「汚いトイレを何とかしろ」だった。本当に乗客や住民が一番欲しいニーズは、単にキレイなトイレなのか?鉄道利用者の減少、過剰な車社会、少子高齢化、過疎化、産業や商業の空洞化などの深刻な地域の問題に対して、この駅のリノベーションはどう向き合えるんだ?私たちは、地元特産のヒノキという材料を使って、地域の学生たちに喜んでもらえるように駅を自習室にした。また、その待合室に居ると、美人に見える仕掛けを設計した。田舎の小さな駅にこそ色気をもたらすこと。人口が少ないからこそ、贅沢な空間をつくろう。さすれば、都市に流出した若者は田舎の豊かさをきっと将来思い出すだろう。そんな駅をつくった。もちろんトイレもヒノキで改修した。結果、この駅ではたくさんのイベントが生まれ、ゴミが減り、マナーの悪い無法者は消えた。国内外で数え切れないほどの賞を頂いた。
それがご縁で以後、鉄道駅を中心とした広場や公園、まちづくり、公共施設、保育園・幼稚園、医療施設、障害者支援施設、旅館、集合住宅などの他、鉄道車両、バス、船舶などをグラフィックからトータルに手掛けている。というと格好良さそうに聞こえてしまうが、実際は日々現場に張り付いて、無責任な発言や 大きいだけの声を掻き分けて、アンケートや多数決の声を疑い、声なき声の奥にある、見えないニーズを探り当てる作業を続けている。建築や街に寄せられるたくさんの声に寄り添い、ニーズや課題を整理し、見える化し、課題解決に向けた優先順位と知恵を共有することも私たちの大切な仕事だ。
人々が本当に欲しいニーズを根拠に、私たちは合理的なカタチや色を導き出す。そこに、私たちが自己主張を介入できる余地はなく、ニーズから空間に翻訳する作業と言って良い。デザイナーや建築家は表現者ではなく、司会者であり翻訳者だ。そのうえで、誰に向けて、どんな感動を提供するのか?時間の許す限りキメ細かい仕事をしたい。可能な限り未来に続く、より多くの人たちに愛される空間を提供したい。


■えちごトキめき鉄道/雪月花について

 新潟県を走る観光列車「えちごトキめきリゾート雪月花」(以下、雪月花)のデザインをお預かりする機会に恵まれた。新潟県はf上越・妙高・糸魚川地域の観光起爆剤として、インパクトのある観光列車の導入を決めた。
私たちは空間設計と同時に「その人の時間をどうデザインするか」ということを考える。乗客の移動時間、食事時間をどう演出するのか? まず、お客様に新しい視点を提供しようと考えた。雪月花の車窓から見える妙高山を望む風景は、100年前と変わらない。そこで、様々な視点が持てるバラエティ豊かな座席を多数用意し、床の高さも一部変更し、左右に広がる景色をお楽しみ頂けるよう、フリースペースを散りばめて車内の回遊性を高めた。同じ座席に座り続けるのではなく、意外性のある車内を歩き回ることで、より感動が増し、疲れも取れるだろう。わずか2両編成ながら、エリアごとに越後杉や安田瓦など新潟県産の素材を様々に展開し、車内を探検する楽しさを演出している。
観光列車は、地域住民の支えなしでは成功しない。そこで雪月花の車体ボディや内装、乗務員の制服に至るまで、可能な限り地元の技術や素材を採り入れることにした。地元で「雪月花はオレの技術が使われている」と誇らしげに自慢して頂きたい。

■IMタクシーラウンジについて

 上述の雪月花の始発終点駅でもある上越妙高駅では、新型コロナウィルス蔓延前、インバウンド需要の高まりを受けて、タクシー利用客の増加に車両手配が追い付いていなかった。寒い冬や暑い夏、お客様は空調がない外部で待たざるを得なかった。この課題を解決するため、タクシー会社自ら駅前に待合室「IM タクシーラウンジ」を設置することにした。ただし、投資コストの関係で建設費を抑制しなければならないため、木造平屋建てという小さな規模になった。ラウンジ内部の豊かさを駅前で魅せるため、木造在来工法ながら広場側の開口部を確保するためV字型の三翼柱を設置して、耐震性能を確保した。真冬でも駅前で暖かな雰囲気を街に提供している。木材は地元新潟県産木材、外壁には経年変化が楽しめるようにコールテン鋼仕上げとしている。
私たちの設計やデザインでは、完璧な美しさは追求しない。公共空間は様々な人々が関わり、維持管理する。完璧な美しさを求める建物のサイン看板が小さすぎて、後からカラーコピーを貼り付けたようなデザインの破綻はよくある。私たちは可能な限りそのような後からの追加を受け容れる設計としたい。少し笑いや突っ込みどころがある程度がちょうど良い。IMタクシーラウンジでは、日本製鉄の意匠チタンTranTixxii(トランティクシー)をご提案頂き、室内のサインに活用している。

■上越市/文化・歴史への思い、意匠チタンTranTixxiiとのコラボレーション

 上越市は奈良時代からの越後の拠点であり、豊かな頸城平野の中心地である。高田城や春日山城などの城跡やスキーリゾートが著名だが、日本製鉄さんの直江津地区のほか様々な工業や発電所などが集積する工業地帯でもある。日本製鐵の意匠チタンTran Tixxiiは、正真正銘のMade in 上越市だ。ただし、一般市民や観光客からすると、工業地帯で具体的になにを生産しているのか?を知ることは難しい。私たちのような観光列車やタクシーラウンジ、ホテル・旅館などが積極的に、上越市にしかない価値を打ち出してゆくことは、今後とくに大事だろう。




■今後の展望と意匠チタンTranTixxiiへの期待

 意匠チタンTran Tixxiiはとても美しく、これまでにない雰囲気のサインを創り出してくれた。コストの課題はあるが、とても将来性のある素材と言えよう。私たちは建築と移動空間の設計デザインに関わっているが、一般の建築空間を人々が被験する際の感度と比較して、とくに観光列車の車内では人々の感度が極めて高いのでは、と感じている。つまり、一般の建築空間でチタンや大理石を使用することは特に珍しくないが、鉄道や船舶などの狭い移動空間では、人々は空間の仕上げ素材をくまなく丁寧に見て感じる傾向が強い。軽量で薄く、様々な表現性の可能性があるとすれば、意匠チタンTran Tixxiiは移動空間や小さな建築空間にも大きな可能性があると私は感じている。



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